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第2話 俺、坂倉 葵。

 俺、坂倉 葵にはちびで元気な人気者の幼馴染がいる。環 莉沙。幼稚園の頃からの腐れ縁で、いつも俺のことをギャーギャーうるさい奴だ。

んで、同じ小学校、中学校を経て今や同じ高校である、星華(せいか)高校に進学。なんなら、2年生に上がっても同じクラス、さっすが腐れ縁。


 さっき始業式が終わり、教室にいる俺は、どことなく落ち着かない気分だった。


 教室の隅で、莉沙が友達と楽しそうに話してる。時々こっちをチラチラ見てるけど、目が合うとすぐに逸らす。


 ……?


 朝のウィンク事件で怒らせちゃったから、だろうか?


「おーい、あおいー?きーてる?」


「あ、悪い。なんだっけ?」


 前の席の小橋が肩をすくめる。


「だーからさー、文化祭のクラス企画どうするかってよー」


「あー、そういや今日みんなで話し合うんだっけ」


 そうこうしてるうちに、どうやら議論が始まったらしい。


「はーい、じゃあ2年3組の文化祭企画について話し合いましょう!」


 クラス委員長が前に立った。うちの高校は9月の文化祭の準備が早いから、他の高校よりクオリティが高いと思う。つっても、なんでこんな早く決めなきゃいけないんだよ。始業式の日だぞ?せめて、6月の合唱コンクールの事とか……。


 と思いつつも、自然と莉沙を探してしまう俺。すると、莉沙が手を挙げてた。


「はーい!私は『恋愛診断カフェ』がいいと思いますっ!」


 なんだそれ。莉沙らしいっちゃらしいけど。


「おー、それいいね!」


 女子たちが盛り上がる。

 男子もそれにつられて。

 けどまあ、男子に至っては「今日もかわよ」だの「環さん、推しだわー」だの、少々うるさい。

 これだから人気者は……。


 とりあえず、どうやら賛同者が多いらしい。


「具体的には、どんな感じ?」と少々聞き方と声音に格好がつく委員長。


「えっとね、お客さんに簡単な質問に答えてもらって、それで恋愛傾向とか相性のいいタイプとかを診断するの!それに合わせたドリンクや軽食をオススメするっていう」


 なるほど。女子ウケはしそうだな。でも、飲食の出し物は人気だし、3年生が枠を埋めちゃう気が……。


「俺は『お化け屋敷』がいいと思う」


 思わず手を挙げて言ってしまった。


「え〜、定番すぎ〜」


 クラスメイトから不評の声。だが、俺は引かない。


「いや、でも考えてみろよ。毎年、お化け屋敷って人気なんだぜ?しかも男女ペアで入る人も多いし、回転率もいいと思う。それにまだ、こーゆー出し物した事ねーじゃん?」


 俺の意見に、男子たちが「それもそうだな〜」とか「カップルとか死ぬほど驚かせてぇ〜!」とかと頷き始める。すると、莉沙が再び立ち上がった。


「でも!恋愛診断カフェなら、男女ペアじゃなくても楽しめるし、個人でも友達同士でも大丈夫だよ?もっと間口が広いと思うな〜」


「別に俺は、男女ペアじゃいけないとか言ってないけどなー?」


 なんだか俺と莉沙で意見が真っ向から対立してる。

 こんなこと、何気に小学校以来かも。


 結局、クラス投票になって、


「恋愛診断カフェ、18票!お化け屋敷、15票!その他の案、7票!よって、今年の文化祭は恋愛診断カフェに決定しまーす!」


 ……負けた。莉沙に。


 放課後、クラスの皆は部活に行ったり家に帰ったり。

 教室に人が居なくなると、莉沙が帰宅の準備をしてる俺の机にしゃがんで寄ってきた。


「ねぇねぇ、お化け屋敷派だったんだ〜?意見するなんて、珍しいじゃないか〜」


「別に珍しくもないだろ。中学の時も、俺やりたがってたじゃん」


「あ、そうだっけ?」


 ったく、覚えてないのかよ。俺は中学でもお化け屋敷企画を出したんだけど、その時も莉沙の「メイドたこ焼き」案に負けたんだ。

 今回のカフェもどこか似てる気がする。


「まあいいや、負けは負けだし」


「そんな拗ねないでよー、ねー。それより、文化祭委員に私たち二人、立候補しない?」


「は?なんで俺まで?」


「だって葵、何気に工作得意じゃん!小学校の時、夏休みの自由研究ではめっちゃ凝った模型作ってたし」


 そっちは覚えてんのかよ。でも確かに、モノ作りは嫌いじゃない。


「でもなぁ……」


「お願い!私一人だと不安だし!」


 莉沙が両手を合わせて、ウルウルした目で俺を見上げる。こうなると断れないんだよなぁ……。


「わかったよ……」


「やったー!」


 莉沙は嬉しそうに小さく拳を上に突き上げた。


 そうして俺と莉沙は、文化祭委員に立候補することになった。

 まあ、文化祭委員の男子枠はかなり大荒れだったけど勝ち取って、「幼馴染なら良いだろ……そこ譲れっ!」とか色々言われたっけ。


 その翌日、委員会の初顔合わせ。教室に集まった十数名の前で、莉沙が元気よく企画の説明をしている。んで、俺はポツンと立ってるだけ。


「それで、ドリンクメニューは5種類くらいかなって感じです。『一途な恋人タイプ』はストロベリーミルク、『情熱的恋人タイプ』はトロピカルジュース、『クールな恋人タイプ』はブルーハワイソーダみたいな……」


 熱心に話す莉沙を見てると、なんだか小学生の頃を思い出す。いつも行事のたびに張り切って、みんなを引っ張ってた。


 ……でも、なんか最近の莉沙はいつもより一層様子がおかしい。


 いつからだろう?髪型変えたり、香水つけたり。ちょっと大人っぽくなった気がする。まあ、本質はあの頃から変わってなかったりする。


「葵くん、何か意見ある?」


 委員長に急に振られて、俺は慌てる。


「あ、いや……その、装飾も凝るので自分がその担当を……しようと思っていまs」


「ほんと……!?ありがとう!」


 莉沙がやや食い気味に反応する。

 委員会では「話まとまってなかったんかい」と言わんばかりに笑いが起きた。


 帰り道、莉沙と二人で歩いてた。


「葵、さっきはありがとね!装飾担当、引き受けてくれて」


「いや、別に。なんか、笑われたし。まあでも、得意なことならやるよ」


「でさ、診断コーナーの飾りつけ、どんなイメージがいいかな?」


「うーん……恋愛診断なら、ハートとか星とか?」


「まあ、そうだよね。あとさ、個室っぽい空間の方が、お客さんも話しやすいと思うんだ」


 莉沙はどんどんアイデアを膨らませてく。この企画に対する情熱は本物だな。


「でもさ、なんで急に恋愛診断なんて思いついた?」


 ふと疑問に思って聞いてみた。すると、莉沙の顔が一瞬にして真っ赤になる。


「べ、別に!恋愛って女子は興味あるじゃん?普通にね!」


「そ……」


 ほら、今までじゃそんな事言っても顔色一つ変えない莉沙の様子がどこかおかしい。


「なな、莉沙って……誰か好きな奴とかいんの?」


 言葉が口から出た瞬間、自分でもビックリした。こんなこと聞くつもりなかったのに。


 莉沙は足を止めて、俺をじっと見た。その目は何かを訴えてるようで、俺は思わず息を呑む。


「……葵は?」


「え?」


「葵は誰か好きな人いるの?」


 逆質問された。しかも真剣な顔で。


「い、いや、別に……今は……」


 なぜか言葉が詰まる。莉沙はそんな俺の反応を見て、しかめっ面。


「そっか……じゃあ私も同じかな!今は別に」


 俺を小突く。


「あ、そうだ。この前の朝のウィンクの件だけど…」


「え?あ、あれ?」


 莉沙が今度は恥ずかしそうに目を逸らす。


「あれって、なんか意味あったの?」


「べ、別に!練習してただけだし!」


「練習?」


「う、うん!別に葵相手にマジでしたわけじゃないし!」


 なんだか慌てる莉沙。そんな姿を見て、何となく胸がモヤモヤする。


 なんでだろう?莉沙が他の奴のためにウィンクの練習をしてるって想像したら、なんか……嫌だ。


「……じゃあ、俺に一回、マジでしてみれば?」


 えっ?今、俺、なんて言った?


 莉沙も驚いた顔で俺を見上げてる。


「え……?」


「い、いや!その……友達として、アドバイスできるかなってさ!」


 何言ってんだ、俺。慌てて言い訳する。でも、莉沙の表情が明るくなった。


「じ、じゃあ……見てて!」


 莉沙は少し緊張した様子で、片目をギュッと閉じた。なんだこりゃ、めちゃくちゃ不自然だぞ。


「いや、なんかごめん。なんか、それはさすがに変な顔だって」


「やれって言ったのそっちでしょーがっ!もー!失礼な奴!」


 莉沙が俺の腕を叩く。ツンツン言いながらも、どこか嬉しそうに見える。


 家の前で別れる時、莉沙が言った。


「明日も遅刻しないでね!家に押掛けるからなーっ?」


「わかったから、ほら、シッシッ」


 俺と莉沙。幼稚園前からの幼馴染。

 まあ、いつも通り様子はおかしい。


 俺は家に向かった。頭の中には、莉沙のぎこちないウィンクが焼き付いていた。

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