ACT
西暦1800年頃、田舎に住む一人の少年が突如として奇妙な力を使い出した。
それに追随する様に、世界中で少年少女の不可解な力の発現が確認される。
やがて彼等は【リバース】と呼ばれる様になり、人類の歴史に暗い影を落とす事になる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「草むしりも立派な慈善活動、つまり警察官の仕事だぞー。さぁ働け!働け!」
「隊長、うちは特殊部隊です」
【ACT】は対リバースを専門とする特殊部隊、50年前の大戦以降日本国内のリバースによる犯罪を大幅に減少、世界で一番治安の良い国の顔役。
……の筈なのだが、入隊して二週間東京第一部隊はボランティアしかしていない。
「はじめくぅん、元気がないねぇ〜」
「気持ち悪いです」
このベタベタと、気持ちの悪い声でくっついてくるおじさんは、御船 練。
東京支部第一部隊の隊長で、俺達新人二人の教育係の様な人だ。
190ある体躯で引っ付かれると重いので、早く退いて欲しい。
「ハハっ、まぁでも教育チームだからねぇ。危険な仕事は第二がやるし、大人しくボランティアをするしかないんだよ」
「分かってますよ、それ位は」
「でもはじめはまだマシだよ、ある程度は能力活かせるからね」
「あー……」
少し離れた所で、鼻歌を歌いながら草をむしり続けるかえでさん。
俺と同じ今年度からの入隊で、一週間位前までは文句を言っていたが、ついに全てを諦めてボランティアマシーンと化してしまった。
眼球が見えないレベルの糸目なので分かりにくいが、多分目は死んでいる。
「………頑張ろうな」
「…そうですね」
能力を活かしたいと、初日の挨拶で意気込んでいた彼女は生きているのだろうか。
壊れてしまった彼女を憐れみながら、作業を再開する。
今清掃している場所は警察学校が使用する訓練所で、リバース専門の養成高校にいた身にはかなり新鮮だ。
「なんか空気澱んでません?ここ」
「厳しいからねぇ、警察学校は」
「養成高校もですけど、何であんな教官怖いんですかね」
ドラマや映画等の世界では、当たり前の様に警察学校は悪いものとして作られる。
それもそのはずで、半ば恫喝に近い教育を実際にしてしまっているからだ。
自分も初めて怒鳴られた時は、本当に泣きそうだったし、部屋戻ってから泣いた。
「先輩から聞いた話なんだけどさ、【アルテラ】ってあるじゃん?」
「はい、国連版ACTですよね。噂では隊員が二人しかいないって」
【アルテラ】は国連が持つ特務機関で、この世で唯一あらゆる場所での処刑が可能な組織で、最強の人類が所属しているらしい。
実態はわからないものの実力は確かで、発足以降世界のリバースによる犯罪件数を一割未満にまで減らしてしている。
「そう、入った事あるんだって養成高校に」
「というか日本人だったんですね」
「うん、それで初対面で見下してくるじゃん?教官って、そしたらそいつが『頭が高い』って言って攻撃して教官大怪我させて」
「こわ」
「まぁ当然他の職員も止めに来るんだけど、そいつらも全員やられちゃって」
「どうなったんですかそれ」
「勿論、ACTも入っての大混戦で、最終的に『飽きたから帰る』って帰ったらしい」
「もしかして俺たちも会うことあります?」
「ある」
「うわぁ」
隊長と話しながら二時間、東京第一は指定された区画の清掃を終えた。ちなみにかえでさんは一度も会話に入ってこなかった。
「お疲れさん、今日は午後ないからこのまま解散ね」
【ACT】は週休2日制かつ、週最後の出勤は午前のみというホワイトな職場だ。
緊急で要請が入れば休みが無くなることもあるが、基本はかなり緩い。
「俺たちこれからご飯食べに行くけど、かえでも来る?」
「牡丹さん達と食べるのでパスで」
「あらら」
解散前にそんなやり取りをしていると、耳につけている小型の通信機が振動する。
「ん?」
どうやら全員に通知が来ている様で、各々小型の通信機を起動して連絡に応答する。
『すみません、第二の牡丹です!』
「応答しました。第一のはじめです」
相当緊急を要するのか、かなり慌てた様子の牡丹さん。東京支部の実質的な管理者なので度々連絡は来るのだが、今日は様子が違う。
『警視総監からの要請です。端末にマークされた銀行で立て籠り事件が発生。犯人はリバースによって作られた何らかを所持しているとの事。第一部隊は現場に急行し、犯人の捕獲と人質の安全を確保してください』
それは待ち望んだ仕事の連絡。
政府から支給された多機能携帯のマップに赤いマークが付いている。
ここからなら徒歩五分程、走れば二分で着けそうだ。
「やれやれ…何の連絡かと思えばお仕事かぁ」
「逆に何だと思ったんですか?」
「牡丹ちゃんからの個人的な連絡か「「絶対ない」」と……」
「……君達当たり強くない?冗談なのに…」
初任務への緊張を解そうと気を遣ってくれるのは嬉しいが、無いものは無い。
何より今は緊張よりも期待が強い。かえでさんの目も開きっぱなしだ。
「…どうやら気遣いの必要ないみたいだね」
隊長は俺達のやる気充分な姿をみて微笑むと、少しだけ伸びて姿勢を正す。
「新人君達」
「お待ちかねの仕事の時間だよ」
言葉の通り、待ち望んだ自身の存在を証明する機会。
少しだけ震える足で現場へと駆け出した。
ありがとうございました。
ミス等ありましたらご報告ください。




