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短いです
「明日で俺がこっちに帰ってきて三日目だな。ここまで人生で一番楽しい思い出を作れている。別に思い出を作るために帰ってきたわけではないが、忘れられないものを作れていると思う。
俺、お前に聞きたいことあるんだけど。聞いてもいいか?」
「いきなりどうしたの?明日のこととか?」
背中を向かせ座らせているため顔を見ることができないのが功を奏した。ずっと聞かなかった、というより聞けなかったことを口にしようと震える心を抑える。
「お前、今何歳だ?」
「え。」
「最初から異変に気づくべきだったんだ。あんな深夜の時間に駅に迎えに来ることをおばさんが許してくれるはずがない。それにあの日からお前は家に帰っていない。」
何故か溢れる涙を隠しながらその背中に抱きつく。感情のコントロールができていない。溢れるままに現れていた。
「本来お前はそんな姿じゃなかったはずだ。だって年齢差を考えればお前は大学生のはずだろう。なのに中身も見た目も高校生のときのままだ。」
それに、と言葉を続けようとするが、それは彼女の口によって封じられた。膝の上に居たはずの彼女は向き合う体制に変え、頬に手を当てながら優しく触れてきた。まるで、その先を拒むようだった。二度触れたあと、言葉の出ない俺の流れる涙を拭うように口づけを顔に降らす。
「奏兄ちゃん。ごめん、今はそれに答えられない。でも明日、最後に僕の行きたいところに付き合ってくれるんだったら僕も覚悟を決める。」
「分かった。どこに行きたいんだ?」
震える声で尋ねると、先程まで自分が見ていたパンフレットを持ち指さした。それは、自分が見ていたページの2つめくった先にあった写真だった。
「花火大会。ここらへんは冬でもやってる行事だからね。いつか奏兄ちゃんと行きたかったんだ。」
その会場はイルミネーションの施設から近くにあり、時間帯を考えれば自信の予定をうまく噛み合わせることができると考えた。
「分かった。一緒に行くし、きちんと話してほしい。本当のことを。」
「約束するよ。」
まさか、泣くなんてね。ポロッと彼女から溢れた言葉に顔が熱くなる。不安で泣くなんて子供じゃあるまいし、醜態を晒してしまった。でも、恥ずかしいや怖いよりも、彼女なら大丈夫だという安心があったから思わず行動に写してしまったという方が正しいだろう。
「お前の前だからだよ。なんとか取り繕おうと思ってもできない。恥ずかしい限りだな。」
「何いってんの。今更だね。どんな奏兄ちゃんでも僕は大好きだよ。」
ああ、こいつはこういうやつだった。記憶の中の幼い彼女からは少しからかいの含む言葉しか出てこないくせに、今目の前にいる彼女はほしい言葉をストレートにくれる。歳を重ねれば重ねるほど難しくなることをそれとなくやってのけている。
「僕、眠くなってきちゃった。先にシャワー入ろうかな。」
「行って来い。その後交代な。」
タオルを持ってバスルームへ向かう後ろ姿を見届けるとソファーに背を預け横たわる。きっと本当のことを知ったら何かが変わってしまうのだろう。知りたいという気持ちと知らないほうがいいのではという気持ちがせめぎ合い、頭が纏まらない。ぐるぐると混ぜられ、目眩がするようだった。
「俺、どうしたいんだ。」
思考がまとまらなくなってきたころ、視界も狭くなり始めた。まだ、若いと言えども一日動けばそれなりに体力は消耗する。完全に瞳は閉じてしまい意識が途切れるのも時間の問題になっていた。
夢を見ている。そう実感するには時間はかからなかった。しかし、その夢はどこも不鮮明で見にくかった。暗い闇の中で彼女らしき人影が倒れている。思わず声を上げて叫ぶが届かない。手を伸ばそうとしても届くはずもない。それでも少しでも届くと信じて全身で彼女を求める。たとえそこにどんな結末があったとしても。途端に自分へ苦しみが襲ってくる。息ができなくなるようなそんな苦しみだった。ひどい頭痛も発症し始めた。夢の中なのに随分とリアルなものだなと一瞬思ったがすぐにのんきなことはかき消された。苦しい、苦しい。でも、俺よりもあいつのほうが何百倍も何千倍も苦しいのに。
「どうして。」
俺は、