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「あれ、何座だっけ。この前習った気がする。」
彼女が空を指差す。その先には7つの輝く星々があった。
「7個だろ?北斗七星かオリオン座だな。俺はメガネ忘れたからはっきりとは見えないけど。」
「もったいないし、ありえない。こんな綺麗なの見ないなんて。」
メガネを作り直そうかなと考えるが、そのためには度数を測り直したりしなくてはならないため、手間と時間がかかる。生活の範囲では困るほど見えないわけではなく、あくまでも遠くがぼやけてしまうほどで、眼鏡を生活で使用する人の中では軽度のほうだろう。
「作るのめんどい。生活はできるし別にいいだろ。」
「奏兄ちゃんっぽい。」
そろそろホテルに着くね。言われた視線の先に目的地はあった。
「その前に海行こうぜ。いつもの。」
「いいよ。じゃあ左に曲がって。」
砂浜に入る前、履物を脱ぎ捨て素肌に粒子を感じる。冷たい砂が細胞を歓迎し、奥深くへと迎え入れる。肌のもつ感覚全てを海という場所に捧げた。
冷たい。冬だしね。
なんて当たり前のことを言い合う程思考は低下していたのだろう。このまま一つになりたい。夜の闇夜に包まれた誰もいないこの場所が神聖なところに思えてしまった。
「なにぼーっとしてんの。冷えるよ。」
いつの間にか視界の先からいなくなった彼女は隣にいた。
「お前、タオルある?俺ない。」
「あるはずがないよね。僕、手ぶらで来たし。」
濡れた足が乾くまで砂浜の上にあるベンチに座ることにした。
「何でお前僕って言ってんの?」
少し時間が作れることに気づき彼女の方を向かず話す。
「それに、髪も切ってるし。服装も男っぽいし。もしかして。」
「いや、奏兄ちゃんが考えているほど大事じゃないよ。単純に女の子するのあんま好きじゃないな、って思っただけ。それに昔からイケメンとか、かっこいい人とかばかり見てたでしょ?だから、理想とか憧れる対象が男の人になったってだけ。ざっくりと言うと、かっこいいに憧れたってところ。」
自分の知らなかった彼女の一面に触れた気がした。きっとそれは、彼女の言葉や言動に現れるよりも前から心のなかで変わり続けた何かで、隠すのがうまいことが功を奏し、今になって完成形が露呈したのだろう。
「そうか。なら今度俺の服もやるよ。大したものはないけどな。」
「知ってる。センスすごいもんね。」
どういう意味だ、と足元の砂を蹴る。その砂は既に乾いた彼女の足を撫でて落ちた。蹴った自分の足はまだ乾いておらず包むように砂が付いてしまった。
「ほら、砂だらけ。僕に、かけようとした罰だよ。」
「もういい。裸足でホテルに行く。お前荷物持ってくれないか。」
片手に靴を持ち反対で手を繋ぐと荷物を持つことは不可能になる。
「いいよ。行こうか。」
今度こそホテルの道を進んだ。田舎といえども道路整備くらいは行われているため、裸足で歩いてもさほど痛みはなかった。フロントにいた女将さんに声をかけ鍵をもらう。ホテルに着く頃には濡れていた足は乾き、付いた砂は落ちていた。荷物とともにソファにいた彼女の元へ行き、歩いて乾いた足に靴を履かせる。荷物と彼女を両手に持ち、部屋へと向かう。
「はぁ、疲れた。やっぱりここのベット最高。」
部屋に入るなり一番にベットへ飛び乗った。彼女からは数分で寝息が聞こえてきた。
「おやすみ。」
薄っすらと明るみが見え始めた空を見ながら、カーテンを閉め部屋に暗闇を作る。彼女がベットで寝てしまったため自分はソファで寝る。彼女が起きた頃に起こされるのが目に浮かびながらその意識を手放した。