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ねぇ奏兄ちゃん、僕と付き合ってよ  作者: きなこともちお
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「俺は、お前の居ない世界なんて考えられない。」

我ながら女々しい話をしていると思う。涙を流し駄々をこねる子供のように思ったことを率直な言葉で投げる。感情のコントロールができず、制御不能になった口から言葉が溢れる。

「ごめんね。でも大丈夫、どうせ数十年後また会うんだから。」

遠すぎるだろ、と泣きながら俯くと上から彼女が抱きしめてくれた。

「大丈夫、僕はどこにも行かないしずっと奏兄ちゃんのそばにいる。」

収まることのない、心を揺らすこの悲しみをどこかに投げてしまいたかった。近くにある海に、二度と出会わないよう流してしまおうか。ふと眩しさで目を閉じると、高く上がっていた太陽の光が彼女の身体を射した。当たるのではなく、身体を通っていた。

「お前、どうして。」

はっとして顔を上げると同じくらいにひどい泣き顔の彼女と目が合う。

「あれ、どうしてかな。駅までの時間は大丈夫なはずなのに。」

何度拭っても次から次へと溢れる涙。暖かく、揺れている声。それは果たしてどちらのものなのか。その一雫に手を互いへのばす。

「もう、終わりかも知れない。最後に一緒にいるのが奏兄ちゃんで幸せだよ。それじゃあ、最後に約束してね。必ず幸せになってから会いに来ること。」

「行くなよ。俺を置いてくな。俺は、お前と、」

交錯する感情を落ち着かせられず、衝動のままに口づけをする。きっと言葉にするよりも行動で表したほうが伝わると思った。目を閉じて、彼女の感覚を全身で感じる。消えていく瞬間を見る勇気は持てなかった。抱きしめというよりは、しがみつくようにその華奢だった背中に手を回した。

腕の中から彼女の感覚が完全になくなるまで、瞳は開かなかった。腕に風が通るようになり、ゆっくりと目を開ける。その視界は水膜で閉ざされていた。太陽の光が瞳の水面で乱反射し、とても光に溢れていた。

「愛してるよ。」




家に帰ってきて、荷物を玄関に置きっぱなしにし、部屋に入る。

虚無しか感じ取れない感性をなんとか持ち直そうとした。最後に告げられた、生きてほしいという願いを叶えるためにはそうしなけばならない。でも、何をどう頑張っても見えるもの全てがモノクロだった。

「生きる。か。」

きっと、生きていると感じられたのは彼女のおかげで、生きたいと思えたのも同様だった。でも、ずっとその気持ちを持ち続けられるわけでもない。一度点いた火が、いつまでも同じ火力を保つことがないのと同じように、風が吹き、燃料が変わり、燃えるものが変わり、そうやって継ぎ足されたものによって火は存在している。

彼女は、消えかけていた火の新しい燃料になろうとしてくれた。変化をおそれ、安泰を望む自分の性格を分かった上で、彼女なりの方法で自分を生かそうとしてくれた。そう考えられるようになると、何もしないのは彼女の努力を無駄にするようで嫌だと思った。

「頑張ってみるか。」

生き返ったように自分の命が輝いているように思えた。まずは、仕事を探さなくてはならない。地元へ帰る時、退職届だけを残し去ってしまった。今更戻ることは不可能である。不安が一瞬にして手に溢れた。でも、視界は前を向いている。

「せっかくの人生だ。好きなように生きてみる、か。」

一人暮らしにしては大きな声で、はっきりと言葉にした。そうしたほうが叶いそうだと思ったからだ。

これから、今持つ熱量がいつまで持つかなんてわからない。でも、どんなことでもできる気がしていた。

「湊、ありがとう。これからも近くで見ててくれよな。」


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