13
短いです
はっと意識が戻ると隣には彼女がいた。
「お前、どこにいたんだよ。心配しただろうが。」
以外にもすんなりと声は出て、さらにその声が力が籠もっていることで自分が少し驚いてしまった。
「どうしたの?奏兄ちゃん。」
少し怒りの籠もった口調で攻めるように話してしまったことに不思議に思ったのか、首をやや傾けながら言う。
「どうしたも、こうしたも。お前がいなくなるから。」
「ごめん、さっきから話が見えないんだけど。なんの事言ってるの?僕、ずっと一緒にいるじゃん。」
え、と腑抜けた声が出た。一緒にいた?そんなはずはない、だって確かにホテルへ戻ったとき彼女はいなかった。ホテル?ここはホテルじゃない。
周りを見渡すとそこは海辺だった。こっちに来た日の夜訪れた海のベンチに二人で腰掛けていた。
「俺、ホテルに居たはずじゃ。」
パニックになり、頭を抱える。再び息が浅くなっていく。彼女は心配になったのか、背中をさすりながら声をかけてくれる。
「大丈夫?」
「大丈夫なはずないよね。全部僕が悪いんだけどさ、奏兄ちゃんのためにって思ってたはずが、まさかこんなことになってるなんて思いもよらなかったから。だから、ごめんね。もう楽しい時間は終わり。僕のこと忘れて他に楽しいこと見つけようよ。囚われながら苦しんで生きてる姿、もう見てられないよ。乗り越えられないなら、忘れようよ。そうするしかないんだよ。」
「でも、もし乗り越えられる少しの希望があるなら。今まで二人で行ったところ、絶対に忘れないで。お願い。」
浅い息を必死に抑えながら、最後まで話を聞いた。言っていることがほとんど理解できなかった。でも、きっとこれが本心でこれ以上の言葉はないのだろう。力の入らない体を無理やり起こし、彼女の肩を掴んで向き合う。
「分かった。待ってろよ。」
そう言葉にした瞬間意識が無くなった。
頬に感じるカーペットが現実を告げる。どうやら夢を見ていたようだった。とりあえず、着ていた服を脱ぎ、シャワーが温まるのを待たずに浴びる。冷えた体に鞭を打つようだったが、何も感じなかった。シャワーから上がり、タオルを首にかけたままソファーへ体を沈めた。
落ち着いて考えろ。何が現実で何が夢で。区別をつけるんだ。
しっかり拭ききれなかった水滴が体の体温を奪っていく。風のない部屋の中で動かない空気は冷えで自分を包んだままだった。夢だと分かっても、思い出すことができるのは隣りにいた彼女で、触れた肩の温もりだけは水に流されずずっと手に残っていた。夢ではないと思えてしまうほどはっきりと温度を感じた。
しかし、そう思えば思うほど思考は絡まり合っていく。ふと、彼女の言葉を思い出した。
「今まで二人で行ったところ、忘れないで。」
二人で行ったところを近くの紙に書き出してみた。
・海
・映画館
・レモネードのお店
・動物園
・水族館
・レストラン
・カフェ
・イルミネーション
・花火大会
文字に起こしてみると沢山の思い出がフラッシュバックしてきた。鼻に香るはちみつの匂い、混ざり合う獣の生活臭。空と水面を繋ぐような暗闇、光に埋め尽くされる一面の広大な土地。抱きしめた少し小さな体、繋いだ手、組んだ腕から感じる体温。
思い出すのは事実だけで当時の思いは指の間から落ちていった。時計を見ると日がまたぐ頃だったため、布団まで行くのは億劫だったからそのままソファーで背を倒した。次第に瞼は閉じていき、体温も下がっていった。




