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最後に訪れた店の2つ隣にステーキ屋さんがあった。動き回ってお腹が空いたと二人の意見が一致したためそこに入ることになった。
「今のステーキ屋さんはレパートリーが多いな。こんなにあるのか。」
「何か奏兄ちゃんの発言おじさんっぽい。」
メニューを見てポツリと溢れてしまった言葉を拾われた。心のなかで思っただけのはずだったのに。
「そんなにお前と年離れてないだろ。お腹へったし早く注文するぞ。」
自分の注文するものが決まり、メニューを畳み立ててしまう。
「早くない?待って決めるから。」
急いで決めようとしたらしいが、迷いに迷い決まらず結局同じものを2つ頼むことになった。
「俺と同じでよかったのかよ。他にも迷ってるやつあったんだろ?」
「これでいい。」
注文した品が来るまで午後の予定を話す。
「この後は夕方までゆっくりしないか?夕方から連れていきたいところあるんだ。」
「分かった。花火大会は行くよね?」
「もちろんだ。」
どこに連れて行ってくれるんだろうなー、なんて楽しそうなのが揺れる足から伝わる。花火大会、このワードが現れた瞬間空気が変わった気がした。なんてことないこの言葉が終焉を表しているようで。
ステーキが届いてからはいつもどおり無言でひたすらに食べた。柔らかくジューシーで食べごたえがあった。正面でガッツリ食べている彼女をたまに見上げると、生き生きとして輝いているように見えた。
「ごちそうさまでした。」
二人で小さな声で告げる。ほぼ同時に食べ終わったらしく、重なった声は笑い声まで続いた。
「はぁ、お腹いっぱい。すんごい食べた気分。よくよく考えたら奏兄ちゃんと同じ量食べたんだもんね。そりゃ沢山だわ。」
「まあな。よく食ったな。お前も。」
ステーキ屋さんを出た後は小物屋さんへ向かい、帽子やアクセサリーを買った。日が次第に姿を消し始めた頃。寒さが増してきて、マフラーを追加でお揃いのものを買った。
「そろそろ良い時間だな。よし、イルミネーション見に行くぞ。」
少し唐突になってしまったが喜んでくれると思っていた、しかし彼女からのリアクションがなく、読めない。手を繋いで隣にいるのに、その表情が何を表しているのか分からない。
「嫌か?」
不安が現れ思わず嫌なのではと脳裏を走る言葉が浮かんでくる。しかし、即答で首を横に振る彼女。そのレスポンスで心を撫で下ろす。
「いや、何というか。嬉しすぎて固まっちゃった。」
「何だ、びっくりさせるなよ。ほら行くぞ。」
日が落ちてきた外は肌寒さが増してきている。手を繋ぐだけだった日中と比べ腕を絡ませ、それぞれのポケットに手を入れて歩く。肌に触れる面積は少ないが物理的距離感がより近いため自然と寒さは無くなっていった。そこからは、20分ほど歩いたところにイルミネーションはあった。
視界いっぱいに広がる電飾。その全てが彼女をかき消す勢いで光を放っていた。
「うわぁ、すごい綺麗。こんなところあったんだ。」
「三年前くらいに出来たらしいぞ。」
入り口から歩いて中心へ向かう。二人を囲む電飾がその足取りを加速させていく。視線の先には、雪の結晶をモチーフにした白と青、ピンクが溢れていた。
「ここで写真撮ってもらおうよ。せっかくだし。」
そう言って彼女は近くにいた若い女性に声をかけに行った。自身のスマホを渡すと戻ってきて腕を再び組む。
「それじゃあ、お願いします!」
いきますよー、の掛け声とともに腕を引かれ抱きつかれた。
そこから何度か振り回されるように写真を撮られた。
「なんだろう、疲れた。」
膝に手を付きながら大げさに伝える。すると軽く背中を叩かれた。
「もう、おじさんじゃないんだからさ。もっと若く行こうよ。これからもあるんだからさ。」
「そうだな、もっと奥まで行くか。」
一番奥にあったモニュメントは大きなハートを模して、その周りに華やかに花や星などを表した装飾が飾られていた。一目見ると駆けて行く彼女。その後ろ姿を見ながらカメラを向ける。短くなった髪が走る振動を受け大きく揺れる。まるでそれは子犬の尻尾のようで愛らしさが心を埋め尽くした。
「すっごいね。こんなにも輝いてると他のものがかき消されそうだね。」
「ちょっと感傷的じゃないか。鮮やか過ぎるのも儚さがあるものだな。」
「そうだね。あの真ん中で写真撮ってもらおうよ。」
そう指さしたのはハートのモニュメントの真ん中にある座席の広いブランコだった。まるでおとぎ話の中から出てきたかのようなブランコで、白とピンクで塗装されていていかにも女の子が好きそうなものである。彼女は再び撮ってもらえる人を探しに行った。
「お願い出来たー。座ろうよ。」
気分の浮つきが足取りに現れながらこちらに帰ってくる彼女。歩いたところから音符が出てきそうだった。
「お前どっち側座りたい?」
「僕は右かな。それでもいい?」
「いいよ。」
椅子に座り向き合う。今、お互いの世界には愛する人しか写っていない。左耳から聞こえる、はいチーズの声。それが現実へと引き戻る魔法の言葉だった。スマホを渡した人は全体を撮ってもらうために数メートル離れたところに立っている。
「好きだ。愛してる。」
小声で言えば周りの人には聞こえないだろうと思い、自分でも驚くくらい大胆な発言をした。目の前で真っ赤に頬を染める彼女。しかし、彼女のほうが一枚上手だったのかさらに顔を近づける。
「僕のほうが愛してるよ。世界中のなによりも。」
ふっと笑うと顔を離し、「ありがとうございましたー」とスマホを回収しに行った。
呆気にとられていると、微笑みながら彼女は帰ってきた。
「他のところも見に行こうよ。」
「そ、そうだな。」
向かって左側には併設されているガーデンとともに装飾が施されている。彼女はトンネルのようになっているところを気に入ったようだった。右側は若手芸術家の作品とのコラボのようになっている。個人的には無地の立方体や直方体にシンプルな電飾をつけているのに心を引かれた。
「これで全部かな?僕、お花のところ結構好きだな。」
「テンション高かったな。お前。」
「奏兄ちゃんこそ、作品のところ沢山写真撮ってたじゃん。気になったんでしょ?」
まあな、とそっけなく返すとニヤニヤしながら腕を引かれてさらに足を進める。
一通り全て見終わると再び入り口に向かい彼女のスマホで自撮りをする。すでに沢山写真は撮っている気がしていたが、どうやら女子の心というものはそれだけでは収まらないらしい。
「まだ、足りないくらいだけど。ま、いっか。」
「沢山撮っただろ。まだ、何を撮るって言うんだよ。」
スマホの画像フォルダを満面の笑みで見つめる彼女へ問いかける。
「奏兄ちゃんとのツーショット。何したとか全部記録にしたい。」
「そういうものなのか。俺にはわからないな。」
もう、それだから女の子に顔ではモテても中身ではモテないんだよ。余計なお節介だといつもなら言い返すが、今更別の人間に好意を寄せられても何も感じないだろう。
「お前以外見てないからな。別にいいだろう。」
「そういうことさらっと言えるところ。大好きだよ僕は。」
行こっか、手を取られ出口をくぐる。今の二人には言葉の持つ力を理解できないのだろう。周りにいた少女たちが頬を赤らめていることなんて、つゆ知らずである。
次に向かう花火大会の会場は歩いて行ける距離だった。
「せっかくなら浴衣とか用意したかったな。あ、男の子だと袴?」
「袴はまた別だ。甚平とかじゃないのか?」
なんて少しおバカな会話をしながらあっという間に会場である川沿いの公園についた。赤とオレンジの光に包まれた中から屋台の看板が顔を出し、人の気を引いている。
「僕、りんご飴食べたいんだよね。」
「食べたことないのか?」
「それがないんだよね。これまでお祭りとか何回も来てるけど一回も食べたことは無くってさ。だから楽しみにしてるんだよね。」
屋台の並ぶ長い一本道を逸れないように腕を組みながら進む。左右を見渡しながらお目当てを探す。
「あ、あったぞ。」
二人で屋台の前まで行き、2つりんご飴を買う。その場では人が多くて食べられないため少し道を反らし進む。
「いただきます。」
パクっと効果音が聞こえてきそうなくらい大きくかぶりついた彼女はとてつもなく可愛かった。中のりんごも外の飴もどちらもお気に召したようで、時間はかかったが全てを食べ終えた。
「おいしかった。奏兄ちゃん食べるの早くない?」
同じ時に食べ始めたが自分のほうが早く食べ終わり、美味しそうに食べる彼女を見ていた。
「お前が食べるの下手くそなだけだ。」
次はご飯になるもの買うか、と声をかけ再び腕を組む。赤とオレンジに占拠されたその空間は冬なのに暖かさを感じられるほど人が行き交っていた。
「やっぱここは、焼きそばだよね。」
「そうだな。あの道は人が多いから、お前はここで待ってろ。買ってきてやる。」
「…分かった。できればついでに、僕の好きなやつもお願いしたいな。」
分かった、大人しく待ってろよと軽く頭を撫でながら言う。早く買って彼女と二人で静かなところから花火を見たい。そしてあの口から真実を聞きたい。事前に調べたベストスポットでその後誰にも邪魔されず二人だけの美しい時間を過ごすんだ。そのことで頭は埋め尽くされ、無我夢中で人をかき分け歩いた。




