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ねぇ奏兄ちゃん、僕と付き合ってよ  作者: きなこともちお
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「朝だよ!起きて!」

叩き起こされたようでベッドから落ちていた。

「どうして、じゃないでしょ。朝だから起きるの。それだけじゃん。」

ああ、と頭を掻きながら落ち着かない心を鎮める。なんだったんだ。夢は起きたら忘れやすいと聞いたことがある。実に不便だ。

「何かうなされてたけど、大丈夫?」

「大丈夫だ。おはよう。」

奏太は自分がソファーで寝ていたことを思い出す。彼女にここまで連れてくる力があるとは思えなかったが、薄っすらと肩を持たれる記憶が蘇り、納得した。

「先におはようだったね。朝ごはんどうする?」

せっかくカフェ巡りの予定があるし、ブランチとかどう?と提案を受け飲むことにした。少しずつ夢の記憶が薄くなり気持ちも落ち着いてきた。

布団を出て着替える。彼女は寝室で、奏太はリビングで着替えを済ませ部屋の入り口で合流する。

「行こっか。」

彼女に引かれて部屋を出た。朝早い電車には都心方面しか人がおらず、逆向きに乗る自分たちの列車は空いていた。

「どこのカフェから行こうかな。何食べたい?」

「俺は何でも良い。お前が決めろ。」

やっぱりパンかな、でもあそこの朝ごはんも美味しそうだったなとパンフレットを思いだして微笑む彼女を見ると強制的に心が穏やかになる。窓から射す朝日が加速をかけ、今まで考えていたことがくだらないことのように思えちっぽけに見える。

駅の近くにイートインできるパン屋さんがあったことを思い出し伝えると、朝ごはんはそこで食べることになった。

電車を降り、パン屋へ向かう。道中、猫がたくさん集まっているのを見かけた彼女が駆け寄った。

「うわー、猫だ!かわいいなぁ。僕、来世は猫になりたいな。」

「お前、猫になりたいって小さいときから言ってたよな。」

「うん、だって自分の世界で生きてるように見えるからね。」

自分の世界、か。人間はどう頑張っても社会という世界でしか生きていけない。それに疲れてしまうときだってある。ないものねだりというものだろう。それにしても、猫とともに視界に映る彼女は特段に愛らしさに拍車がかかっていた。直視というか、凝視というか。何というか。まあ、そんなところだった。

「ほら、行くぞ。腹が減った。」

「はーい。じゃあね、猫さん。」

律儀に手を振るところは幼い頃から変わっておらず、先に歩き始めた奏太の後を追って走ってきた。

パン屋に入ると彼女はクリームパンを、自分はフレンチトーストを飲み物とともに買った。朝日の当たる外の机に座ると肌触りの良い風が吹いた。寒いが、温かい飲み物を手にしていれば耐えられない温度ではなかった。

「いただきます。」

ハンド用のフレンチトーストは砂糖の甘みだけでなくはちみつがふんわりと香り、ブラックコーヒーにとても合った。途中で彼女のパンと自分のパンを交換して食べたが、クリームパンはバニラエッセンスがしっかり入っていて甘さが控えられ、上品さを持つクリームでとてもおいしかった。

「このあとどこから回ろうか。お腹はいっぱいになったからウィンドウショッピングとかしたいな。」

食べ終わったごみをまとめながら、テラスの先の店を見ながら彼女は話す。

「いいな。せっかくだしお前の服を買ってやりたい。」

「やった。奏兄ちゃんのセンスは信じられるから楽しみ!」

そう言われて、地元のおばさんたちの服のセンスを思い出す。なかなか形容しがたいセンスをしていた気がする。それに若い人が自分たちくらいしか居なかったため、逆に異点であったのだろう。

訪れた店街はいくつもの洋服屋さんが並んでいるところで、メンズからレディース、キッズまで全てが揃っていた。奥へ進むと洋服だけでなく、小物まで専門的においてある店もあり時間を潰すには十分に備わっている。

最初に入ったのは手前の方にあったクラシカルな店内のお店で、彼女がメンズ服がほしいと言っていたのでメンズ服のある店を選んだ。

「これとかどうだ?」

彼女の前に見せたのは、オーバーサイズのロングシャツだった。ワインレッド一色のそのシャツは大人っぽさを持っている。

「かっこいい!やっぱセンスあるね。」

瞳を輝かせシャツを写していると、じゃあこれほしいな、とすぐに返事が来た。彼女の言う、奏太のセンスが信じられる。というのは、あくまでも奏太のセンスが良いのではなく、感性が似ているというだけであり、一般的に好まれるかどうかは別であった。

「そんな簡単に決めていいのかよ。」

「だってこれだけじゃないでしょ?買ってくれるの。」

お前なあ、と口にしそうだったが、着てほしいと言った手前引き下がることもできない。とりあえずレジへ向かい購入を済ませる。1つ目の袋を片手に持ち彼女と手をつなぎながらいくつか服屋を巡る。次々に増えるのは喜びか楽しさか紙袋か。

お昼の時間を迎える頃には片手のギリギリまでが袋の紐で埋まっていた。何故ならば、彼女が欲しがった洋服の系統がメンズであったことと、特にオーバーサイズを好んでいたことがさらに荷物の容積を増やす要因である。

「やった。こんなにたくさん買ってもらえたのは本当に嬉しい!ありがとう奏兄ちゃん。」

満面の笑みで感謝を告げる彼女を見ると、荷物すべてを持っていることすら許してしまいそうになる。

「本当にありがとうって思ってるなら少しくらい荷物をお前も持て。」

「やだなあ、僕って言ってても中身は女の子。か弱いんだから難しいな。」

口元を緩めながら話すその顔は、持つ気はないと書かれていた。

「おい、置いてくぞ買った服たち。」

ごめんと焦りながら袋を受け取ろうとする腕を離した手で引き腕の中に収める。

「え、どうしたの。」

「なんてな、俺が好きで買ってるんだから別に気にすることねえよ。」

ほらさっさと昼飯行くぞと、手を引く。

人目を気にせず触れ合う人々を恨めしく思った時期が自分にもあった。でもいざ自分がその状況になってみると抑えられなかった。愛おしいと思う人には触れたくなる、もしかしたらそれが人間の摂理かもしれないと思ってしまうほどに。


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