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あーぁ、もうだめだ
頭が動かない
俺は、生きているのか
それとも、もう死んでるかな
奏太は地元に帰ってきた。都会とは違う配色の景色は懐かしさで溢れて溢れた。
駅から一歩踏み出すとそこには旅立った日と同じ人が立っていた。
だがその見た目は百八十度変わっていた。肩まであった髪の毛は男の子のように耳に触れないほど短くなり、着ている服もスカートからズボンへと。
彼女は自分に気づくと駆け寄ってくる。
「何で知ってんのよ。お前が。」
「おばさんが教えてくれた。奏兄ちゃんおかえり!」
そう言って奏太に抱きついた。時間がたったとしても中身は変わらない彼女。成長したその身体は丸みを帯びていた。
「ねぇ奏兄ちゃん、僕と付き合ってよ。」
「はぁ!?何いってんのお前。」
「もう一回言ったほうがいい?」
首を少し傾け下から除くように問う。というより、付き合うって意味を理解しているのだろうか。
「いや、2度も同じ衝撃を食らうのはごめんだ。」
少し後ずさりながら彼女を見る。何もおかしなことがないと顔に書いてあった。
「でも、お前彼氏いただろ。隣のクラスの何とか君。仲良くしてたじゃないか。そんなことよりも、僕って。」
話を変える方法を探して出てきたのはそんな昔のことだった。
「あれから何年経ったと思ってんの?とっくに別れた。そんなに好みでもなかったし。成り行きってやつ?お年頃なのよ。」
女心は分からないな、と呆れながらもそれがこいつらしいと言えてしまう間柄であった。
初めての彼氏だったはずなのに、今ではこう言われよう。恋愛ってのはやっぱり難しいものだとどこか他人事に思えた。
「あっそ、それで今度は俺ってこと?」
「そんな軽い女じゃないってば。ちゃんと片想いしてたんだから。」
少しずつ小さくなるその声では最後まで奏太には届かなかった。
「片思いって。お前俺のこと好きだっけ。」
「本命には伝わりにくいんです。乙女ってもんは。」
ヤケクソに言葉を投げられる。受け取る側としては扱いに困る内容だった。僕と言っておきながら乙女心とは、色々と混ざっている気がする。それに分からないのが、こいつからそんなものを感じたことすらなかった。
「何か変なもんでも食った?この時期に食中毒とかあるのか。」
巡り巡って心配になってきた。すこしベクトルの違う話になっている気がするが、こいつはこんなことを言うやつじゃない。少なくとも俺の前では見たことがない。僕という一人称についても違和感は薄いものの気にはなる。ジロジロ上から下へと往復して見るような視線に、なっていたのか彼女はいきなりそっぽを向いた。
「そんなに見るなよ、変態。」
「そんなやつに告白してきたのは誰だよ。」
あ、そっか。と自己完結した彼女は向き直り、口を開く。
「それでこのあとどーするの?ホテルとか取ってんの?」
自分から言ったにも関わらず、エッチと小さく言う彼女。恥ずかしがるのか、振り切るのかどちらかにしてほしいものだ。
一応予約はしてきたが、このままだとついてくるに違いない。なんとか誤魔化そうと思考を巡らすが、
「どうせ、南町の角のところでしょ?静かだし、安いし。」
すぐにバレてしまった。長い付き合いというのも随分不便のようだ。
「来るか?」
ため息と共に出た言葉は案外優しさを持っていた。
「行く!絶対!行こ!」
荷物を持っていない方の手を握って歩き出す。ふと見上げた空には星が輝いていた。
そこまで長くはならないです
お気に召しましたら是非、楽しんでいただきたいです