第20話 褐色の男
「きれたきれた!魔法が斬れた!!まさか本当に斬れるなんて.・・・ありがとう,ミラ先輩.俺感激っす・・・.」
謎の男は,前半は両腕でのガッツポーズ,後半は胸の前で両手を握り,目に涙を浮かべながら喜びをかみしめている.
メ:(なんなの?この人・・・.一応敵・・・何だよね?)
メリーは初めて見るタイプのその人物にただただあっけにとられている.
「いやぁー,分かります?僕の気持ち.」
メ:「えっ?」
予想外に話しかけられ,動揺するメリー.そんな彼女を尻目に褐色の男は話を続ける.
「僕,ミラ先輩に『今の君ならできる』『今の君ならできる』とは一応言ってもらってたんすよ.でも,魔法を斬らなきゃならない状況ってそうそうないじゃないっすか!?確かめる機会がなくて,今の今まで魔法が斬れるのかどうか半信半疑だったんす!でも,今回斬ることができて・・・いやぁ,マジ感激っす!今まで鍛錬続けてよかったぁ―――・・・!!」
メ:「は,はぁ・・・」
メ:(何だろう,なんか子供っぽい人だなぁこの人・・・.)
「・・・ふぅ.・・・いやぁ,すみませんね.急に喜んじゃって.」
表情豊かにはしゃいでいたその男は,ふいに深く息を吹いて,落ち着きを取り戻す.
「この喜びをすぐにでも誰かと共有したくって,ついわき目もふらず喜んじゃいました.・・・さて,そんじゃひとしきり喜んだことだし,一応確認なんすけどぉ─
ぞわっ・・・
その瞬間,男の目つきが変わった.
─あなた,人を襲ったことありますか?」
メ:「・・・っ!!」
空気が一変.
メリーは一瞬自身が身震いしたような感覚に襲われる.
その感覚は,紅熊と対峙したときにも,ポチと対峙した時も,ロウジーさんに敵意を向けられた時にも感じなかった感覚.明確な恐れの感覚だ.
つけこむすきの無い冷たい目つき.低く,それでいて感情の起伏も感じさせない無機質な声による問いかけ.身体全体をひりつかせる威圧感.
目の前の男が,本当にさっきまで子供のようにはしゃいでいた人物と同一人物なのかと疑いたくなるほどの豹変ぶりだ.
さっきまですっかり毒気が抜かれ,肩の力を抜いていたメリーの気が一瞬にして引き締められる.
メ:「・・・いえ,ないわ.」
メリーは背中に冷汗が滲み出るのを感じながら,目の前の男に向かって答える.そのとき,メリーはようやくあるモノの存在に気づいた.
メ:(あれ,あのペンダント.魔力を感じる.もしかして・・・魔道具?)
「・・・そすか.なるほど.それなら─」
ツカツカツカ
男が近寄ってくる.左手を腰の剣柄に当て,ゆっくりと近づいてくる.
男との距離が縮まるにつれて,メリーの緊張感が極限まで高まる.
メ:(来る.こんどこそ仕掛けてくる.やはり敵だった!魔力はまだ回復していってる.何かを仕掛けてくる前にこっちから攻撃─
─バッ
メ:─を?)
「この度は,ほんっとに申し訳ございませんでしたぁあ―――!!」
男は,いきなりメリーの目の前で上半身を90度に曲げ,全力で謝罪するのだった.




