第12話 ハジメ町
──メリーが目を覚ます数時間前
傍らに置いた松明の光を頼りに,月明かりの下,トモシビは気を失っている山賊の残党を一人一人丁寧に縄で縛っていた.
ト:「・・・よし.これで全員縛れたな.そんじゃ縄切りに行くからちょっと待っててくれ.」
トモシビは,こちらを向いて胡坐をかいて座っているクリケにそう声をかけ,松明を拾ってゆっくりと腰を上げる.クリケは相変わらず両手首と両足首を縄で縛られたままだ.
クリ:「・・・どうして助けてくれるんだ?」
ト:「ん?なんだよ今更.もともとそういう約束だったじゃんか.縄をどこに置いてそうか教えてくれたら逃がしてやるって.おかげで助かったぜ.あいつらをこうして縛ることができたし.ついでにあいつらの金も見つけられて懐が潤ったしな.」
トモシビは松明片手にお金でパンパンに膨らんだ自らの右ポケットを満足そうに叩きつつ,クリケに近づいていく.
クリ:「確かに約束はしたが.・・・俺は山賊だぞ?縄を切ったら襲われるとは思わないのか?縛られて身動きが取れないうちに殺すのが一番安全だろ.」
ト:「じゃああんた,殺されるかもしれないって思ってたのに俺に縄と金の在りかを教えてくれたのか?なおさら信用できるじゃねぇか.」
クリ:「・・・っ,それは・・・.」
動揺するクリケ.
そんな彼の様子など気にも留めず,トモシビは服の袖からナイフを取り出すと,クリケのそばでしゃがんで松明を置き,彼の両腕の縄を切り外しにかかる.
そのナイフは山賊たちの暗殺に使っていたものとは違うナイフ.山賊たちの所持していたナイフだ.
ト:「それに,万一あんたが襲ってきても俺はやられねぇよ.俺けっこう強いからね.・・・ほい,切れたぜ.」
クリ:「・・・すまねぇ.」
ト:「両足の縄は自分で切ってくれよ.ほい,あいつらから取ったナイフっ.この松明は持ってくぜ.他にも松明落ちてるし,視界には困んねぇだろ.」
トモシビは自由になったクリケの右腕にナイフを握らせ,立ち上がると,そのまま寝息をたてているメリーの下へと向かった.
クリ:「・・・.」
クリ:「・・・あんたは何者なんだ?」
ト:「ん?ただの旅人だよ.刺激を求めてふらふらしてるだけのな.」
クリ:「・・・その歳で,刺激を求めてふらふらしてんのか.」
ト:「いろいろと事情があるんだよ!・・・あと,一応目的もある.さっきできたばっかの目的だけどな.」
クリ:「・・・そうか.」
ト:「さてと・・・それじゃ俺はメリーおぶってさっさと町にいっとくわ.おいしょっと・・・意外と重いな.」
クリ:「ああ・・・.」
クリ:「・・・なぁ!あんた!」
メリーをおぶり,その場を立ち去ろうとしていたトモシビをクリケは呼び止めた.どうしても聞きたいこと,聞いておきたいことがあったからだ.
ト:「ん?」
クリ:「俺はこれから何をすればいい?」
それはクリケにとって,心の底からの問いだった.
ト:「・・・さぁ.まぁせっかく拾った命なんだから,今度は後悔のないように生きたらいいんじゃないか?」
クリ:「・・・.」
クリ:「後悔の,ないように・・・.」
ト:「そんじゃな.もう悪いことすんなよ.あでぃおーす.」
そうして今度こそ,トモシビはメリーをおぶり,その場を後にするのであった.
────────
クリ:「後悔のないように・・・か・・・.」
足の縄を切り外したクリケ.
彼は,座ったまま明るくなった空を見あげ,トモシビの言葉を頭の中で反芻しながら,自分のこれまでの人生を振り返っていた.
引っ込み思案でろくに友達も作れなかった幼少期.好きな子ができても,思いを告げられず結局だれとも付き合えなかった青年期.成人してもやりたいことがなく,なんとなく行商人になった結果,荷車を運ぶ道中で魔物に襲われ,一文無しになった.それから,あれよあれよという間に山賊に仲間入りしてしまっていて,いつの間にかいろんな人を不幸にしてきてしまっていた・・・.
クリ:「俺の人生,本当に後悔ばっかりだったなぁ.・・・まぁ,俺がどうしようもない人間なのが悪いんだけど・・・.」
クリ:「・・・.」
クリケは頭を基の位置に戻す.視界には,メリーに倒され,トモシビに縛られたまま,今なお気を失っている山賊たちの姿が目に映った.
クリ:(すげぇよなぁ,あの子たち・・・.あの歳で自分のやりたいことがあって,しかも強くて,行動力がある.俺とは大違いだ・・・.)
クリ:「俺もなりたかったなぁ.あんな風に・・・.」
─今度は後悔のないように生きたらいいんじゃねぇか?─
クリ:(まだ,やり直せんのかなぁ.)
そのとき,ふと,クリケの脳裏にある思いが沸き起こった.
クリ:「・・・孤児院,作ってみたいなぁ・・・.」
それは,トモシビとメリーの姿に憧れてか,それとももともとそういう願いを持っていたのかは分からないが,ただ,ただ純粋に子どもを育てたいという想いが沸き起こってきたのだ.
クリ:「・・・身寄りのない子を集めて,育てて,あんなふうに目標に向かって行動ができる人に育てられる孤児院・・・少なくとも俺みたいにならねぇように育てる,そんな孤児院が作りてぇ・・・.」
クリ:(・・・俺なんかが作れるのか分かんねぇし,作る資格があんのか分かんねぇけど.今まで,人を不幸にしてきた分,これからは人のために・・・.)
それは,クリケが自らの人生で初めて抱いた夢,本気で抱いた希望だった.クリケの身体にみるみるうちに力が湧き上がってくる.
クリ:「よし!そうと決まれば,町に行くか!」
そうして,ようやくクリケは立ち上がり,町に向かって颯爽と歩き出した.
彼の表情にはもうひとかけらの曇りもない.純粋に未来を見据えていた.
クリ:(もしかしたら,またあいつらに出くわしちまうかもな.・・・そしたら,お礼言わなきゃな.そんでいつか,あいつらに向かって堂々と胸を張れるような,そんな大人に─
─ドスッ
そのときだった.クリケの胸にサーベルが突き刺さったのは.
クリ:「・・・えっ?」
ジワ,ジワジワジワー・・・
サーベルはクリケの胸を背中から貫いている.サーベルの周りから,血がじわじわーと滲み出ている.
しんどさ,鈍い痛み,稲妻のような痺れがクリケの身体を襲っている.
─ズッ
サーベルが引き抜かれた.
深く大きな傷口から血液がとめどなく溢れ出ていく.
その血液と共に,クリケの身体から力も失われていき・・・.
・・・ドサッ
クル:「生かすわけねぇだろ.モブが・・・.」
倒れたクリケにそんなセリフを吐き捨てながら,クリケを後ろから差した人物─クルエルはサーベルを肩に担いだ.
クル:「ふぅ.・・・やっと視線そらしてくれたぜ.とっくのとうに目ぇ覚ましてたってのに,いつまでもこっち見たまま惚けてやがるから縄から抜け出せなかったじゃねぇか.・・・さてと,どうすっかなぁ.あいつら,町に行ったんだよなぁ.今すぐ追えば山から出る前にギリ追いつくか?・・・いや,やめとこう.流石にもうちょい傷癒してからにしねぇとな.タイマンなら問題ねぇが,あいつら二人を同時に相手するのはちょいと厳しそうだ.」
そうして,これからの方針が決まったクルエルは身体を翻す.向かう先は,山賊の薬品置き場だ.そこには神経毒や睡眠薬の他,回復薬もおいてある.すべてクルエルが調合したものだ.
クル:「いやー,しかし,ついてるなぁ俺.山賊やるの飽きてきたところで,魔女に会っちまうんだもんなぁ.おかげで,後腐れなく山賊団抜けれたし.」
クルエルは口角をあげながら,歩みを進めていく.そんな彼の胸は期待と希望でいっぱいになっていた.
クル:「・・・あいつらなら,持ってそうだよなぁ.魔道具.」
ヒュー・・・
どこからともなく吹いた風に山の木々は不穏に揺れ動くのだった.
───────────
話は変わる.
現在,山を下りたトモシビとメリーは,野原を進みながら,遠くにそびえたつ灰色の防御壁へと向かって歩いていた.
メ:「へぇー,トモシビってCランクの魔物倒したことあるんだ.」
ト:「おお,山イカって魔物をな.結構強かったぜ?10本のぶっとい触手を持っててよ.それが変則的に襲い掛かってくるんだ.一振りで木をなぎ倒す程のパワーを持ってる触手が10本だぜ?その時は毒塗りのナイフでなんとかたおせたけどよ.たぶん毒を付けてなかったら,今頃俺は死んでただろうな.」
メ:「へぇーそうなんだ.それでもすごいよ.魔法を使わずにCランクの魔物を倒せちゃうなんて.やっぱり強いんだね.トモシビって.」
ト:「まぁ,伊達に一人旅をしてるわけじゃねぇからな.それなりの武芸はあるさ.」
メ:「ふーん.・・・それにしても,山イカかぁ.見て見たいなぁ.」
ト:「まぁ,実際にあったことのない奴はそう思うよな.俺からしたらあんな怪物と出くわすのは二度とごめんだけど.味もまずかったし.」
メ:「えっ?食べたの?」
ト:「おう.一応な.めっちゃまずかったぜ.いや,まずいというより食いたくないなって味だったな.アンモニア臭がするし,へんな苦みが口の中に残るし.食感はイカだけど,それ以外はほんとにイカかよって思うくらいにはおいしくなかった.」
メ:「へぇーそうなんだ.・・・普通のイカってやっぱり美味しいの?」
ト:「ああ,うまいぜ.ほのかに甘みがあって.・・・なんだメリー,食ったことねぇのか?」
メ:「うん,イカとかタコとか,お母さんに聞いたことはあって名前は知ってるけど,食べたことはまだ一度もないわ.・・・はぁー,やっぱりおいしいんだ.イカって.食べてみたいなぁー.」
ト:「まぁこの辺海からかなり離れてるから,そう簡単には食えないよなぁ.・・・そういや,ハジメ町には港町行きの馬車があるって聞いたことあるような・・・.」
メ:「えっ!?ほんとにっ!?」
ト:「ああ,まぁあくまで聞いたことあるってだけの・・・」
メ:「港町,海かぁ・・・.」
ト:(こいつ,聞いてないな.)
トモシビの察した通り,メリーはまだ見たことのない景色を思い浮かべながら悦に浸っていた.
メ:(海ってどんな場所なんだろう.やっぱりきれいなんだろうなぁ.ああ,行ってみたい.そんで思いっきり海の幸を満喫したい.)
メ:「・・・よしっ!それじゃハジメ町の次は港町に行きましょ!トモシビ!」
ト:「ああ,まぁいいんじゃねぇか.俺も久しぶりに海に行ってみてぇし.・・・でもいいのかよメリー.お前の目的って魔女の汚名を晴らすことなんだろ?」
メ:「ん?ああ,わたし,魔女の汚名を晴らすって目的もあるけど,純粋に旅を楽しむって目的もあるの.」
ト:「えっ?そうなのか?・・・なるほどな.旅を楽しみながら,各地で魔女の汚名を晴らしていくって感じなんだな.」
メ:「うん!・・・あっ,見てトモシビ!人の列だ.すごい.あそこが町の入口なんだ・・・!!」
メリーは目をキラキラさせながら,遠くの方に見える防御壁に続く人や荷車の列,そしてその先にあるアーチ状の出入り口に興奮する.
ト:「ああ,そうだな.ようやく──
ト:──ハジメ町に到着だ.」
────────────────
門番1:「検問をする!入りたいものはこの列に並べー!!」
門番の太い声に従い,トモシビとメリーはハジメ町に入ろうとするもの達の列に並んだ.
検問は二人の門番でそれぞれ一組ずつ行われている.
最初遠目で見た時は二十人前後の行列だったが,今は並んでいる人はざっと六~七人程度.馬を連れた行商人や,大きな荷物を抱えたおじさん,カバンを持ったタキシードの男性など,職種も服装も様々な人が並んでいる.
ト:「ふぅー,ようやくここまで来た.あんま混んでなくてよかったな,メリー.」
メ:「・・・.」
ト:「・・・メリー?」
聞き返すトモシビ,しかしメリーから反応はない.
メリーは目の前にそびえたつ防御壁を見上げ,その荘厳さに心を奪われていたからだ.
メ:(はぁー.近くでみると本当に大きな城壁・・・!!見てるだけで独特の緊張感がある!・・・そして目の前にはぱっくりと開いた大きな門!わたしもあの人達のように門番たちに検査されて,ようやくその先に広がる景色─ハジメ町に足を踏み入れることが出来るんだ・・・!!)
メリーは初めての防御壁,初めての検問に感激しっぱなしであった.
ト:(すっげぇ見とれやがる.・・・でも,そっか.初めての町だしな.そりゃ見取れるわ.俺だって初めて魔法見た時しばらく呆けてたし.)
門番1:「通ってよし!次の者前へ!」
ト:(おっ,列が進んだ.)
ト:「メリー前行くぞ.メリー!」
メ:「・・・えっ?あっ,ごめん.進まなきゃだね.」
ようやくトモシビの声が届いたメリーは,そそくさと前へ詰める.
ト:「十分見とれたか?」
メ:「えっ?うん,十分見とれれた.・・・それにしても本当に大きいねハジメ町の城壁.他の町もこんなにでかいものなのかなぁ.」
ト:「いや,この大きさどころか,そもそも町に城壁があること自体が珍しいな.ハジメ町は100年近く前は独立国家だったから,そのときの名残で城壁に囲まれてるんだ.」
メ:「へぇー,そうなんだ.・・・じゃあ城壁が見れてラッキーなんだね,わたしたち.今のうちに心に焼き付けておかないと・・・!!」
ト:「ふっ.・・・まぁほどほどにしとけよ.・・・あれっ?そういえば・・・!!」
大事なことに思い出したトモシビ.内心焦りつつ,メリーに小声で話しかける.
ト:「なぁメリー.検問のとき,山賊のこと話さなきゃなんねぇじゃん?」
メ:「えっ?うん,そうだね.」
ト:「どういう風に山賊たちの話する?ありのままのこと話しちまったら,メリーが魔女ってばれちまって町に入るどうこうの話じゃなくなっちまうぞ?今のうちにいい作り話考えとかねぇと・・・.」
メ:「ああ,それなら大丈夫!わたし,あらかじめこういう時にどういう話するか考えてたから.」
ト:「えっ?まじで?」
メ:「うん.まじ.・・・そっか.そういえばまだ話してなかったよね.ええと具体的な内容としては・・・」
門番2:「次の方ー,前に来てください.」
メリーが説明しようとしたその時,メリー達の二つ前に並んでいた人達が検問に呼ばれる.
ト:(まずいな.もうすぐ俺たちの番か.今打ち合わせしてる様子を門番に見られて怪しまれでもしたら都合が悪いな.それに、夜通しメリーをおぶった疲れもあって説明を覚えられる自信もねぇ.)
ト:「メリー.とりあえず,今回は説明しなくていい.メリーの話に俺が合わせる.その方が変に意識せずに自然体で検問に望めそうだしな」
メ:「そっか.わかった.ごめんね,今まで説明してなくて.」
ト:「いや,気にすんな.今まで気づけなかった俺も悪いしな.・・・任せたぜ.メリー.」
メ:「うん.任せて.」
胸を張り,前を見据えるメリー.トモシビはその様子に若干の頼もしさを感じつつ,検問に望む覚悟を決めるのだった.
────────
門番1:「通ってよし.次の者こっちに来い.」
自分たちの番が来たメリーたちは,門番の指示に従い,前に出る.
門番はメリーたちの姿を見るや否や,目を丸くした.
門番1「:・・・おお,ずいぶんとボロボロな服だなぁ.しかもそのシミ,血痕か?いったいどうしたんだ?」
門番のまっとうな疑問,その疑問に対し,メリーは心の中で深く深呼吸し,はっきりと応える.
メ:「山で山賊に捕まっちゃって,命からがら逃げてきたんです.」
1:「山賊っ!?どこの山にでたんだ.」
メ:「ここから西のあの山です.」
メリーは方向を指しながら訴えた.
1:「なにぃ?・・・!!?あの山,行方不明者が続出してるって山じゃないかっ!?」
門番2:「ん?どうしたんだ,そんなに慌てて・・・.」
門番1の慌てように隣で別の人の検問をしていた門番2が駆け寄ってきた.
1:「例の西の山で山賊が出たらしくってな.なんでもこの子どもたちがその山賊たちから逃げてきたらしいんだ.」
2:「なっ?!西の山って言うと魔女が出るって噂の山だよなぁ.・・・嬢ちゃんたち,ほんとにあの山から来たのか?」
メ:「はい!ほんとです!山賊たちから逃げてきたんです!」
1:「山賊は何人くらいいたんだ?」
メ:「正確に数えれてはないんですけど,30人近くはいたと思います.」
1:「30人っ!?よく無事に逃げることができたな.」
ここにきて,メリーはその言葉待ってましたと言わんばかりに口を開いた.
メ:「はい!魔女のおかげです!」
1:「・・・魔女?」
魔女と言う言葉に,先ほどまで驚いていた門番たちは一気に怪訝な顔をする.しかし,この反応にメリーは動じない.それどころか胸を張り,堂々と門番たちを見据える.
メ:「はい!魔女が現れて,わたし達を牢屋から出してくれて,魔法で山賊たちをやっつけてくれたんです!」
ここでトモシビは,ようやくメリーの狙いに気づいた.
ト:(なるほど.別の魔女が助けてくれたことにするのか.確かにいい作戦だな.)
1:「魔女が人助け.・・・信じられんな.」
メ:「本当なんです!水の魔法や,雷の魔法で山賊たちを蹴散らしたりしたんです!」
ト:「何人かの山賊たちは気絶したまま縄で縛られてたんで,山に行ってその山賊たちを見つければ本当だってわかると思います.」
メリーの話の調子に合わせ,トモシビもすかさずフォローする.
1:「・・・うーん,しかし魔女が助けるなど.」
2:「・・・いや,案外ほんとかもしれない.」
1:「なにっ?どうしてだ?」
2:「いや,実はな.夜中にあの山の方で青白い光が見えたって人がいたんだよ.だから,この子たちの話はまるっきり嘘ってわけじゃないと思う.ボロボロの服装からして,何者かに襲われたのは間違いないんだろうし.もちろん,魔女が助けたって確証は持てないけどな.」
1:「なるほど,そうなのか・・・.うーん,それなら一度部隊を派遣して確かめてみてもいいかもしれないな.・・・よし,分かった.君たちの話を信じることにする.とりあえず,捕まったときの状況とか,どのあたりに縄で縛られた山賊たちがいそうかとか,もう少し詳しい話を聞かせてくれないか?」
メ,ト:「「はい.もちろんです!」」
─────────────────
1:「・・・なるほど,よくわかった.情報提供ありがとう.さっそく役所に連絡して,部隊を編成していただき次第,調査に向かうことにしよう.」
メ:「はい.ありがとうございます!」
2:「一応また何か聞きたいことができたときに連絡を取りたいから,今日はこちらが指定する宿に泊まってくれるか?この名刺を宿の店主に見せればただで止めてくれると思うから.」
門番2はポケットから名刺を二枚取り出すと,トモシビとメリーそれぞれに一枚ずつ渡した.
その名刺は,白地に金色の刺繍が施されていた.表には黒い文字で「ハジメ町役所職員 西門 門番 マルデン・ヤスイ」,裏には「一時宿泊所 宿屋かまど」という記述があり,両面の左端に赤い印が押してある.
メ:「はい,ありがとうございます・・・.」
ト:「ありがとうございます.」
メ:(うわーかっこいい.これが名刺.初めて見た・・・.)
2:「場所はこの道を真っすぐ行って,二つ目の十字路を左へ曲がってすぐのところにあるから.分からなかったら,通行人に声をかけてくれたら教えてくれると思う.」
メ:「はい.分かりました.」
1:「それでは,君たちが町に入ることを許可する.この町で旅の疲れをゆっくり癒してくれ.」
メ,ト「「はい,お世話になりました.」」
メ:「それじゃあ行こっか.トモシビ.」
ト:「おう.」
2:「あっ,ちょっと待ってくれ!」
ト:「はい?」
2:「実はねぇ,ここ最近この町でも行方不明者件数が増えてるんだ.だから,人通りの少ない場所に行ったり,真夜中に出かけるようなことはできるだけ控えてね.もし,怪しい人がいたら全力で大声を出すんだよ?分かった?」
ト:「はい.わかりました.」
2:「それじゃあまたね.ちゃんと指定の宿に泊まるんだよ.」
メ,ト:「「はい!」」
こうして,トモシビとメリーはようやくハジメ町へと足を踏み入れるのだった.
──────────────────
タッ,タッ,タッ,タ・・・
メ:「・・・.」
ト:「・・・.」
門をくぐり,ハジメ町に足を踏み入れた二人.しばらく黙って歩き,そして─
メ,ト:「「たえたーーーーーー.」」
一気に緊張を解いた.
メ:「ほんとありがとう.トモシビがいなきゃ多分ぼろ出てた.」
ト:「そんなこともねぇと思うぜ.てか,普通に見直したよ.別の魔女に助けてもらったことにするなんて.それなら,自分が魔女とも怪しまれないし,魔女の好感度も上げることが出来るもんな.すげぇ考えてんじゃん.」
メ:「ふふん.まぁね.・・・それにしても──」
メリーは得意げに鼻を鳴らすと,周りの見渡した.
初めての町,初めての都会,ハジメ町.
何人もの人が通りを行きかっており,周りには村の家よりも大きく,それでいて丈夫そうな家が立ち並んでいる.色は赤茶色の家が多いが,ところどころに白も混じっており,窓には花瓶が置いてあったり,干してある洗濯物が見えたり,2階の窓を開けて頬杖をついて外の景色をボーっと眺めている人なんかもいる.
メ:「──すごいね.ハジメ町って.人もたくさんいるし,こんなに大きくて丈夫そうな建物があって,色も綺麗・・・.ほんと夢みたい・・・.」
ト:「まぁ,ハジメ町はこの辺じゃ一番発展してるからな.『交易とレンガの町』って言われるくらいだ.」
メ:「交易とレンガの町?」
ト:「ああ,この町は国の辺境に位置しててさ.一応名目上はレアンっていう貴族の領地なんだけど,実質的に自治が認められてるんだ.そのおかげで,商人が自由に商売ができるから交易の町として発展してるのさ.まぁ,独立国家時代の独自の交易ルートの存在もデカいけどな.レンガの町っていうのはレンガの産出量が有数なことと,この町のほとんどの建物がレンガ造りだからそう呼ばれてるって感じだな.」
メ:「へぇー,そうなんだ.・・・ちなみにレンガってなに?」
ト:「レンガっていうのは粘土から作る丈夫な石みたいなもんのことさ.主に建造物の素材として利用されるもので,今見えてる建物は全部レンガで出来てるはずだぜ.さっき見たこの町の城壁も多分レンガで出来てると思うし,今俺たちが歩いてるこの地面だって,レンガで舗装されてるんだぜ.」
メ:「えっ,この地面もレンガなの!?・・・そうなんだ.確かにところどころ切れ目があって変だとは思ってたけど,この硬い地面,レンガでできてたんだ.・・・すごいね.レンガって.」
ト:「ああ,すごいぜ.レンガは.」
メ:「・・・なるほどね.植物からじゃなくて石でできてるから,建物も地面もこんなに丈夫そうなんだ.・・・ていうか,トモシビって意外と物知りなんだね.素直に感心しちゃった.」
ト:「・・・まぁ教養はある程度たしなんでいるからな.メリーも俺と一緒にいればいずれ来れると思うぜ.知識人側に.」
メ:「・・・あれ?なんだろうこの匂い.」
そのとき,ふいに美味しそうな匂いがメリーの鼻をくすぐる.
メ:「あっちの方からすごいいい匂いする.」
ト:「ああ,この匂いはぁー多分屋台から来てる匂いだろうな.」
メ:「やたい?」
ト:「果物や野菜,焼き鳥やフランクフルトなんかを売ってる店が路上に立ち並んでんのさ.まぁ行ってみたら分かると思うぜ.」
メ:「へぇー,そんな場所があるんだ・・・.」
メ:(食べ物屋さんが立ち並んでる場所かぁー.どんなとこなんだろう.・・・やばい,考えただけでお腹がすいてきた・・・.)
ト:「いやーそれにしても,いつから考えてたんだ?あんないい言い訳.」
メ:「・・・.」
ト:「おいメリー?聞いてるか?」
メ:「えっ?!ああ,ごめん.聞いてなかった.何の話?」
ト:「門番にした言い訳の話だよ.あんな上手い言い訳いつ考えたんだ?」
メ:「ああ,あの言い訳?あの言い訳はね,わたしがトモシビと会う前にトクダ村ってところを訪れてたんだけど,そのときに魔女ってばれてひどい目にあったことがあって.それで,魔女ってばれずに魔女がいい人ってわかってもらうにはどうすればいいかなって考えた時にひらめいたのよ.『そうだ!人助けを魔女がやったことにして,わたしは目撃者役をすればいいんだ!』って.」
ト:「へぇー,そんなことがあったのか.意外と修羅場くぐってんだなぁお前.」
メ:「まあね.」
ト:「・・・人助けを魔女がやったことにする・・・か.地道ではあるけど,いろんな場所でやっていけば確かに魔女への偏見がなくなる日がくるかもしれないな.」
メ:「うん.わたしが絶対魔女が普通に生きていける世の中にするんだから.」
ト:「・・・すげぇな,お前.」
メ:「ん?何か言った?」
ト:「いんや,何にも.メリーの夢,応援するぜ俺は.」
ト:(ぜってぇ面白いもん見れるだろうしな.)
メ:「そっか.・・・一応ありがとうとは言っとく.」
ト:「おう.・・・さて,それじゃさっそく宿屋に行くか.」
メ:「えっ?」
ト:「・・・えっ?なんかおかしなこと言ったか?」
メ:「いや,だって.トモシビ,お腹すいてないの?わたしたち,まだ朝ごはん食べてないんだよ?まずは屋台に行って,美味しいもの食べようよ!」
ト:「いや,確かにお腹はすいてるんだけどよぉ,それ以上に眠くない?・・・あっ,そっか.そうだよな.メリーは寝てたもんな.俺,今すんげぇ身体がだるくてよ.昨日から一睡もせずにぶっ通しで身体動かしてたからすんげぇ疲れてんだよ.だから一刻も早く宿屋にいって身体を休めたいんだ.」
メ:「あっ,そっか.確かにそうだったね.トモシビは気を失ってたわたしをおんぶしてくれてたもんね.・・・それじゃあまずは宿屋に──」
『グーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・.』
突如,メリーのお腹から怪物のような胃の鳴き声が響き渡る.
メ:「・・・.」
ト:「・・・.」
メ:「・・・宿屋にいこっか.」
ト:「いや,無理すんなメリー.普通に二手に分かれようぜ?俺は宿屋に行く.メリーは飯を食べに行くって感じで.名刺も二枚あるし.二人一緒に宿屋に行く必要はねぇだろ?」
メ:「あっ,なるほど!その手があったか!あったまいいねトモシビ!それじゃあわたし,屋台に行ってくる.またね!トモシビ!」
ト:「おいおい,ちょっと待て!流れるように行こうとするな!」
メ:「えっ?どうして止めるの?」
ト:「いや,お前・・・その格好のまま飯食いに行く気か?」
メ:「えっ,格好?」
メリーはトモシビに指摘され,初めて自身の服装をまじまじと見つめる.そうしてようやく,メリーの黒い衣装がポチのかぎ爪で無残な姿になっていること,血と砂と汗でかなり汚れており,悪目立ちする服装であることに気づいた.
メ:「ああ,確かにボロボロだ.まずは人に聞いて服屋さんを探さないと.・・・ええと.」
メリーはあたりをきょろきょろと見渡す.子供連れの母親,屈強な男性.中年女性の二人組は楽しそうにおしゃべりしながら歩いている.いっぱいいる.周りに人はいっぱいいるのだが,彼らの時間に急に割って入ってよいのだろうか?
メ:(やばい,話しかける勇気が出ない.)
ト:「ん?どうしたんだ?」
メ:「いや,わたし,人に話しかけるのまだあんまり慣れてなくて・・・.」
ト:「お前,意外とそういうとこあるんだな.・・・なんかあったらフォローしてやるから,さっさと服屋の場所聞きに行けよ.」
メ:「・・・ありがとう,トモシビ.・・・すぅー・・・はぁー・・・,よし!すみませーん.」
メリーは深呼吸をし,気合いを入れると,近くを通りかかったおばさん二人組に声を掛けた.
通行人1:「はい?あらっ!?どうしたのその格好.ボロボロじゃないっ!?」
メ:「えと,山を越える途中でいろいろ大変な目にあっちゃって.この服治したいんですけど,治してもらえる場所しりませんか?」
通行人1:「そうなのかい.それは大変だったねぇ.・・・服屋ね,それならキチノ屋がいいと思うよ.」
メ:「キチノ屋?」
通行人1:「銭湯と隣接してる服屋でね,服の貸し出しやクリーニング,縫い直しなんかもしてくれるの.」
通行人2:「そうだ!お嬢ちゃん,あたしたちに付いてくるかい?あたし達,いまちょうど銭湯にいく途中だったんだ.服屋まで案内するよ?」
メ:「ほんとにっ!?ありがとうございます!」
メ:(やった!上手くいった!)
メ:「・・・それじゃあ,トモシビ!わたし行ってくるわね.」
ト:「おいっ,もう一つ大事なことがあるぞ.」
メ:「えっ?まだ何かあるの?」
ト:「メリーおまえ,金は持ってんのかよ?」
メ:「・・・かね?」
聞きなれない単語にメリーはキョトンとする.
ト:「えっ?お前まさか,お金を知らないわけじゃないよな?」
メ:「・・・あっ!?おかねっ!!そっか.思い出した.そういえば町ではお金がないと何も食べれないってお母さんが言ってたんだった.・・・どうしよう.わたしお金持ってない・・・.」
ト:「はぁ.・・・やっぱな.そんなとこだろうと思った.」
メ:「どうしようトモシビ.このままじゃわたし,服屋さんどころか,何も食べれなくて死んじゃうよ・・・.」
ト:「・・・仕方ない.メリー,手ぇだせ.」
メ:「えっ,手?」
メリーは訳も分からず,トモシビの言われた通りに両手を差し出す.トモシビは自らのポケットをゴソゴソすると,「・・・ほい.」と,一枚の丸い銀色の何かを差し出された両手の上に置いた.
メ:「!!これって・・・.」
ト:「金だよ.一万銀貨だ.一週間は飯が食える額だぜ?」
メ:「えっ!?これだけで一週間もご飯が食べられるの!?そんな大金を・・・ありがとう!トモシビ!」
ト:「おう.いいってことよ.」
ト:(まぁ,これだけの大金を手に入れられたのは山賊倒してくれたメリーのおかげだからな.ある程度は贅沢させてやらねぇと.)
メ:「それじゃあ,今度こそわたし行ってくるね.またね!トモシビ!」
ト:「おう.じゃあな.」
メ:「・・・あっ.」
おばさんたちの下へ駆けだそうとした直前,メリーは再びトモシビの方を振り返る.
メ:「晩御飯は一緒に食べようね!ばいばい!」
ト:「・・・おう.」
そうして,今度こそメリーはおばさん達と一緒に服屋に向かうのだった.
ト:「・・・」
トモシビは小さくなっていく彼女の背中をただただボーっと見つめる.
ト:(・・・そんじゃ俺は,さっさと宿屋で眠るとするか.)
こうして,トモシビとメリーは,町に来て早々,二手に分かれるのだった.




