流れ星のメテ男さん
ここではないあるところに、りゅうくんとせいちゃんという、ちいさなかわいい兄妹がいました。
「あ、流れ星!」
2人は星が降るような、きれいな夜の空をながめながらこんな事を話しています。
「せいちゃん、流れ星さんにねがい事を3回となえたら、ねがい事がかなうんだって」
「おにいちゃん、ほんとー? あたしもやってみるー」
2人は流れ星を見つけるたびに、願い事を唱えてみますが。
「あっ、もう行っちゃった」
「流れ星さんはいなくなるのが、はやいねー」
3回唱える前に、流れ星は消えてしまいます。
「じゃあ、流れ星さんをつかまえて、おねがい事をしてみようか」
「うん!」
りゅうくんとせいちゃんは、虫取り網をお空に向けてぶんぶん振りましたが、流れ星はなかなか捕まりません。
「あーあ、流れ星さんをつかまえられたらなー。たくさんおねがいできるのに」
「ほんとだねー」
すると2人の目の前に、光の玉がひゅーんどかーんと落ちてきました。
*
『ううううう……、もう腹が減って動けない……』
りゅうくんとせいちゃんがビックリしていると、光の玉が話しかけて来ます。
「おお、そこの子供たち。すまないがおれに『箒』を食べさせてくれないか? 腹が減ってしにそうだ」
「え、ホウキを? たべるの?」
「怪しいものじゃない、おれは流れ星だ。あまり知られちゃいないが、流れ星はホウキが主食なのさ」
「えっ? 流れ星さん?」
2人は、家から玄関先を掃除するホウキを持って来て、ガスバーナーで表面を軽くあぶってあげると、流れ星はモリモリとそれをおいしそうに食べます。
「おお、ありがとう! 生ホウキでもぜんぜん良かったんだが、まさかひと手間くわえてくれるとは。お前たちはいい子だな」
流れ星にほめられて、りゅうくんたちはニコニコです。
「あと、家の中をはくホウキも持ってきましたけど、どうですか?」
「お前たちは、ほんとうに気が利くなあ」
「あと、そうじきも持って来ましたけど食べますか?」
「掃除機はいらないなあ」
りゅうくんたちのおかげで、流れ星はお腹がいっぱいになりました。
「いやー、助かったぞ。お前たち、名前は?」
「ぼくの名前はりゅうです。この子は妹のせいちゃんです」
「おれの名前はメテ男。5億キロ彼方の小惑星群からやって来た、『流れ星のメテ男』とはおれの事さ」
光の玉はそう名乗り、きらーんと身体を輝かせます。
「ホウキのお礼に、お前たちの願い事を何でも叶えてやろう」
「えっ、ほんとうに?」
「ああ、ほんとうにほんとうさ。ためしに願い事を3回言ってみな」
「世界をせいふくしたい、世界をせいふくしたい、世界を」
「ちょっと待て」
あわてて願い事を止めるメテ男さんに、お兄ちゃんのりゅうくんはぷっくりほっぺをふくらませます。
「えー、あとちょっとで3回となえられるところだったのに」
「いや、いきなりそれか? もっと子供らしいお願いを期待してたんだが」
すると、りゅうくんはもじもじしながら。
「じつは、ぼくたちのお父さんは『そうりだいじん』なんです」
「そりゃまたすごい。だが、それが今の願いとどんな関係が?」
「お父さんはいつも言っていました。『あー、世界をせいふくしたいなー』と」
「そうりだいじんが一番言っちゃダメなやつだろう」
「だから、ぼくがお父さんのかわりに夢をかなえてあげようと思って」
「親孝行なのはいいが、内容が内容だからな」
「ちなみにお父さんが一番好きなのは、福岡の博多女子高校の『せいふく』です」
「その情報は知りたくなかったなあ」
たぶん橋本◯奈の大ファンなんだろうなあと思いつつ、メテ男さんは聞かなかった事にしました。
「一応言っておくが、他の誰かを不幸にするような願い事はダメだからな」
「はーい」
今度は、妹のせいちゃんが元気に手を上げます。
「あたし、お空をじゆうにとびたいのー」
「昔のドラ◯もんか? それならお安い御用だ。空飛ぶじゅうたんを出してやろう」
「ううん、ちがう。のんだらとぶ『おくすり』があるっておしえてもらったから、それがほしいの」
「飛ぶ意味が違くない!? 誰から教えてもらったの?」
「おかあさん」
すると、せいちゃんはもじもじしながら。
「じつは、あたしたちのおかあさんは『やくざ』さんなの」
「マジか!? その情報は聞きたくなかったぞ」
「えへへ、ちがった。『やくざいし』さんだった」
「その2文字で、だいぶ意味が違ってくるからな? とりあえず、空飛ぶじゅうたんでかんべんしてくれないか」
「いいよー。そらをとびたい、そらをとびたい、そらをとびたーい」
「タリキホンガンッ!(呪文) 出でよ、空飛ぶじゅうたん!」
ばぼん! と、けむりとともに、ふわふわ宙を浮く豪華なペルシャじゅうたんが出てきました。
りゅうくんとせいちゃんはそれに乗って、メテ男さんといっしょに空の旅を楽しみました。
*
それから2人は、メテ男さんにお願いしてオモチャをもらったり、お菓子をもらったり、一緒に遊んだり、人に迷惑をかけない限りで願い事を叶えてもらって楽しい時間をすごしました。
「フライドポテトがたべたい、フライドポテトがたべたい、フライドポテトがたべたい」
りゅうくんが願い事を唱えると、お空からたくさんのフライドポテトがふって来ます。
「メテ男さんの分もおねがいするねー。フライドホウキがほしい、フライドホウキがほしい、フライドホウキがほしーい」
「お前たち、ほんとうにいい子だなあ。タリキホンガンッ! 出でよ、フライドホウキ!」
ボトボトッと空から、お座敷用ホウキ、竹ぼうき、松葉ぼうきなど、色んなホウキの揚げ物が降って来ました。
2人と1玉は星降る夜空を眺めながら、仲良くフライを食べました。
そうこうしていると、だんだん空が明るくなってきました。
「ああ、もうすぐ夜が明ける。そろそろお別れの時間だな」
「えー、メテ男さんもう帰っちゃうのー?」
「いいや、おれはこのまま消えてなくなる」
「「えっ!?」」
「本来なら、一瞬で流れて消えるが流れ星の宿命だ。まさかこうやって一晩過ごせるとは思いもしなかったが」
「……」
「そんな悲しい顔するな。1日だけだが、お前たちみたいな良い友達もできたし、おれは幸せだったぞ」
りゅうくんとせいちゃんは、しくしくと星くずのような涙をおとします。
「さあ、次が最後のお願いだ。何が望みだ? 使っても無くならないお金か? それとも、誰にも負けない無尽蔵の怪力か?」
りゅうくんとせいちゃんは、こくんとうなずき合うと、声を合わせて言いました。
「「メテ男さんにまたあいたい、メテ男さんにまたあいたい、メテ男さんにまたあいたーい!」」
すると、メテ男さんの身体がオーラのようなものに包まれます。
「うおおおおおおおおおおっ!?」
ばぼん! と、メテ男さんの背中からホウキのようなしっぽが生えて、メテ男さんは『流れ星』から『彗星』へとクラスチェンジしました。
「おおお! お前たちのおかげで彗星になることができたぞ。ありがとう!」
「じゃあ、メテ男さんとまた会えるの?」
「そうだなあ。お前たちが生きていたら、いつか必ずまた会える。それまで元気でな」
「うん! またねー」
「ばいばーい」
りゅうくんとせいちゃんは、キラキラと尾を引きながら宇宙へと昇って行くメテ男さんに、いつまでもいつまでも手を振り続けました。
それから何年か、はたまた何十年か後。
彗星になったメテ男さんは太陽系をぐるっと一周して地球に戻り、大きくなったりゅうくんとせいちゃんと再会したとのことでした。
めでたし、めでたし。
おしまい