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プロローグ

 暗い場所は苦手だ。暗い場所は怖いから。

 明るい場所は苦手だ。明るい場所は眩しすぎて、消えてしまいそうになるから。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 寂しい場所は苦痛だ。孤独は、理性を狂わせる。


「や、やめてくれ!俺は何もしてない……何も知らないんだ!!」


 痛いのは嫌いだ。命のひりつく感覚が忘れられなくなるから。


 刃を持った男は無表情に、慈しむように泣き喚く男に斬りかかる。

 バサリ、バサリと急所を重点的に執拗に、何度も切る。息が止まるまで、何度も。


「い、たい…やめてくれぇぇぇ…死んじまう……」


 何度も、何度も、何度も。斬って、斬って、斬って。人間だったモノの苦悶が痙攣に変わった時、刃を持った男はぽつりと呟く。


「悪いな、仕事なんだ」


 感情のこもっていない機械的な謝罪が辺りに響く。冷たい鉄のような声だった。

 それを受け取るものはそこにはもう存在せず、ただ、むせかえるような血の匂いと不気味なほどの静寂に溶けてゆく。


 まだ新鮮な死体を啄ばもうとする鳥も、群がりたそうにしている蟲も、鉄の男の前では動こうとしなかった。否、動けなかった。


 それは、鉄の男の発する異様な空気のせいか。または男の死体が、地面に沈んでいっている(・・・・・・・・・・・)からか。


「裁きを受けよ、罪人(・・)


 ドプン、と音がしたとき、そこに男の死体はもう存在していなかった。

 鉄の男も、同様に。


こうして既に肉塊となった男……ロイスは静かに息を引き取った。


◤◢


 次にロイスが目を覚ました時、世界は一変していた。しかし彼には冷静に物事を考える余裕なんてあるはずがなかった。


(痛い痛い痛い痛い……怖い!!死にたくない!!俺はまだ、まだ……!!)


 しかし想いは声に出ることはなく、泣き声に変換されて世界に放たれた。

 赤子の泣き声として……


「〜〜〜〜!!!」

「おお〜よしよし、どうちましたか〜〜?」


 (!?!?!?)


 ロイスは驚いた。未だ状況を掴めていない彼は本っ当に驚いた。それはもう天地転変の勢いで。


(どういうことだ……ここはどこだ!?クソっ、目が見づらい……耳も聞こえづらいと思っていたが、俺の身に一体何が起こっている?)


 疑問の種は、一度発芽したらもう止まることを知らない。

 手足の感覚が鈍いのは斬られたからだと思っていたが、温もりは感じるという違和感。

 包まれるような仄かに香るいい匂いが鼻腔をくすぐる。戦地あそこでは血と砂の匂いしかしなかったのに。


(わからない……ここは一体どこで、俺はどうなってしまったんだ!?)


 何かわからないが、どうしてか安全な場所ということは何となく理解できた彼は、静かに瞼を閉じる。少なくとも危害はないだろうと、次に目が覚めたときに謎を解明出来ると期待して……


◤◢


 「ハッ」


 燃え盛る業火を背中に背負った悪人は鼻で笑う。薄汚れた金色の髪を触りながら、大岩に行儀悪く座っている。


「アイツ、この俺を神とかほざきやがってよォ。せいぜい見守ってやるぜェ、そうまでして何を成し遂げたかったのか、何がそこまでお前を駆り立てたのかよォ」


 その鋭い目つきは不敵に釣り上がり、三日月のような口で嗤った。

 カラン、カラン。男は石を積む。ただ無意味に、贖罪のように。

 大小様々な石が積まれては崩れ、積まれては崩れる。男は繰り返す。永遠と。無限とも比喩されるその罪を贖うまで。

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