6話 彾嘉の家族
「良い湯だったな〜」
エンジュは彾嘉が普段使っているハンカチで頭をガシガシ拭く。
「今日の夕飯は肉が食べたいな」
ピンク色の可愛らしいパジャマに着替えるエンジュを彾嘉は聞き流しながら化粧水を顔に塗る。
「さてと、良い時間だし飯でも食いに行こうとしようかな」
「え…?」
お風呂上がりのルーティーンを済ませると同時に、彾嘉の目前にエンジュが飛んで来ていた。
「憑依!」
「わっ」
エンジュが彾嘉のおでこに入って行く。
「さ〜て!ごはんごはん!」
『ちょっと!憑依するなら言ってくださいよ!』
「する」
『遅いですよ!』
彾嘉のことなど気にもせずに意気揚々とリビングへと駆け降りて行く。
「りょーかごはん!」
リビングに入ると今年5歳になった妹が足にしがみついてくる。
「なんだコイツ?!」
『一番下の妹の陽鞠です』
「お、おお〜、陽鞠か〜!お兄ちゃんだぞ〜」
「わあ〜!!」
エンジュが高い高いしてやると陽鞠は嬉しそうに足をバタバタとさせる。
「珍しいわね、彾嘉が陽鞠と遊んであげるなんて」
料理が盛られた皿を食卓に置いてきながら母親の水瀬朋子が驚いていた。
「お前のお母さん若過ぎじゃないか…?!20歳くらいだろ」
『それはよく言われる…四十代には見えないよね』
彾嘉の母親は周りに比べて圧倒的に若く見え、授業参観などでは注目される。なので父親の再婚相手などと学校来た時にクラスメイトたちに色々と噂されていた。
「ねぇねぇ、りょーか!おまんじゅしまいのうたうたって!」
「なんだ?それ?」
『おまんじゅう姉妹っていう子ども番組で人気の歌です。僕も歌詞は知らないですね……』
「まんじゅ〜♪まんじゅ〜♪なかよ〜しまんじゅうしま〜い♪」
「遊んでないでご飯にしましょ」
歌っている陽毬にエンジュが困惑していると母の救いの声が聞こえる。
「ご飯だ〜!」
「……」
リビングに元気な声がまた響く。新しい元気な声の主はリビングに入ってきた妹のものだった。
無言で入ってきた凛花はお風呂に入ったのか腰まである黒髪は少しだけしっとりとしている。
元気に入ってきた柚姫は肩まで伸ばしたボサボサの金髪に、帰ってきたばかりなのか学生服を着ている。
「やった!今日は唐揚げだ!」
柚姫は食卓に座ると彾嘉に気づく。
「あれ?!珍しい!彾嘉がひまと遊んであげてたの?!」
「お前いつも遊んであげてないのか?」
『うん、生まれた時は遊んでたんだけど、最近陽毬を持ち上げると次の日筋肉痛になるから遊んであげてないんだ)
「こら、柚姫。お兄ちゃんでしょ」
兄である彾嘉を呼び捨てにした事を怒る母だが、彾嘉としては何年もお兄ちゃんなど呼ばれたことがないので今更でもう諦めている。
「は〜い」
全く反省をしていない返事をして柚姫は食卓に着く。後ろにいた凛花も柚姫の横に座る。
「彾嘉と陽毬もご飯よ」
「ごっはんごっはん!」
陽毬は陽気に踊りながら自分の椅子へと向かっていく。
エンジュは空いている席に座る。その横に母親が座り、彾嘉の前には柚姫、その横に凛花、真ん中にある椅子に陽毬が座るのが水瀬家の食卓の座り方だ。
「それじゃあ、いただきます!」
全員が挨拶を済ませるとエンジュは唐揚げを口の中に放り込む。
「美味い!めちゃくちゃ美味い!」
唐揚げを食べながらご飯を口にかきこむ。その豪快な食べ方を全員が不思議そうな顔をして見る。
「今日はよっぽどお腹が空いてたのね。お母さんの唐揚げも食べる?」
「ん…自分のだけで大丈夫です!でもご飯おかわり!」
「いっぱい盛っておくわね」
茶碗を受け取った母は綺麗に山にしてご飯を盛り付ける。
エンジュはそのご飯を唐揚げをおかずにまた豪快に食べる。
「それにしても気のせいかしら?彾嘉ってこんなに女の子っぽかった?」
エンジュが憑依した彾嘉の髪を撫でる。
「ゴホゴホッ!!」
突然の母親の発言に驚きエンジュは豪快に咽せる。
「汚ーい」
「きたなーい」
柚姫と陽毬の冷たい野次が飛ぶ。
「二人ともそんなこと言わないの。大丈夫?」
背中を優しくさすられる。
「だ、大丈夫……むがむが!ごちそうさま!」
エンジュは勢いよく最期の唐揚げを口に放り込んで食器を片付ける。




