4話 契約
「良いだろう。どうしてお前のようなアホのところに、俺のようなエリートな可愛いい天使が来たのか教えてやる」
「はぁ…」
「っと、その前に取り憑かれた人間からどうやって堕天使を引き剥がすかの方法を教えておいてやる」
エンジュがスケッチブックのページを捲ると女の子が目をバッテンにして倒れている。その横でキラキラした女の子がボディービルダーのようなポーズをしている絵だった。
よく見れば倒れている女の子の上に黒い球が浮かんで描かれている。
「これは…」
「取り憑かれた奴の体から堕天使を追い出すには、心に大きな衝撃を与えるんだ。そうすると堕天使は取り憑かれた奴の体から出て行くんだよ」
「…なるほど」
スケッチブックの絵は、キラキラした女の子に負けた女の子が大きくショックを受けて堕天使が追い出されている絵だったのかと彾嘉は納得した。
「お前が1番疑問に思っていることに答えてやる。実はお前が堕天使を追い出せる特殊な力を持っていて凄いヤツの生まれ変わりで先祖が凄いヤツとか…」
「そうなんですか…?!」
まさか自分自信にそんな特殊能力があるなんてと、彾嘉は緊張でゴクリと喉を鳴らす。
「ではない!」
「ええ〜!」
彾嘉は漫画のようにコケそうになった。
「俺たち天使はな特殊な能力を持ってる。俺の能力は『1人の人間に一日一回だけ本音を言わせる能力』と『超身体強化』の二つだ」
「え?大きくなるのは違うんですか…?」
「大きく?ああ、あれは違う」
「どうして違うんですか?」
エンジュはめんどくさそうには頭を掻く。
「大きくなるのは地上で1日に3分しかなれねぇ。こんな時間制限があるのを能力にカウントしねぇ!分かったか!」
「は、はい…」
彾嘉は小さいのに迫力があるエンジュに怯え小さく頷いた。
「それとコレも能力じゃないが…この紙だ」
天使は小さな鞄からA4サイズの大きさの紙を数枚取り出す。
「?」
「この紙は『仮契約書』と『本契約書』だ。仮契約書は破いたら目の前の気を失っている人間の体に入れる。本契約書は人間に名前を書いてもらい契約して、契約した人間の体に俺がいつでも憑依して操れるようになる効果がある」
「へぇ…」
「へぇ…って!お前、俺の話をここまで聞いてても分からないのか!」
エンジュは彾嘉の顔の前まで来て叫ぶ。
「すみません、全然分からないです…」
「はぁ〜…つまりだな!お前の体に憑依して俺が操る!そんで取り憑かれている女の自信があるもので勝負する。その勝負に勝って心に大きなショックを与えて堕天使を追い出す!そのためにお前のところに俺は来たんだよ!」
「…え?ちょっと待って下さいよ!なんで僕に負けるとショックなんですか?」
エンジュは彾嘉を見つめ呆れた顔をする。
「良いか〜、よ〜く聞けよ!お前みたいな女顔のダメダメ男に勝負して負けるなんてショックだろ!」
エンジュは探偵が犯人に決定的な証拠を突きつけるように彾嘉を指差して言う。
「そ、そんな…」
彾嘉も探偵に犯行がバレた犯人のようにショックを受けヘタリ込む。
「まあ、ポジティブに考えようぜ。お前のダメダメさのおかげで堕天使を追い出せるんだ」
肩を落とす彾嘉の肩をポンポンと叩き慰めるエンジュ。
「全然嬉しくないですよ…」
「それじゃあ俺と契約してくれるな?」
「え?」
「え?ってそういう話をずっとしてただろ!」
エンジュは椅子に飛んで行きスケッチブックの横に戻る。
「お前に俺が憑依すれば堕天使を追い出すことができるようになるんだ!」
「憑依って具体的にどうなるんですか?」
「さっきも言ったように、お前の体を俺が操るんだ」
「操る…」
人を助けたい気持ちはあるが、彾嘉は不安で俯く。
「なにを悩んでるんだよ!俺のようなエリートがお前みたいな落ちこぼれと組んでやろうって言ってんだ!悪くない話だろ?!」
「…落ちこぼれ」
彾嘉の胸がチクリとした。
「本来こんなことないんだぞ!契約しようぜ!な?」
「嫌です…」
「あぁ?」
「嫌です!契約はしません!僕みたいな落ちこぼれじゃなく、もっと自分と同じようなエリートな人に頼んで下さい!」
「ふっざけんな!」
エンジュは思い切りスケッチブックを蹴り飛ばす。
「お前じゃないとダメなんだよ!話聞いてなかったのか?お前みたいなダメダメな落ちこぼれが、取り憑かれている女に勝ってショックを与える事に意味があるんだ!」
「そ、それなら!衝撃を与えるくらい幸せにして追い出す方法があるじゃないですか!……そ、そうですよ!イケメンでスポーツが出来る人と組んで女の子を幸せにしてあげて、追い出せば良いじゃないですか!」
「っ!ちっ、バカのくせに考えたな…分かったよ」
エンジュは俯く。少し言い過ぎたかと彾嘉も冷静になる。
「……あの」
「お前の言う通りだ、お前のことは諦める」
「え?良いんですか?」
「ああ。そこまで拒まれちゃあな、諦めるしかないだろ」
先ほどの態度が一変し、エンジュはしょんぼりとしている。
「あの…わざわざ来てもらったのに、断ってしまってすみません」
「良いんだよ。気にすんな…一応、天界に断られた事を報告しないといけない。断りますって書類にサインだけしてもらっても良いか?」
「え?はい」
エンジュはA4サイズの1枚の紙と1本の羽ペンを鞄から取り出す。
「これ、なんて書いてあるんですか?結構紙にギッシリ書いてありますけど」
「これは断ることに関してのアンケートみたいなもんだ、気にしないでくれ。下の枠にフルネームで名前を書いてくれるだけで良い」
「はあ…」
彾嘉は床を机代わりにして紙に名前を書く。
「これで良いんですか?」
名前を書き終わった紙をエンジュに手渡す。
エンジュは名前を頷きながら確認し、指をパチンと鳴らすとシュンっと紙が消えてしまった。
「ありがとう。最後に握手を…天使として最後に幸せを祈らせくれ」
「はい。ありがとうございます!」
彾嘉は左手を差し出すと天使は小さな手で彾嘉の薬指を掴む。
「ふふふふ…契約完了〜」
「え?」
「天使エンジュと、人間水瀬彾嘉との憑依の契約が完了した!」
「え?…あっつ!!」
薬指に熱い感覚があり、見ると羽を模したタトゥーが指輪のように彫られていた。
「やったぜー!ニャーハハハハハ!!!お前の体は今日から俺のものだー!!」
「どういうことですか?!天使さん!」
「まだ分からないのか?!お前がさっき書いた紙は本契約の紙だ!俺と握手したことで契約は完了したんだよ!」
「僕のこと諦めたんじゃ…!」
「諦めるか!お前みたいな優良物件をな!ニャッハハハハハハ!」
「そ、そんな…」
やり口が完全に悪魔のようだと彾嘉は思った。
「安心しろ!100体の堕天使を捕まえたら契約は終了して俺は天界に帰る」
「100体…」
「よろしくな。りょーか!」
この日から水瀬彾嘉とエンジュの物語が始まった。