第20話 『2人目の堕天使』
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彾嘉は静かな自室で本を読んでいた。
ノートパソコンを買う為にお小遣いはあまり使わず、節約のために買わずに図書室にある本を借りて読んでいる。
目標額まであと少し、現在の彾嘉の生きる目標のようなものだ。
エンジュは明日から休みだと知ってから落ち込んでしまい、彾嘉の机の上で不貞腐れて寝ている。
数日前までは当たり前だった静けさに、彾嘉はとても落ち着いていた。
「りょーかーー!!ヒマだあーー!!」
本に夢中になっていた彾嘉の耳元でエンジュが突然叫ぶ。
「わあああああ!!」
近付かれていたことに気付かず、驚いて思わず声が出てしまう。
「な、なに…?!」
「ヒマ過ぎだ!りょーか!!」
キーンと鳴っている左耳とバクバクと激しく鼓動する胸を押さえながら、彾嘉は慌てながらエンジュに聞く。
「朝から本ばっかり読みやがって!別に本を読む事は良いことだ!読んで知識を身に付けたり、話のネタにしたりと絶対に本は読むべきだと思う!だけどな、俺はヒマなんだ!だからなんとかして俺を楽しませろ!」
なんて自分勝手な考え方なんだろうと彾嘉は心の底から思った。
「そうだっ!りょーか、アイス買いに行こうぜ!あったかくなってきたし、アイスが食いたい!」
「……」
「なんだ?その文句がありそうな目は」
「別に…」
何を言っても無駄そうなので、彾嘉は諦めて読んでいた本を閉じて着替えを始める。
着替えを終えるとエンジュは、何か言いたそうに彾嘉をジッと見つめる。
「な、なに?」
「……完全に女子だな」
私服姿の彾嘉に対してエンジュはボソリと呟く。
彾嘉の服装は黒色のダボっとしたパーカーに黒色のパンツと、体の線が分かる服装は嫌いなので基本的にダボっとしてる。そのせいで彾嘉自身は男子っぽい服にしているつもりだが、どう見てもボーイッシュな女の子の服装に見えてしまう。
「ほっといてよ!ほら行くよ」
彾嘉は下へ降りて行き、玄関で出掛ける用の靴を履く。
「彾嘉、どこかに出掛けるの?」
物音で気が付いた母親が、リビングから小走りで見送りに出て来てくれる。
「うん、ちょっとコンビニに」
「そうなの。あっ、彾嘉!」
玄関のドアに手を掛けて出ようとすると、母親に呼び止められる。
「知らない人に話し掛けられても、知らないですって言って逃げるのよ」
「……う、うん、僕ももう高校生だから大丈夫だよ」
「もうお母さん彾嘉のことが本当に心配で」
「大丈夫だって!行ってきます!」
彾嘉は話を切り上げるように玄関から飛び出す。
「りょーかのお母さんは相変わらず心配性だな、そう考えたら俺という最強のボディガードがいるから安心だ!」
エンジュは彾嘉の頭の上でシャドーボクシングをしながら言う。
「……」
「あ〜あっ、外に出ると会話出来ないから退屈だぜ!」
彾嘉は駅に行く道中にあるコンビニへと歩く。
すれ違う男性が彾嘉の顔をジッと見てくるのにも慣れたものだ。
「男の視線って分かりやすいよな。顔を見たあと胸にいくから」
「……」
「でも可哀想な男達だな!りょーかの胸なんて見てもなんもないのに!にゃっはっはは!」
「……」
何がそんなに面白いのかエンジュは彾嘉の頭の上で笑い転げる。
「おい、りょーか!シスターが居るぞ!」
コンビニが見えて来ると、頭の上で座っていたエンジュが彾嘉の頭を叩く。
「……?」
彾嘉は何を言っているのか分からなかったが、コンビニに近付いて行くにつれてエンジュの言っていることを理解した。
コンビニの入り口で紺色のシスター服を着た10歳くらいの少女が膝を抱えて座っていた。
「シスターだ!りょーか!シスターだぞ!俺とおんなじ格好だ!」
「……」
彾嘉はあまり関わりたくなかったので、シスターの少女をあまり見ないようにコンビニへと入った。
「あのシスターは神に祈ってんのかなぁ〜?もしも女神に祈ってるなら女神ってやつはロクでもないやつって教えてやるんだけどあっ!りょーか、唐揚げ食いたい!」
「……」
エンジュの注文を無言で対応して、彾嘉はATMでお金を引き落とす。
「1030…か、勝手に金を下ろされたくなかったら唐揚げを買え」
「はぁ〜…」
彾嘉は派手な見た目をした女の子の店員さんにビビりながらアイスを2つと唐揚げを買い、コンビニにから出る。
すると入り口に座っていたシスターの少女が男二人に話し掛けられていた。
「ねぇ?どうしたの家出?お兄さん達が家まで送ってあげようか?」
「そうそう、俺の車で送ってあげるよ」
「……」
少女は男たちを無視しながら膝を抱えて座り込んでいる。
彾嘉はコンビニの裏に隠れて様子を観察する。
「なんだ?助けんのか?」
「うん……助けた方がいいよ」
「でもまあ、もしかしたら本当に家まで送ってあげる優しいお兄さんたちかもしれないしな。放っておいても大丈夫だじゅる」
エンジュは彾嘉の持つ袋の中の唐揚げを見つめながらヨダレを垂らしていた。
彾嘉は男2人を観察する。エンジュは優しいお兄さんたちかもと言ったが……見た目で決めるのは悪いが、親切に家まで送るような人には見えなかった。
「エンジュ、助けてあげた方がいいよ」
「さ、家まで送ってあげるよ!」
男が強引に少女の左腕を引っ張る。
「なに?!」
シスター服の袖から左手首が見えた瞬間、エンジュの目が大きく見開く。
「っふふ、ふふふ…にゃーはっはっはは!!俺はツイている!!間違いなくツイてるぞ!!」
エンジュは少女の左手首にある一枚の黒い羽根のタトゥーを見て歓喜する。
「こんなことってあるんだね…」
「二人目だ!こんなスパンで二人目を見つけられるなんて俺はとんでもなく幸運だ!」
「……」
「りょーか!何ぼーっとしてんだ!あのガキを助けるぞ!憑依!」
エンジュは彾嘉のおでこへとスルリと入っていく。
『待って、エンジュ!何するつもり?!』
「いい加減にしろっ!つってビシッとぶっ飛ばしてやるんだよ」
『ダメだよ!それだと僕がやったみたいになるでしょ!変装か何かしてよ!』
「めんどくせぇなぁ〜…ん?」
エンジュは停めてあった原付バイクを見つける。そこにはフルフェイスの真っ黒なヘルメットが置いてあった。
「これで顔を隠せば大丈夫だろ!声も高くして喋ってやるからよ」
『それなら…』
「よし、いくぞ!』
エンジュは置いてあったヘルメットを被ると少女の元へと向かう。




