第19話『三連休』
キーンコーンカーンコーン。と放課後を告げるチャイムが鳴ると、担任の先生が挨拶をする。生徒たちは挨拶など聞かずに放課後の予定を話しながら帰る準備を始める。
「結局誰も誘えなかったなぁ〜」
先ほどまで筆箱をベッド代わりにして寝ていたエンジュが起きると、猫のように気持ち良さそうに伸びをする。
「とりあえず茶道部に行って、あのコミュ症にも部員集めれたか聞こうぜ」
エンジュは口が悪い。眉間にシワを寄せながら彾嘉は席を立つ。
前の席の心和も同じく帰りの準備を済ませて席を立っていた。
「…真那牆さん、さようなら」
彾嘉は先ほど男子生徒に襲われていたのが心配になり心和に声を掛けた。
すると声を掛けられた心和は驚いて小さく体をビクリと動かす。後ろにいる彾嘉に振り返ると、苦笑いをしながらペコペコと頭を下げて教室から早足で出て行った。
「ナンパ失敗だな」
「……」
彾嘉も教室から出て茶道部へと向かう。エンジュはすれ違う女子生徒達を見ながら彾嘉の前を飛んでいる。
「なありょーか、この学校って可愛い女子が多いよな」
「……」
「制服も可愛いから学校の前は事故が多いのかもな」
「……?」
エンジュが言っている意味が分からなかった。
「それってどうして…?」
堕天使に関する話かもしれないと考えた彾嘉は、周りに人が居ないことを確認して小声で質問する。
「なんだ、知らねぇのか?女子校とか制服の可愛い学校の前は、車を運転してるヤツがよそ見するから事故が多いらしいぞ」
「……」
意外としょうもない話だった。堕天使は全く関係がなかった。
「そういやお前ってアホのくせによく入学出来たな〜」
「……」
そう言われて彾嘉は目を細めて入学試験の日を思い出す。
入学試験を受けた日、不思議と勉強が上手くいったのかスラスラと問題が解けた。まるで一度受けたことのあるような感覚だった。
「まあ、アホなりに頑張ったんだな」
「……エンジュの学校はどうだったの?」
自分でも頭が悪いと言っていたエンジュにも聞いてみる。どうせ「お前には関係ねぇだろ!」と言われるのを覚悟の上で勇気を出して聞いてみたが。
「……そうだな。天使の学校は、人間の学校とは違って入学試験とかがねぇから簡単に入学出来た。まあ入学しても勉強も恋人を作る天使の実技もダメで、見た目もこんなんだから良い思い出はあんまりねぇけどな」
「……」
彾嘉はエンジュが私事を話してくれたことに驚いてしまう。
「でも何人か気の合う天使もいたお陰でそれなりに楽しくはあったけどな。まあ、卒業する前に人間界で堕天使を探す羽目になっちまうし」
「エンジュ、学校卒業出来てないの?そもそもエンジュって何歳なの?」
エンジュは面倒くさそうに頭をかく。
「俺の歳は人間で言うと14歳だ。卒業は…簡単に言うと中学2年で人間界に留学したみたいなかんじだな。だからこの人間界で堕天使を100体捕まえれば卒業で天使として一人前になれるってわけだ」
「そうなんだ…」
「ふん、だから精々しっかりと俺を卒業させろ」
エンジュは彾嘉の頭の上に座る。
「うん、精々頑張るよ」
「何を頑張るんですか?」
「わっ!」
背後から突然声を掛けられて心臓が飛び出そうになる。
「お、驚き過ぎじゃないですか?先輩」
声を掛けた雨宮は悪いことをしてしまったかのようにオドオドする。
エンジュとの話に夢中になっていて気が付かなかったが茶道部の近くまで歩いてきていたようだ。
「突然だったから…」
「それで何を頑張るんですか?」
「え?え〜っと…部員探し?」
頭からひねり出した言い訳を言うと雨宮はうな垂れる。
「どうしたの?」
「ぶ、部員探し……すみません、水瀬先輩。今日頑張ってクラスメイトに声を掛けようと思ったんですが無理でした…」
「だろうな、お前には期待してねぇよ」
エンジュが冷たい一言を言う。
「ま、まあ、気にしないでよ。僕も頑張って探すからさ」
「すみません…」
雨宮は深々と頭を下げる。彾嘉とエンジュは自分たちが頑張らないといけないことを再認識した。
「あの今日の部活なんですが、おやすみで良いですか?」
「うん。別に大丈夫だけど、どうしたの?」
そもそも部活として成り立っていないので、彾嘉としては休みだからと気にはならない。
「実は明日からの三連休を利用して、親戚の家に行くことになりまして…」
「ああ…」
そういえば明日から休日と祭日が合わさって3連休だったことを思い出す。
いつもの彾嘉であれば3連休前は予定をワクワクしながら立てていたが、エンジュが来てから慌ただしくしていたので完全に忘れていた。
「なに〜!休みだと〜!部員探しと堕天使探しはどうすんだよ!」
エンジュも知らなかったようで、彾嘉と雨宮の間でショックを受ける。
「家に帰って明日の準備をしたいので、今日は休みということで」
「分かった。雨宮さん、気をつけて行ってきてね」
「はい!2日間ですが行ってきますね!先輩、さようならです」
雨宮は軽い会釈をすると、小走りで帰って行った。
「帰ろうか」
「ちくしょ〜」




