第18話 『災難の始まり』
「りょーか、メシ〜」
昼休みになると、何事もなかったかのようにエンジュが戻ってくる。
エンジュの姿を確認した彾嘉は、教室を出て人が居ない体育館裏へと移動する。
「エンジュ、ずっと何してたの?あのあと凄く恥ずかしかったんだよ!」
弁当の蓋にエンジュ用にオカズを分けながら彾嘉は朝の出来事に文句を言う。
「ちっちぇことをいつまで言うなよ。おまえってやつは本当にケツの穴の狭いやつだな」
エンジュは過去のことなど気にするなと言わんばかりに肩をすくめて見せる。
「ちっちゃいことって…」
「それより、やっぱりあいつは諦めて他のやつを勧誘ひゅるかぁ」
エンジュは自分の体の半分くらいの大きさのウインナーにかぶり付きながら提案する。
「やっぱりクラスで浮いてるだけあってクセがあって面倒くさそうだ」
「そうだね…」
「そう考えたら他の適当なやつを誘った方が楽だガヴッ!」
そう言いながら自分の頭と同じ大きさの唐揚げを肉食獣のようにかぶりつく。
「んむっ?!」
唐揚げを飲み込んだエンジュが目を見開く。
「どうしたの?喉に詰まったの?水飲む?」
「違う!隠れろ!」
エンジュが体育館の外壁にある謎の出っ張りに飛んで行くので、意味が分からなかったが彾嘉も弁当を持って隠れる。
「急にどうしたのエン」
「しっ!アレ見ろ!」
エンジュの指差す方を見ると、男女の二人がこちらに歩いてきていた。
「あれは…?!」
中々の男前の男子生徒と、見覚えのある真っ金金の頭をした女子生徒が数メートル近くで立ち止まる。
「真那牆さん、突然こんなところに呼び出してごめん」
「い、いえ」
会話が聞こえる。どうやら男子生徒の方が心和を体育館裏に呼び出したようだ。
「告白だ!告白だぞ!」
エンジュが鼻息荒く興奮する。
「……エンジュ、もしかしてこういうの好きなの?」
「当たり前だ!天使は人の恋愛を見るのが大好きなんだよ!」
「へぇ…」
彾嘉はエンジュの意外な一面を知ってしまう。
「単刀直入に言わせてもらうけど」
男子生徒は髪を軽くかきあげる。
「告るぞ!告るぞ!」
エンジュのテンションが上がっていく。
「真那牆さん、俺と付き」
「ご、ごめんなさい…」
最後まで言い切る前に心和は頭を下げる。
どうやら告白は失敗したようだ。
「はぁ〜、やっぱり恋愛は良いなぁ〜」
何か満足したような顔をしてエンジュは食事を再開する。
「ハラハラドキドキするかんじ、まるでこの唐揚げのようだ」
そう言い彾嘉の弁当箱から唐揚げを食べる。
「それ僕の唐…」
「お、俺が振られるなんてありえない!!」
彾嘉がエンジュに注意しようとすると後ろから大きな声が上がる。
「俺は善意で告白してあげたんだぞ!クラスで一人ぼっちの君を俺が救ってあげようとしたのに!」
先ほど告白していた男子生徒が心和に詰め寄っていた。
「だ、大丈夫かな?」
「まあ、あーいう見た目でクラスで浮いている女には、変な男が寄って来るってのは相場が決まってるんだよ」
彾嘉の弁当箱から最後の唐揚げを頬張りながら謎の持論を唱える。
「俺と付き合うんだ!」
「ご、めんな…さい!」
心和が壁に追い詰められている。
「エンジュ、助けてあげようよ!」
「そうだな。このままだと手込めにされるのは時間の問題だ」
「手込め…?」
エンジュは最後の唐揚げを口に放り込むと勢いよく彾嘉のおでこに突撃する。
「ほうい!」
エンジュが憑依した彾嘉は上履きを脱ぎ手に持つとピッチャーのように構える。
「8%エンジュ様最きょ」
『バスケの時も言ってたけどそのパーセントなんなの?』
「俺の必殺技の最中に話しかけるんじゃねぇ」
『ごめん…気になって』
エンジュは何事もなかったかのように構える。
「くらえ!5%エンジュ様最強殺人魔球!!」
振りかぶり綺麗なフォームで投げる直前。
「説明しよう!5%エンジュ様最強殺人魔球とは、天使の能力で憑依している水瀬彾嘉の身5%パワーアップさせているのだ!ちなみに5%強化して出来る事は、2トンの重さの物をギリギリ持てる筋力になっている!」
『おぉ…!!』
噛むこともなく長文を早口で説明をするエンジュに感嘆の声を出してしまう。
エンジュの手から上履きが投げられると、凄まじい風切り音が鳴る。
「俺が本気を出したら地球を壊しちまうぜ!」
「グエ!」
エンジュが決め台詞を言うとバコッと男子生徒の側頭部に直撃する。
男子生徒は倒れると、地面に這い蹲りピクピクと痙攣している。
「……?」
突然倒れた男子生徒に戸惑いながらも心和はその場から逃げていく。
「ちっ、礼もなしかよ! あ〜あ、なんか助けて損した気分だぜ」
片足飛びしながら投げた上履きを回収して、弁当の残りを食べながら教室に戻る。




