第15話 『部室確保』
彾嘉とエンジュは茶道部の部室前に到着し、扉を開けようと手をかける。
「あれ?」
「とうちゃ〜ぶっ!」
入ろうとしたエンジュが勢いよく扉にぶつかる。
「何してんだ?あぁ?早く開けろよ…!」
彾嘉の頬を掴みヒザ蹴りをしながら本気のトーンでエンジュが怒ってくる。
「いたたた…!ごめん!扉に鍵が掛かってて!」
「なに?」
エンジュは彾嘉を掴んでいた手を離して、扉の窓から覗き込む。
「居ないみたいだな」
「そうですか」
どうするか迷っていると、廊下を走ってくる音が聞こえた。
「み、水瀬先輩!」
茶道部の唯一の部員である雨宮が必死にこちらに向かって走ってきていた。
「あ、あの…」
彾嘉の元まで辿り着くと、少し乱れた呼吸を整えながら話し始める。
「本当にあの来栖先輩に勝てるなんて思いませんでした!水瀬先輩って凄かったんですね!」
「ははは…まあ」
褒められるが、エンジュがやってくれたので彾嘉は複雑な気持ちである。
「どうぞ、立ち話も何ですから部室に入って下さい」
「はい」
雨宮に鍵を開けてもらい、茶道部に入っていく。
部室に入ると、雨宮と彾嘉は対面して正座で座った。二人のど真ん中でエンジュは寝転んで寛ぐ。
「水瀬先輩。本当にありがとうございました!もう絶対にダメだと思っていましたので…」
「お前が部員集めときゃ済んでた話だけどな」
寝転びながら横槍を入れるエンジュを、彾嘉は呆れた顔で見つめる。
「水瀬先輩、どうかしましたか?」
「いえ…」
「そうですか?」
不思議そうな顔をする雨宮はハッと何かを思い出す仕草をする。
「それでですね!残りの部員は女の子にしてほしいんですが…」
「別にいいけど、どうして?」
「私、人見知りで男の人と話すと緊張してしまうんです」
「………」
「まあ、あれだ。りょーか、気を落とすなよ」
寝転んでいたエンジュが彾嘉の足に手を置いて慰める。
「あの雨宮さん…」
「はい?」
「僕も男なんですが」
「……はい?」
雨宮は彾嘉の顔を見つめる。
「……水瀬先輩って冗談も言われるんですね」
信じていない雨宮に、彾嘉は鞄から生徒手帳を取り出して見せる。
「可愛いですね。入学した時は髪が長かったんですね」
意味が分かっていない雨宮に生徒手帳の性別が書かれている場所を指差す。
「男…本当に男の人なんですか?」
「はい。よく間違われますが」
「……」
「……」
しばしの間二人の間に沈黙が生まれる。
「す…」
「す?」
「すみません!!てっきり女の子かと思っていました!」
雨宮は正座のまま深々と頭を下げる。
「いえ…もういいんですよ。慣れてますから」
「ああ!先輩が全てを悟った目をしてます!」
自分を見ているようで別の空間を見ている彾嘉に、雨宮は必死に頭を下げる。
「雨宮さんは僕が入部しても大丈夫ですか?」
「え?どういう意味ですか?」
「あの、男の僕が入部しても良いのかなって思って」
「はい!水瀬先輩は何だか緊張せずに話せますので是非入部して下さい!」
男なのに緊張せずに話してもらえる嬉しさと、男として見られていないので話してもらえる悲しさで、彾嘉は複雑な気持ちになった。
「今日はもう遅いし明日から入部してくれそうな子を探そうか」
「はい!私も頑張って話しかけてみますね!」
初めて会った時とは打って変って雨宮は元気になった。
気付けば寝ているエンジュを起こすために、指で優しく突く。
「あ?あ〜…あまりにもつまらない会話で寝ちまってたぜ」
「……」
「どうかしましたか?」
「なにもないです…」
雨宮と校門前で別れたあと、エンジュを頭の上に乗せて彾嘉は家へと帰る。
「そういえばエンジュ、捕まえた堕天使はどうしたの?」
「ん?ああ、あの堕天使はこの『堕天使専用捕獲転送網』でな」
「転送網…?それってあのタモのこと?」
「堕天使専用捕獲転送網だ!」
「いった!!」
エンジュはタモの形をした堕天使専用捕獲転送網を思い切り彾嘉の頭に突き刺す。
「なにするの〜」
「お前が天使の使う崇高な道具を馬鹿にするからだろ」
「馬鹿にしてないよ〜」
彾嘉は突き刺された頭をさすり、血が出ていないか手で確認する。
「出てねぇよ!俺もツッコミの境界線は超えないから安心しろ!」
「境界線?なにそれ?」
「そんなことよりだな!この堕天使専用専用転送専用網でだな」
「さっきより専用って単語多くない?」
「あぁ?」
「いえ!何もありません!」
頭の上からドスの効いた声が聞こえたので彾嘉は急いで訂正する。
「この網で捕まえた堕天使は天界へと転送されて新鮮なまま産地直送されるってわけだ」
「へぇ〜、獲れたての魚みたいだね」
「そんでコレを見ろ!」
「うわっ!」
彾嘉の顔に硬い紙のような物がぶつかる。
「これは?」
手に持って確認すると、小学生の頃に夏休みに首に掛けていたラジオ体操のスタンプカードのようなデザインの紙だった。
「これがどうしたの?」
「よく見ろ!スタンプが一個押されてるだろ!」
よく見ると20マスあるスタンプの端っこに天使の羽の形をしたスタンプが押されていた。
「1堕天使につき1スタンプ押されるんだ」
「なるほど、これを100個貰えばエンジュは認められるんだね」
「そういうことだ!」
エンジュは彾嘉からスタンプカードを受け取ると、カバンの中に押し込んで仕舞う。
「ああ〜腹減った〜。家に着いたら起こしてくれ」
「うん」
エンジュを頭に器用に乗せながら彾嘉は足を進めた。




