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僕の中へ天使と悪魔  作者: 語黎蒼
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第14話 『試合(後編)』

「そんな…」


 来栖(はるか)は高校に入学すると何となくバスケを始めた。来栖は170センチの身長と持ち前の運動神経で半年でレギュラー座になり、入部した次の年ではインターハイでMVP選手に選ばれるほどの実力を発揮した。

 来栖を中心に試合は始まり、勝利で終わる。高校3年の最後のインターハイだってきっと自分が優勝に貢献して導く。

 来栖には絶対的な自信があった。その自分が何も出来ずに二回も負けた。


「あり得ない!」


 そんなはずはない。そうだ…自分はまだ本気を出しきれていないだけ、来栖はそう思いセンターサークルに静かに戻る。


「よし…」


 神経を研ぎ澄ませる。先ほど走ったせいで汗が額に流れるが、気にもとめず目の前の水瀬彾嘉に集中する。


「そうだ!良いこと思いついたぜ」


 エンジュは集中している来栖に軽い口調で話しかける。


「ずっとボールを持たせてもらうハンデ貰ってるからお礼に、今回はこの円から出ないでおいてやるよ」

「……え?」


 一瞬意味が分からなかったが、来栖は直ぐに理解した。水瀬彾嘉は今立っているセンターサークルから出ずに勝負してやると言っているのだ。


「水瀬彾嘉、どこまでも私を……!」

「ラスト勝負だ」


 ピーっと開始を告げる笛が鳴る。

 来栖は動かなかった。簡単な話だ、飛んで投げようとした瞬間にボールを叩き落とせば良い。そうすればセンターサークルから出たボールを拾ってシュートすれば終わる。


「俺が投げようとした瞬間にボールをはたき落とせば良い…そう思っているな」

「……ええ、そうよ」

「これだから2流は困る。おら!」


 エンジュは片手でボールを無作為に思い切り投げる。神経を研ぎ澄ませた来栖には、ボールを投げる彾嘉の動きがスローモーションに見えた。


「入るわけがない」


 来栖の予想通り、投げたボールは明らかにゴールのリングよりも少し上に向かって飛んでいる。


「よし…!!」


 バックボードにぶつかって落ちたボールを拾えば勝てる。来栖は一心不乱にゴールへと走る。

 ドン!と大きな音と共にバックボードに打つかると、来栖の予想していた動きとは違った。


「え…」


 打つかったボールは前に跳ね返ると、センターサークルに立っている水瀬彾嘉の手元へと戻る。


「これが超一流の力だ。取れるもんなら取ってみろ」


 ジャンプして綺麗なフォームで投げる。ボールは来栖の手の届かない高度を保ちながらゴールへと向かっていく。


「凄い…」


 観戦していた誰かが呟いた。それと同時にパスッと音を立ててゴールが決まる。


「これで三点。俺の勝ちだ」


 体育館全体が静まり返る。あまりにも片面が盛り上がっているので、途中から観戦していた男子バスケ部も静かになる。


「来栖先輩が負けた…?」

「凄くなかった?跳ね返ったボールでシュートしたよ」

「何者なの、あの子?」


 誰かが話し始めると静寂が解け、口々に思いついたことを口にする。


「ありえない!私が負けるなんて…!」


 来栖の手首からテニスボールほどの大きさの黒い玉が飛び出した。


「きたー!!」


 彾嘉から意気揚々と飛び出したエンジュは大きなタモを持って黒い玉を追い掛ける。

 その姿を見送った彾嘉は目の前で項垂れている来栖へと向き直る。


「あの…来栖先輩。どうして茶道部の部室が欲しかったんですか?女子バスケ部には既に部室があるじゃないですか」

「どうして……?私は三年生で今年でバスケ部を引退する。でもその前にこのバスケ部に何か形になる物を残してあげたかった。部室なんて多くて困ることもないしね」

「困りますよ。茶道部の部室を大切にしている雨宮さんが困るじゃないですか」


 真っ直ぐに見つめる彾嘉の瞳を見て、来栖は目を閉じて何か言おうとした言葉を飲み込む。


「……そうね。自分勝手だったのは認める。茶道部の部室は諦める」


 来栖はゆっくりと彾嘉の元まで歩を進める。


「マネージャーになれなんて言わないわ。是非女子バスケ部に入部してくれないかしら?」

「……え?」

「あなたなら直ぐにでもレギュラーになれるわ!」


 瞳をキラキラさせながら来栖は彾嘉を見つめる。


「いえ…僕は……」

「2年生だから気にしてるの?大丈夫!途中から入部してもあなたならきっと」

「僕、男なので…」

「………はへぇ?」


 目を点にして彾嘉の可愛らしい顔を見たあと、ゆっくりと目線を下げていき無言のまま来栖は彾嘉の胸を撫でる。


「な、なんですか?!」

「本当に男……」


 胸を撫でながら来栖は彾嘉の顔を改めて見る。


「あの子、男だって」

「完全に女の子と思ってた…」

「私よりも可愛いのに」


 周りの部員たちも驚いて小声で話し始める。


「そう…まあ人生そういうこともあるわよね」


 来栖は何事もなかったかのように踵を返して、女子バスケ部の部員たちが居るところへと歩いていく。


「来栖さん…」

「水瀬君凄かったね!」

「わっ!」


 背後からクラスメイトの一色莉子に話しかけられる。


「まさか水瀬君があんなにバスケが上手いなんて思わなかったよ!」

「いえ…そんな」

「また私にもまたバスケ教えてね!」


 一色は彾嘉の手を握って笑顔を向ける。


「う、うん」

「約束だよ。あ、そうだ。もうすぐ顧問の先生が会議が終わって来ちゃうから、早く彾嘉君も逃げた方がいいよ」

「うん」

「それじゃ」


 一色はそう言い部員が集まっているところに小走りで戻っていく。


「男子高校生ってやつは、女の子に少し優しくされると簡単に好きになっちまうからな〜」

「うわっ!」


 いつの間にか戻ってきていたエンジュがからかうよう話しかけられ、彾嘉は突然のことに驚く。


「エ、エンジュ…堕天使は捕まえれたの?」

「おう、彾嘉!早速一匹目を捕まえたぜ!」

「良かったね」

「良かったねって!もっと万歳して喜んだり、俺を祝福しながらブリッジして走り回れよ」


 二つ目はどんな状況であってもしない。それに彾嘉の運動神経ではブリッジは出来ない。


「彾嘉、顧問とかが戻ってくるらしいからさっさと茶道部に行くぞ」


 どこで聞いていたのかと不思議に思いながら彾嘉は、体育館の出口へと小走りで向かう。


「にゃっはっはっは〜!」


 エンジュはよほど堕天使を捕まえたのが嬉しかったのか、彾嘉の前を旋回しながら飛び回る。


「やっぱりお前を選んで良かった!」

「っ…!」


 彾嘉の胸の奥でじんわりと暖かい、フワフワとした何かが広がってくる。


「ぼ…僕もだよ…」

「にゃっはっは」

「ふふふ…」


 彾嘉とエンジュは照れ臭く笑いながら茶道部に向かった。

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