第13話 『試合(前編)』
「やっと来たわね。ビビって来ないのかと思ったわ」
バスケットボールをドリブルしながら来栖は待っていた。ジャージに着替えてたのもあり、数分遅刻してしまった。
「すみません」
謝りながら体育館に入ると、上のギャラリーのところや、隅の邪魔にならない場所で勝負を見に来たであろう生徒が数十人ほど居る。
「………」
「りょーか、野次が飛んでくるだろうが我慢しろよ」
「はい…」
来栖の前まで歩いて行く。緊張で彾嘉は本当に帰りたかったが、エンジュと繋いだ手を見つめると覚悟を決める。
「今は男子も使ってるからコートは片面でするわ。ルールは分かる?あなたは私の後ろにあるゴールに入れるのよ。1on1には色々とルールはあるけど、今回は簡単に三本先に入れた方が勝ちでいい?」
「分かりました…」
「ボールはハンデであなたが持って全部始める」
そう言いボールを来栖は彾嘉に軽く投げる。
「わっと…」
突然渡されたボールを落としそうになり何とかキャッチする。
「そんなんで本当にわたしに勝つつもり?」
かっこ悪い姿に彾嘉は恥ずかしくなり、顔が熱くなる。
「そ、そのつもりです」
「はぁ〜…じゃあ始めるよ」
「はい」
頭を掻きながら来栖が審判らしきバスケ部員に目配せをする。ピーっと笛が鳴り勝負が開始される。
彾嘉はボールを守ろうと動いた瞬間に、来栖にボールを取られる。
「え…!」
綺麗にドリブルを走っていき、彾嘉の後ろにあるゴールにボールが放り込まれる。
「まず1点」
「そんな…」
来栖はセンターサークルに戻り、彾嘉にボールを手渡しで渡す。
「じゃあ二戦目始めましょうか」
「……はい」
ピーと笛が鳴ると、来栖はまた彾嘉から一瞬でボールを奪い取る。
だが今回は彾嘉も負けじとゴールへと向かう来栖を追いかける。
「は、早い…!!」
ドリブルで走っているはずの来栖と彾嘉との差は広がっていく。
「2点目」
先ほどと同じように来栖は綺麗にシュートを決める。
「やっぱり勝負になんねーな」
「来栖に挑むとか馬鹿だろ」
「マネージャーになりたいからワザと挑んだとかじゃない?」
「ありえる〜!」
観戦していた生徒たちがどんどん野次を飛ばしながら呆れて帰って行く。
「俺たちも帰ろうぜ」
「くそ!賭けてたのに最悪だ!」
帰ろうとしていた一人の男子生徒が来栖がゴールしたボールを拾う。
「チッ、ほらよ!ボールだ!!」
彾嘉の顔に向けて思い切り放り投げる。
「りょーか、良くやった。交代だ」
エンジュの声が聞こえると、彾嘉は体を委ねる。
「ありがとよ」
顔に飛んで来たボールを片手で受け止め、ドリブルを数回する。
ボールを投げた男子生徒は周りの生徒に連れられて一緒に帰って行く。
「さてと、勝負を続けようぜ」
「ふっ…まさかまだ勝負を続ける気があるなんてね」
来栖が元の位置に戻り同情するように言う。
「もちろん、今からが本番だからな」
「本番?じゃあさっきまでのは準備運動とか言いたいの?」
「いいや、サービスタイムだ。だからもうサービスで入れさせてやるのは終わりだ。今からお前は1点も入れることは出来ない。なんならボールに触れることも出来ない」
「ぷっ…ははは!そんな面白いこと言うんだ。マネージャーになったら頑張ってみんなを笑わせてね」
来栖は試合をする体制を取る。
「私も今から本気でやってあげる」
「だったら俺は4パーセントでやってやるよ」
ピーっと笛が鳴る。観戦している部員は口々に応援するが…。
「え…?」
来栖が距離を詰めて先ほどのように手を伸ばしてボールを奪い取ろうとした瞬間、目の前にいた水瀬彾嘉が消える。
それと同時にドリブルの音が背後から聞こえる。そんなはずはない、そう思い来栖は振り向くと同時にボールはゴールに放り込まれていた。
ゴールに入ったボールはコートを軽い音を立てたあと転がる。観戦していた部員は静まり返り、体育館は横で練習をしている男子バスケ部の声だけが響く。
「まずは1点だ」
エンジュが口を開くと、呆気にとられていた部員がが声を出し始める。
「さっきのかなり速くなかった?」
「うん、凄かった」
「来栖先輩がワザと抜かせたとか?」
「水瀬くん…」
口々に推測を話し始める。
抜かれた本人である来栖は、抜かれた瞬間を思い出そうとするが全く分からず困惑する。
「ほら、準備しろよ」
来栖の目の前に戻ってきたエンジュは次の勝負の準備をする。
「…なるほど、実力を隠していたわけね。でももう大丈夫、油断しただけ。次は止めれる」
「あっそ」
ピーっと笛が鳴ると来栖は動かずに観察する。今回は冷静に見ることでハッキリと動きが見える。
自分の横を通ろうとした水瀬彾嘉の前へと反応して動く。
「取った…!」
「残念」
ボールに触れる瞬間、来栖の股下をボールが通る。
「なっ!」
そのままボールを来栖の後ろで受け取るとドリブルで駆けていく。
「どうした!追いついて来いよ!」
「この…!」
短距離走に自信がある来栖は、ドリブルで走るエンジュに追い付くことが出来なかった。
「ほいっと」
ゴール下に着くとそのままボールを両手で持って飛び上がる。
「まさか…」
無意識に追いかけることをやめ、来栖はボールが叩き込まれる瞬間を見ていた。
「ダンクシュート…」
ゴールが揺れ、入ったボールが床を跳ねる。
「2点目だ」




