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僕の中へ天使と悪魔  作者: 語黎蒼
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第12話 『エンジュの想い』

「あれ?」


 屋上の扉を開こうとするが開かない。

 屋上はお昼休みが終わると鍵を閉められることを思い出す。こんなことも忘れるほど頭が回らないことに彾嘉はため息が出た。


「そういえば今の時間は空いてないんでした…他の場所を探します?」

「エンジュ様の力をナメるなよ」


 エンジュが扉に手をかざすとカチャリと鍵が開く。


「えぇ…」

「俺に出来ないことはない」


 不思議な力で開いた扉からエンジュが出て行くので、彾嘉も続いて屋上へと出る。


「作戦だが…」


 手摺に足を組んで座ったエンジュは、今からの勝負を楽しみにしているかのように話し始める。


「先ずはバスケの1on1の三本勝負の内、二本は憑依せずに勝負する」

「え?憑依せずにって、僕が勝負しても負けちゃいますよ!」

「それで良いんだよ」

「え?」


 自信満々にエンジュが言い放つので彾嘉も言葉が出なかった。


「あのバスケ女が二本勝って調子に乗った時に、俺が憑依して圧倒的に逆転勝ちする!そうすりゃあショックを受けて堕天使が出てくるって作戦だ」

「ちょっとそんな…」

「お前は負けて俺の引き立て役になればいい」


 空中を気分良く旋回するエンジュに彾嘉は納得がいかなかった。


「待って下さいよ…!負ける僕の気持ちにもなって下さい!」

「あぁ?」

「そもそも…そんなに上手くいくんですか?もしも負けてしまったら僕はバスケ部のマネージャーをしなくちゃいけないんですよ…」

「だから勝つって」

「そんなの分からないじゃないですか!!」


 彾嘉は叫んでしまった。勝てるか分からない勝負を勝手に約束され、その勝負も本当に勝てるか分からない。溜まっていたものが出てしまった。


「昨日から負けてしまったらと…何度も考えてしまうんです」


 彾嘉は負けてしまったらこの天使の事だ、どうせ他人事のようにマネージャーになった自分の事など放ったらかしにするのだろう。

 それに負けてしまったら学校中の噂になるに違いない、無謀にも挑んで負けた馬鹿がいると。


「僕は怖いんですよ…もしも負けてしまったらと考えると」

「……」

「天使さんはエリートで、何でも出来るから僕の気持ちなんて分からないでしょうけど。これ以上…これ以上人に馬鹿にされるのは嫌なんですよ」


 彾嘉はエンジュに背を向けて歩き出す。


「来栖先輩に謝ってきます。今ならまだ間に合うはずですから」

「ちょっと待…」

「天使さん、僕はダメな人間なんです。勉強も出来ない、運動も出来ない、見た目も女の子みたいで馬鹿にされる。僕はこれ以上馬鹿にされるのは嫌なんですよ!」

「……そうか…そうだよな」


 エンジュは帽子を目深(まぶか)に被ると苦笑する。


「なにが可笑しいんですか?…天使さんにはそんなに面白いですか?」

「いいや、面白くて笑ったんじゃない…ホッとして笑ちまった。悪かったな」

「どういう意味ですか?」

「やっぱり俺の思った通りだったと安心したんだよ」


 帽子を元の位置に戻してエンジュは八重歯を出してニヤリと笑う。


「この話はまだ言わないつもりだったんだがな。お前を説得するには全部話さないと無理みたいだな」

「今更…なにを言われても」

「正直に言うと俺はエリートなんかじゃない。お前と同じ落ちこぼれだ」

「きゅ、急に何ですか…?僕に同情して言ってるんですか?」

「ちげぇよ。……天使は絶対に髪の色が金色で瞳の色が青色で生まれる」


 話をしていたエンジュから煙が上がると、彾嘉の同じ大きさになる。

 エンジュが帽子を取ると、その髪の色は真っ黒だった。それに瞳の色も同じく黒色であることに彾嘉は疑問を浮かべた。


「黒色…?でも天使は金色なんじゃ?」

「俺は生まれた時から髪も瞳も黒かった。天界に居た頃は周りの天使から嫌われていたぜ……黒色の髪は不吉だとか言われて殺されかけたこともあった」

「そんな……」

「それに天使が絶対に持っている能力である()()()()()()()()()()()()()()()が俺には無かった。天使に一番必要のない身体強化なんて能力を持ってる……それに頭も悪いから天界では何も出来ないダメダメな天使だった」


 悔しい顔をしながらエンジュは話を続ける。


「ある日、天界の一番偉い女神に言われた。『地上に降りて人間と協力して堕天使を100体捕まえろ。そうすれば一人前の天使として認めてやる』その言葉を聞いて俺は思った。堕天使を捕まえて、コイツらを絶対に見返してやるってな!」


 拳を握りしめてエンジュは言う。


「そして考えた。俺と組む人間は絶対に俺と同じ落ちこぼれにする。そうすれば落ちこぼれだって頑張れば出来るんだって胸を張って天界の奴らに言える!それに同じ落ちこぼれ同士なら気持ちが分かり合えるって思ったんだ!」

「天使さん……」

「さっきお前なんて言った?気持ちが分からない?!もう一回言ってみろ!!お前のコンプレックス!何が出来ないだって?!」


 エンジュは彾嘉と同じ大きさになり胸倉を掴む。


「勉強が出来ないから馬鹿にされる?俺だって出来ない!!天界じゃ0点ばっかだった!運動が出来ないから馬鹿にされる?俺だって天使に運動神経は要らないって周りの天使からいつも馬鹿にされてた!」


 彾嘉の目から涙が流れ出す。


「見た目で馬鹿にされるだ?俺は見た目のせいで殺されかけたことだってある!!」

「う…うぅ…!」

「どうだ?!お前の気持ちなら俺が一番よく分かってんだよ!!」

「天使さん…僕は……」


 涙を流しながら彾嘉はしゃがみこむ。


「俺を信じろ。そして俺やお前を馬鹿にしたやつらを見返してやろうぜ、りょーか」


 エンジュは彾嘉に手を差し伸べる。


「天使さん」

「エンジュだ。俺とお前は対等だ……エンジュで良い」

「うん!……エンジュ!僕は君を信じるよ!」


 彾嘉は手を掴み、立ち上がる。


「行くぞ、堕天使を捕まえに!」

「うん!」


 彾嘉は涙を拭き、体育館へと向かって歩きだす。

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