第11話 『不安』
来栖と勝負を約束した次の日の朝。
「……」
彾嘉は何度も負けてしまった時を考えてしまい寝つけなかった。
昨日帰ってから、エンジュに何度も作戦を聞いたが「大丈夫だ」の一言であしらわれ、詳しく教えてもらえなかった。
「さーーあ!!記念すべき一匹目の堕天使を捕まえる日だ!」
彾嘉とは正反対に熟睡して元気なエンジュは、学習机の上で朝日を浴びながら仁王立ちしている。
「………」
エンジュを見ていると、本当に大丈夫なのだろうかと心配になってくる。
「はぁ〜…」
「なんだなんだ!辛気くせぇな!記念すべき日なんだ、もっと元気にしろよ!」
誰のせいなんだと言いたいが、眠気や今日の勝負のことを考えると気が重く言う気がなくなった。
こうして彾嘉の不安な一日が始まった。
「本当に大丈夫なのかな…?」
「あ?なんか言ったか?」
「いえ、なにも…」
学校に到着してホームルーム中も、その後の授業中も何度も考えてしまう。負けてしまったら…もしも負けてしまったらと。
あっという間に最後の6時間目の授業になってしまい。
「おし!行くぜ!」
6時限目の授業の終わりのチャイムが鳴ると同時に、先ほどまで筆箱の上で大の字で寝ていたエンジュが飛び起きる。
「彾嘉!さっさとたいーく館に行くぞ!」
腕をグルグル振りながら迫り立てる。
「……」
他の人には見えないエンジュに話しかけることが出来ないので、目で分かったと伝える。
「なに睨んでんだ!なんか文句でもあんのか?!」
エンジュには彾嘉の思いは伝わらなかった。
「水瀬君、ちょっと良い?」
彾嘉は鞄と体育館シューズを持って廊下に出ようとすると声を掛けられる。
「一色さん、どうしたの?」
声を掛けてきた人物はクラスメイトの女子、一色莉子だった。小柄な体型と可愛いらしい容姿をしているので男子生徒からの人気が高いとの噂を聞いたことがあった。
「来栖先輩と勝負するって本当なの?」
「うん…でもどうして一色さんが知ってるの?」
「私バスケ部なの、昨日の部活の帰りに先輩から聞いたんだ」
「そうなんだ…」
意外にも噂は広がっているようだ。そのことを知って彾嘉は、体育館に行くのがますます嫌になってくる。
「今なら間に合うから断った方がいいよ!来栖先輩に勝てる人なんて全国でも少ないのに、水瀬君が勝てるわけないよ!」
もっともな意見である。二年生のあいだでは彾嘉の運動音痴は有名な話だ。それを知っている一色の言葉は当然だ。
「や、やっぱりそうだよね…」
「何してんだ!早く行くぞ!」
「ごめん、もう行くね」
「水瀬君!」
一色との話を強引に終わらせ、彾嘉は行きたくない体育館へと歩き出す。本当に気が重いので帰りたい気分である。
「彾嘉、その前に打ち合わせだ。どこか人の居ない所に行け」
「……」
今さら打ち合わせ?っと言いそうになったが喉まで出かけた言葉を飲み込み、今の時間は人気のない学校の屋上へとエンジュと向かう。




