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僕の中へ天使と悪魔  作者: 語黎蒼
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第10話 『勝負』

「悪いがこの部室を渡すわけにはいかねぇな」

『ちょっと、天使さん?!』

「どうして?あなたって茶道部じゃないんでしょ?」


 来栖はエンジュに向き直る。


「ああ、茶道じゃねぇ。だがこの部屋は俺が使う予定なんでな、お前らの汗臭ぇ部屋にはさせないぜ」

「なんですって…!」

「どうだ?この部室を賭けて俺と勝負しないか?」

「勝負?」


 不機嫌そうに来栖は聞き返す。


「お前が勝ったら部室は明け渡してやる。勝負内容は」

「そんな勝手に決めないで下さい!」


 エンジュが全て言い終わる前に雨宮が止める。


「良いだろ?どうせ部員残り二人なんて無理なんだからよ」

「不可能じゃありません!まだ部員が来るかもしれません…!」

「にゃっはっは、無理だな。このバスケ部に取られるって状況で部員を探しに行かずに今の今まで部室で座ってんのが良い証拠だ」

「そ、それは!っ……」


 雨宮は何も言わず俯いた。


「悪いようにはしねぇからお前は黙って見てな」

「私としても全然良いけど、それで?なにで勝負するの?」

「勝負内容はお前の得意なもんで良いぜ」


 エンジュは腕を組んで偉そうに言い放つ。


「ふ〜ん、だったらバスケで勝負よ」

「バスケか、悪くねえ」


 エンジュが了承すると、来栖の後ろにいた女子生徒二人が笑いながらヒソヒソと話し始める。


「来栖先輩とバスケの勝負って勝てるわけないじゃん」

「去年全国のMVP選手に選ばれた来栖先輩にさ」

『MVP?!天使さん、勝てるわけないですよ!』

「上等だ。明日の放課後16時から勝負でどうだ?」


 彾嘉の声など無視をしてエンジュは余裕な態度で時間を指定する。


「良いわ。私が勝ったらあなたは部室を速やかに明け渡す…ってこの条件ってこっちに何のメリットもないんだけど」

「ちっ、バレたか」

『天使さん…』


 もともと明日になれば部室が貰える来栖にとって、勝負する意味がないことに気づかれてしまう。

 この天使さんは本当は悪魔なんじゃないだろうかと改めて思ってしまう彾嘉であった。


「そうね、私が勝ったら茶道部室を明け渡して、あなたは一年間バスケ部のマネージャーになるってのはどう?」

「良いぜ。だが俺が勝ったらお前は部室を諦めるのと、俺の言うことを一つだけ聞け」

「言うことを一つだけ?まあ、負けるつもりないからそれで良いわ。勝負内容は1on1で三本勝負でどう?」

「何でもいい。俺も負ける気はないでな」

「余程の自信があるようね、楽しみにしてるわ」


 来栖は踵を返して部室から出て行く。


「本当に勝てるんですか?」


 完全に来栖が居なくなると雨宮は心配そうに口を開く。


「大丈夫だ。俺は体を使う勝負で負けたことがない」

「…本当ですか?」

「ああ。それよりもこの部室は俺が使わせてもらうぜ」

「……あなたが使うとき、畳は剥がしますか?」


 真剣な表情で雨宮さんは聞く。


「俺がこの部室を使いたい理由は畳の上でゴロゴロするためだ。畳は絶対に剥がさないが、茶道なんてする気はないぜ」


 エンジュがそう言うと雨宮は微笑む。


「だったら良いです。この部室は茶道部だった姉から守るように言われてるんです。絶対にこの畳で寝転がれる部室を守ってくれって。私も茶道部をやりたくて入部したんじゃないんです。姉が好きなこの場所を守りたいだけなんです」


 雨宮はエンジュに目を見つめる。


「先輩、お願いします。この部室を守って下さい!」

「お前の姉ちゃんのために守るつもりはないが、畳のある部屋は絶対に俺の物にする。それだけだ!」

「はい!頑張って下さい!」

「ふん…」


 するりと彾嘉のおでこからエンジュが抜け出る。


「そういえば、あの先輩…お名前はなんて言うんですか?」

「え?あー、僕ですか?水瀬彾嘉って言います」

「あれ?先輩、雰囲気変わりました?さっきよりも髪の毛が短くなってるような…」


 不思議そうに彾嘉の顔を覗き込む。雨宮の可愛らしい顔が近くまで寄ってくる。


「き、気のせいですよ!」

「そうですか…あ、私は雨宮真琴です」


 雨宮はペコリと頭を下げる。


「雨宮さんが一人ってことは、他の先輩は卒業したんですか?」

「はい。姉と他の方は卒業してしまいました」

「でも一ヶ月もあったのに部員の勧誘はしなかったんですか?」

「それは…」


 雨宮は俯いてスカートの端を指先で摘んで弄る。


「……私、人と話すのが苦手で友達もそのせいでいなくて、だから知らない人に話しかけて勧誘するの恥ずかしくて…」

「こいつ部室を守る気ないだろ」

「……」


 エンジュの無情な一言に彾嘉は何も言えなかった。


「どうかしましたか?」

「いえ、何も…!僕はもう帰りますね」


 部屋に掛かっている時計を見ると16時だったので帰ることにする。


「そうですか…先輩、さようなら」

「うん。さようなら」


 彾嘉は部室をあとにする。


「天使さん、本当に勝てるんですか?」


 帰り道で彾嘉の頭の上で寛いでいるエンジュに彾嘉は不意に聞いてみた。


「あぁ?主語を言えよ、なんのことか分んねぇだろ」

「バスケですよ、バスケ。バスケに本当に勝てるんですか?」

「バスケバスケうるせぇな!勝てるに決まってんだろ!俺様があんな小娘に負けるとでも思ってんのか!」


 彾嘉の髪を掴みながら怒る。


「痛っ!痛いですよ!聞いただけで怒らないで下さいよ!天使さんのことあんまり知らないから聞いただけじゃないですか」

「たしかに」


 パッと手を離しクルリと回転して頭の上で寝転がる。


「どんだけ凄いかは明日見せてやる、まあ楽しみにしてな」

「本当に大丈夫ですか…」


 彾嘉の言葉にエンジュは何も答えなかった。

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