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入道雲屋

作者: 南まんもす

「おっきいにゅうどうぐも!」

夏の真っ青な空を見あげて少女が叫んだ。

汗をタオルで拭いながら父親が答える。

「本当だ、こんな立派な入道雲は久しぶりたなあ」

雲は午後の紺碧の空にまさに大入道(おおにゅうどう)のごとくそびえていた。



 男は河川敷で部下たちの作業を眺めていた。着ている法被(はっぴ)には紺地に白で「入道雲屋」と染め抜かれている。早朝だが気温は30℃を超えている。額から汗が流れ落ち、首から下げている豆絞りの手ぬぐいはびしょびしょに濡れていた。

「親方、発射管の設営、完了しました」

部下の一人が報告すると、親方と呼ばれた男はゆっくりと頷き、情報端末で気象状況を確認した。

「よし、打ち上げは予定通りでいいだろう、配線の確認を急げ」

「了解!」

部下たちはてきぱきと作業を再開した。

「安全確認、ヨシ!」

それぞれの持場の男たちが次々と声を上げる。

親方が声を発した。

「点火!」

「点火しまーす」

係がコントローラのスイッチを押すと、大きな音とともに発射管からロケットが射出され、どんどん速度をあげて天の彼方に昇っていった。

 

 地球温暖化が引き起こした異常気象により世界的な自然災害が相次いだ。その対策としてWCO:World Climate Organization による地球規模の気象操作が開始された。そのおかげて洪水や台風、竜巻などの自然災害は激減した。一方で、気象の安定化により、虹や蜃気楼(しんきろう)、突然の夕立などの気象現象はほとんど見られなくなった。入道雲もその一つである。

これらの気象現象を懐かしむ声も強くなったため、WCOは局地的かつ実害がない範囲でこれらの気象現象を人工的に作り出すことを認めた。入道雲屋は入道雲つまり積乱雲を人工的に作り出す専門の業者である。特殊な冷却材が充填された小型ロケットを打ち上げ上空の気温を低下させることで入道雲の発生を誘発するのだ。


「親方、うまくいきますかね?」

部下の一人が尋ねた。

「午後には地表近くの気温は35℃を超えるだろう、多分大丈夫だ」

親方は上空を見つめたたま大きく息を吸った。

 


「きれいな入道雲」

女は遠くの空を見つめて言った。夕焼けに照らし出された入道雲が彼女の眼に写っていた。

「夏が終わるね」

男が静かにつぶやいた。

「そうね」

二人は橙色に輝く入道雲をいつまでも見つめていた。

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