8:賢者への復讐を果たした男
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銃声が響くと同時に賢者が手を振った。
「【ウォール】!!」
賢者の目の前に張られた不可視の壁がガリルの放った銃弾を防ぐ。
「馬鹿め!! 対策していないと思ったか! 銃の構造と弱点は把握済みなんだよ!! 1発撃てば装填しなければならないお前と、魔法を自在に使える僕では勝負にすらならない!」
賢者は目の前にいるガリルを嘲笑った。
前線基地跡で銃の脅威を感じ取った賢者は既に勇者からその構造や利点、弱点を聞き出しており対策を練っていたのだった。
それはシンプルなもので、一度防ぎさえすれば銃は装填までに時間が掛かるので、その間に魔法で薙ぎ払うというものだった。
「魔王ごと消し飛ばしてやる!! 【全てを劫火に帰――】
賢者から尋常ではない魔力が溢れると同時に、ガリルが手に持つ拳銃の銃身が、カチリと音を立てて回った。
「――弱点は対策済みだが?」
ガリルが再び引き金を引くと同時に、撃鉄が落ち銃弾が発射される。
「――かはっ!!」
魔法の発動途中で無防備だった賢者の右肩に赤い花が咲いた。
「アアア!! 痛いっ! 痛いっ!!」
「ん? 頭を狙ったつもりだったが……この距離で逸れたのか?」
カチリ。銃身が回り、撃鉄が落ちる。
「アガァ!! や、やめてくれ!!」
今度は賢者の右足の太ももが小さく爆ぜた。ガリルの放った銃弾の先端は柔らかい鉛が剥き出しになっており、着弾した衝撃で弾頭が変形、破裂する。その為貫通力はないものの、肉体に与えるダメージは大きい。
カチリ。銃身が回り、撃鉄が落ちる。と同時にこれまでにない轟音が鳴り響き――
「痛だぃぃぃ!!」
賢者の右胸、右腰、左手にそれぞれ銃弾が命中。
立っていられず賢者は血を吐きながら地面へと倒れた。
「ふむ……やはり暴発したか。苦しまないように頭を狙ったつもりだったのだが……賢者よ悪かった。これは貴重なデータとしてフィードバックさせてもらうとしよう」
どうやら最後の三発は暴発し、同時に発射されたようだ。
このガリルが手に持つ拳銃――試作67号……イサカが付けた名称【ペッパーミル】は銃身を増やし、予め火薬と銃弾を詰めておく事で、銃身の数だけ……つまり6連射が可能となった拳銃だった。一度撃てば、装填しなければならないという弱点を対策した銃なのだ。
連射性を付け足す事をコンセプトに設計された銃なのだが、やはり懸念通り、命中率と暴発率に難ありだなとガリルは判断した。
「さてと、どうするよガリル。まだ生きているぜ?」
ドライゼが消音魔法をしれっと発動していたおかげで、まだ誰も賢者がやられている事に気付いていない。
「許してくれ!! 僕は! 勇者に言われて仕方なく!」
ガリルの足下へと縋ってくる賢者を見下ろして、彼は首を横に振った。
「……お前の言葉は信じられない」
「ま、待ってくれ!! 僕も魔王軍に協力する! 勇者の首で良いなら持ってくるから!」
涙と鼻水を垂れながら命乞いする賢者から既にガリルは興味を失っていた。そんなガリルを見て、ドライゼが前へと出た。
「うっし、じゃあ殺すか。じゃあな賢者、ばいばーい」
ドライゼが無情にも高く掲げた足を賢者の頭へと振り下ろそうとした瞬間。
「うわあああああ!! 賢者様! 逃げてください!!」
これまで腰を抜かして見ていただけだった隻腕の指揮官が剣を持って、突撃してきたのだった。
「あん?」
ドライゼがそっちに気を取られた瞬間に、賢者が魔法を発動。
「【スワップ】!!」
「へ?」
一瞬で指揮官と賢者の位置が入れ替わった。
「グズは……グズなりに役に立つじゃないか! お前ら覚えておけよ!! 次に会ったら絶対に殺す!!」
賢者はそう吐き捨てると転移魔法を発動。一瞬でその姿を消した。
「……おっと」
「ひっ!」
ドライゼの足が指揮官の頭の直前で停止。彼女が履いているヒールの踵が指揮官の目玉へと刺さりかけている。
そのまま指揮官は泡を吹いて気絶してしまった。
「……わざと逃がしたのか?」
ガリルが興味なさそうにドライゼに聞いた。
「お、バレた? わざと【転移阻害】を解除してたんだよねえ」
「……ここで殺してやった方が苦しまなかったのだが」
「逃げたのはあいつの意志だ。あたしは知ったこっちゃねえ――さて、こいつはどうする?」
そういって、ドライゼが気絶している指揮官をつま先で小突いた。
「階級章を見るに、指揮官だろう。捕虜にすべきじゃないか? あんなクズすらも庇おうと動いた男だ。すぐに殺す必要はないと思うが」
「お前、意外と甘ちゃんなんだな。ま、でもあたしもこういう男は好きだぜ? じゃ連れて帰るか。向こうもそろそろ終わりだろうさ」
ドライゼはそう言って、指揮官とガリルを連れて、丘上へと転移したのだった。
☆☆☆
王都へと転移した賢者は治療室のベッドの上でもんどり打っていた。
「アアアア!!! 早く!! 治せ!! クズがあああ!!」
「いけません! 暴れては! お前ら、賢者殿を抑えろ! すぐに回復術士を呼べ!!」
賢者の身体から、弾頭がまるで傘のように広がった銃弾が6つ摘出された。しかし細かい破片は体内に残ったままであり、傷口を塞ぐ事を優先した回復術士によってそのまま治療が続いた。
結果――賢者は鉛中毒によって更に苦しむ事になった。更にそれによって脳に甚大な障害を抱えたせいで、賢者は魔法が一切使えなくなってしまったのだが……。
それをガリル達が知る事は――最後までなかった。
こうして賢者はあっさりと歴史の表舞台から姿を消したのだった。
というわけで、賢者退場?です。指揮官君は報われるフラグが立っていますね。
さて試作品の正体は、【ペッパーボックスピストル】でした。西部劇なんかでたまーにみる奴です。リボルバーに比べ安価な銃なので、庶民達はこれを護身用に持っていたとか。ただし構造上、暴発 (チェーンファイア)しやすい、命中率が悪いなど問題も多かったようですね。
次話は、第2魔術師部隊VSイサカ率いるアンデッド部隊です。まじゅちゅし~がんばえ~
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