6:賢者を怒らせた男
「どういう事だい? なぜ僕がわざわざ、聖教会から取り寄せたクリスタルを使ってまで作ったこの前線基地が破壊されている。説明しろ」
賢者のその言葉は冷静だったが、腹の中は煮えくり返っていた。
賢者が西戦線の指揮官と共に転移してきたのは、破壊し尽くされた前線基地の跡だった。既に魔王軍はおらず、その爪痕だけが残されている。
「そ、それが……アンデッドの新部隊に……やられたとの報告が……」
「第七魔術師部隊は何をしていた」
「それが……基地防衛戦で……全滅し――がああああ!!」
息が出来ずに指揮官がもがき苦しみながら地面に倒れ込む。
「ありえない……ありえないありえないありえないありえない!! 僕の! 魔術師部隊が! 負けるなんて!!」
歯を剥いて叫ぶその姿は、賢者とはほど遠い姿だった。
「原因を探せ! アンデッド部隊だけでは絶対に不可能だ……まさか魔王が自ら?」
「それが……はぁ……はぁ……兵士達の死体が一切なくて……死因も分かりません。基地もここまで破壊されていると何が起きたか判別できません」
息が出来るようになった指揮官が息絶え絶えに説明するが、賢者はそれを無視して素早く辺りを見渡した。すると、彼は落ちていた小さな瓦礫を魔法で浮かせた。
「それは……?」
指揮官が見ると、その瓦礫には穴が空いており、貫通するまでには至らなかった鉛の玉がめり込んでいた。
「これは……」
賢者は一瞬それが何か分からなかった。それはドングリの実のような形状で先端はひしゃげている。だが、それが壁の瓦礫にめり込むほどの威力で飛んできた事だけは分かった。
そしてそこで、ようやく賢者はそれが銃弾だという事に気付いた。
「あいつ……まさか……生きていた……しかも魔族に寝返った?……僕達人間を裏切ったのか?」
歯ぎしりする賢者の姿を見て、指揮官が恐る恐る声を掛けた。ここまで取り乱した賢者の姿を見るのは初めてだった。
「あの……何が……?」
「アアアアア!! あのクズがあああああ!!」
「え? アガアアアア!! 痛でええええ!! 私は……関……係ない……のに!!」
賢者の魔法によって、指揮官の右腕がねじれていく。
「殺す! 魔族も殺す! あの男はじっくりとじっくりといたぶって生まれて来た事を後悔させてやる!!」
「痛ぃぃぃ!! お慈悲をおおおお!!」
指揮官の腕がねじ切れて、地面へと落ちた。
急いで腕を拾おうとする指揮官の頭を踏み付けて、賢者が言い放った。
「……お前、もう一回だけチャンスをやる。僕直々に第2魔術師部隊を率いて、あの丘を取り返す。それを援護しろ。出来なきゃお前の家族部下全員殺すからな」
「……はぁ!……はぁ! 必ずや……! 勝利を……!」
賢者は怒り狂っていた。
だがどこかで、まだ銃を軽視していた。確かにあの武器は、魔法も使えない弓を撃てない雑魚を遠距離攻撃できる兵に仕立て上げる事が出来る。それは確かに脅威だが、ただそれだけだ。
「魔法には絶対に勝てない。魔法は最強だ。それを奴らの骨の髄にまで分からせてやる!!」
賢者が吠え、そのまま指揮官と共に転移して消える。
基地跡には、指揮官のねじ切れた片腕だけが残った。
賢者たんバチギレ
次話からざまぁ回ですね
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