2:スカウトされる男
「う……ここは?」
ガリルは横たわっていたベッドから上半身を上げた。見渡すとそこは医務室のような場所だった。
「おっす。生きてて何よりだ」
「ま、魔王!」
ガリルのいるベッド横には、ドライゼがその艶めかしい足を組んで座っていた。ガリルは慌てて拳銃を探すが、見当たらない。
「まあ、そうビビるなって。せっかく助けてやったのに」
「助けてくれただと?……それにこれは?」
ガリルは潰されたはずの自身の右手がおかしくなっている事に気付いた。金属製の手甲のような物が右腕の肩から指先まで覆っており、それはガリルの意志通りに動いた。
「毒は治療出来たが、腕はちと難しくてな。それなら取っちまって義手付けたほうが良いかなって。魔界一の名工が腕を振るって作った自信作だぞ? 本人曰く、“より精巧な動きが可能です”、だとよ」
ガリルはドライゼの言葉を聞いているのかいないのか、その右手を開いたり閉じたりしていた。
「こ、これは素晴らしいな! ミリ以下の単位で指先が動くぞ!」
ガリルが満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「お、おう。気に入ってくれたのなら何よりだ。しかしミリっていう魔界の単位をよく知っていたな」
「魔界の単位は統一されていて分かりやすいからな。人間界なぞ国ごとに単位が違ってクソだ。全く合理性がない!」
「あーマイルとかストーンとかだっけ?」
「そうだ。ところで、俺の試作13号Hは?」
ガリルがキョロキョロを辺りを見渡した。
「――これのことか?」
ドライゼが殺気を纏い、手に持っていた拳銃をガリルへと向けた。
「……撃鉄を上げないと弾は出ないぞ。それにちゃんと火薬は詰めたか?」
ガリルは冷静にそう指摘した。
「……やっぱりお前面白いな。ほれ、返してやる。ただし弾も火薬も込められていないぞ」
「なぜ俺を助けた」
ガリルはドライゼから渡された拳銃をまるでガラス細工かのように丁寧に受け取ると、その表面を優しく撫でた。
「その武器さ、その義手を作った奴に見せたら、怒りだしてよ。“なぜ僕はこれを思い付かなかったんだ!!” って。んで、色々と調べた結果――これは相当にやばい武器だという結論が出た」
「……皮肉だな。王国では全く理解されなかった武器だったが……まさか魔族に評価されるとは」
それからガリルは事の顛末をドライゼへと話した。人間であるガリルだが、正直言えば愛国心はこれっぽっちもない。ただ、自分の武器が使われて王国軍が少しでも強くなるならそれで良かった。
だが、今は違う。勇者と賢者の外道さを知った今、ガリルは王国に帰ろうとは思わなかった。
どこか辺境の地でひっそりと銃の開発が出来ればそれで良い。
「いやあ……お前やっぱり面白い。なあ、気付けよ。お前の前にいるのは誰だ? 豊富な資源と優秀な技術者を抱えていて、一向に終わらない戦争に頭を悩ましているのは誰だ?」
「……お前ら魔族の為に、銃を開発しろと。そう言うのか魔王」
「その通り。鉱山は沢山持っているし硫黄も硝石も大規模な鉱床がある。元々火薬については独自に研究を進めていたからね」
「……素晴らしいな」
ガリルが少年にように目を輝かせはじめている事にドライゼは気付いていた。
「ガリル・ウィンチェスタ。お前を、我が魔王軍が新たに新設する武器開発チームの顧問としてスカウトしたい。思うがままの報酬を約束するし、必要な物資、労働力、全て提供しよう。その代わりに銃は魔王軍で独占させてもらう。自らの種族を裏切るのは心苦しいとは思――」
「乗った。今後ともよろしく頼む魔王殿」
ドライゼの言葉の途中でガリルが右手を差し出した。
「アハハ! いやあ凄いなお前。全く未練がないのか。ますます気に入ったよ」
ドライゼはその金属質の右手を握り返した。
「俺の居場所は銃の開発が出来る場所だ。王国だろうが地獄だろうが、関係ない」
ガリルはこうして魔王軍にスカウトされ、武器開発チームの顧問となった。
次話で相棒?が登場します。ファンタジーで武器職人といえば……
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