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「それで? 私に魔法を指導して欲しい、と」
「報酬は支払います。なんとしてもパーティを強化して、今より深い階層へ行きたい」
「ふむ……」
シュンの目の前に座るのは、白皙の老婆だった。
モルモットを撫でながら、シュンの申し出を考えている。
「何かひとつ。私を驚かせるようなものを持っているかね?」
「驚かせるようなもの、ですか?」
「そうだ。この歳だが、研究者としてはまだまだ第一線のつもりでね。で、何かありそうかね」
「分かりました。他言無用、ということならひとつ、心当たりがあります」
「いいだろう。誰にも他言しないと誓う。なにを見せてくれるのかな」
「ステータスオープン」
シュンは自分のステータスを老婆に見せた。
すると老婆は信じられないものを見た、といった顔でシュンを見た。
「俺はこの世界の生まれじゃないんです。どうです? おどろいたでしょう?」
「……くっくっく。長生きはするものだ。今日ほど驚いたことはなかったぞ。シュンと言ったな。私も多忙の身だ。週に一度ならば見てやろう」
「ありがとうございます」
こうして“白の賢者”マリエールから教えを請うことを許された。
その日、パーティは全員でマリエールの元を訪れていた。
初めての魔法の講義だ。
「そもそもが魔術というのは定義に従っているものだ。あとはそれをいかに読み込むか……新しい魔術を覚えたいなら、まずは独力で魔術書を読み、練習に明け暮れることだ。そのうえで、習得できなければコツを教えよう」
「あの……」
シュビレナがおずおずと手を上げた。
「ウィンドストームを練習しているんです。でもどうしても発動しなくて」
「竜巻を見たことがあるのかな? ない? ならば私が見本を見せよう。それをイメージの根幹に据えれば、後は自然とできるようになる。外へ出よう」
マリエールは「ウィンドストーム」と唱えると、風の渦が砂を巻き上げてぐるぐると竜巻が出来上がった。
「なるほど、こういう魔術だったんですね!」
「ふふ。君は勉強熱心だね。他に見たい魔術はあるかい?」
次に手を上げたのはエレナだ。
「じゃあ私。氷系の魔術が上手く使えないんです。水が使えれば使えるんですよね? ウォーター・スピアは使えるんですが、アイス・ランスが使えないんです」
「それはイメージじゃないね。多分、氷になるまで魔力を貯められていないのが原因だ。水属性を氷属性に置き換えるには、魔力を貯め置く技術が必要だ」
「そうだったんですか……やってみます」
「まだ。まだ。まだ。……それ、やってみろ!」
「アイス・ランス!」
見事にアイス・ランスが発動した。
氷の突撃槍は的を打ち砕き、その威力に皆は歓喜した。
「ふん。こんなところさ。他にいなければまた来週にしようかね」
「ありがとうございました」
「なに。あんたの秘密は面白かった。今度、実験につきあってもらえないかね?」
「どんな実験ですか?」
「あんたの【神道】スキルが気になる。あれは魔術の系統だろう?」
「そう、なんですか? 確かに似たイメージは俺にもあるのですが、具体的に使い道をしらないんです。」
「きっと神聖魔術の一種さ。一緒に研究しようじゃないか」
「分かりました。今後もお世話になるので、是非」
「よろしい」
かくしてシュンは【神道】の研究を始めることになった。




