03
工藤俊介は草原に立っていた。
地球の汚染された空気とは違い、工業が遅れ気味のこの世界の空気は基本的に美味い。
工藤は自分に搭載されたカーナビを操作すると、【ナビゲーション】スキルが発動して現在地と時刻を知ることができた。
現在、午前8時。
現在地は草原のど真ん中。
ただし近くに割と大きめの街がある。
ポン、という電子音とともに目の前にメッセージが表示された。
『追伸:その世界では身分を名乗るのに冒険者を名乗ると、怪しまれずに済みます。by地球の神』
なるほど、冒険者か……。
格闘1レベルしかない工藤からしてみればやや不安しかないが、愛車の性能を活かして郵便配達などをするのもいいかもしれない、と思い直した。
冒険者にそんな仕事があるのかは知らないが、ひとまず冒険者を名乗り、街に入り込むのが先決だと思った。
「あー。あー。俺はくどぅーシュンしゅけです」
上手く現地語で自分の名前を発音できなかった。
しかたないので名前は今後、シュンにしようと決意する。
くどぅーしゅんしゅけでは、ちょっと格好わるい。
歩きだして違いを感じた。
なんとも歩きやすい地面なのだ。
そういえばチュニックに下履き、サンダルという軽装だが、すこぶる歩きやすい。
きっと愛車の4WDがここで発揮されているのだと思った工藤は、胸に熱いものを感じた。
『追伸2:ステータスクローズドと唱えると自分のスキルを確認できます。ステータオープンと唱えると他人に見えるので、見せたい場合はそちらを使ってください。by地球の神』
「なるほど。ステータスクローズド」
見えたのは樹形図のようなものだった。
線は魂、肉体、精神の三要素から伸びており、【多目的スポーツ者】なるふざけた名前のスキルと【異世界渡航パッケージ】という事前に説明されたスキルがほとんどを占めている。
他に目立つものとしては取得した【格闘】と【神道】だろう。
確か聞いた話だが曾祖父の時代まではそれなりに大きな神社の神主の家系だったはずだ。
ただし太平洋戦争の空襲で神社が焼失したため、曽祖父は会社員になったのだと聞いた。
やたら高い神道は、きっと霊感の類なのだろうかと思う。
子供の頃はそりゃ視えたものだ。
大きくなるにつれて自分の視覚をコントロールするというか、感覚を閉じることができるようになり、困ることはなくなって久しい。
【俊足】レベル8を試すべく、工藤、改めシュンは街へ走っていくことにした。