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冒険者ギルドの資料室は冒険者なら誰でも無料で利用可能だ。
ただし当たり前のことだが、資料を汚損した場合は弁償しなければならない。
シュンはまず魔物について調べることにした。
依頼料でなんとなく強さを測っていたつもりだが、グレイリンクスは森という悪条件さえなければワイルドドッグと変わらない強さしか無かったからだ。
というのも毛皮という希少価値をもつグレイリンクスの依頼には需要があって、ただの害獣でしかないワイルドドッグには退治する意味しかないという違いで料金差が生じていたのであって、強さによるものでないと気づいたからだ。
その点、森で出会ったグレイウルフ――シュンは名前は知らないが狼だということは見れば分かった――はなかなかの難敵だった。
しかしグレイウルフの討伐依頼はグレイリンクスの討伐依頼より安いのである。
グレイウルフも毛皮が換金部位になるのだが、グレイリンクスの肌触りの良さには及ばないらしく、人気がないため依頼料が安いのだ。
強さが依頼料で測れない以上、資料で知識を得るしかない、と結論付けたのが今日の午前の成果だった。
日が暮れるとさすがに資料は読めなくなる。
わざわざお金を払ってロウソクを借りるのも業腹だ。
そういえば【照明】スキルがあったことを思い出したが、目立ちそうなのと、宿の夕食の時間がそろそろなので切り上げることにした。
宿ではアリシアちゃんがせわしなく働いている。
児童労働はこの世界では当たり前らしい。
「ただいま、アリシアちゃん」
「あ、おかえりなさいシュンさん。夕食はもう食べられますよ」
「うん。お腹が空いたから帰ってきたんだ。すぐ食堂へ行くよ」
「シュンさんは今日、どんなお仕事をしたんですか?」
「グレイリンクスを狩ったよ」
「グレイリンクス! 毛皮ですよね? あのフワフワふさふさの……」
「んー、そうだね。鞣した後のことは知らないけど」
「すごくさわり心地がいいんですよ!」
「へえ。そりゃ高値の依頼なわけだ」
「でも狩るのがとても難しいそうです。森の中で逃げるグレイリンクスを狩るには弓などが必要だとかで」
「へえ。俺は走って追いかけたけどなあ」
「あはは。なんですかそれ」
どうやらアリシアはシュンが今日はグレイリンクスを狩れなかったと解釈したようだった。




