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翌朝、日が昇り始めた頃にはもう人々の動く気配がしたので、シュンも起きて朝食をとることにした。
昨晩は【ナビゲーション】で周辺の地理を調べていたので、夜ふかし気味だった。
ちょっと遠くの地理まで調べられるどころか、この惑星上でシュンが調べられない場所はないことが分かった。
……さすがレベル10のスキルだ。
シュンはこれでいつでも行きたい場所に行けると気が楽になった。
朝食後は冒険者ギルドで依頼を受けることにした。
依頼は昨日に引き続き討伐系の依頼だ。
やはり懸念は戦闘能力、というか護身能力だろう。
危険が満ちている世界において、自分がどのくらいの位置にいるのかは調べなければならない。
いざとなれば全速力で走って逃げればいいし、その結果で迷子になることもないのだからこの時点でかなり凄いとシュンは我ながらに思っている。
間違いではない。
舗装された道路なら最高時速300キロ程度で走行できるシュンの【俊足】は人間のスペックを遥かに凌駕しているのだ。
更には【悪路走破】もあるので並の馬よりも速く走ることが可能である。
討伐依頼は少し離れた森に出るというグレイリンクスだ。
毛皮が討伐証明部位かつ換金部位らしく、お金になると人気の依頼なのだが、シュンはそんなことはいざ知らず取った。
森まで軽く走って行き、【全周視界】でグレイリンクスを探しながら森を歩く。
否、【悪路走破】があるため速歩きでかなりの速度が出ている。
森を縦横無尽に歩き回り、グレイリンクスを発見次第、リンクスよりも速く走っては蹴り殺す。
刃物を使わない打撃攻撃なので、毛皮に傷がつかず、高値で売れることに後で気づくことになるのだが、それは後の話。
正中線に沿ってナイフを入れて、バリバリと皮を剥ぐ。
シュンは田舎の生まれで、祖父が猟師をやっていた関係でこの手の作業に慣れている。
ウサギやイノシシの解体も手伝ったことがあるのだ。
グレイリンクスの解体も問題がなかった。
日が高くなった時点で、森での活動も問題ないとシュンは判断した。
狩ったグレイリンクスは30匹。
他にグレイウルフを何頭か狩ったが、これはどうしたら良いのか分からなかったので放置だ。
ちなみにせっかく買った手袋は全く使わなかった。
――午後は格闘用のブーツを買おう。
そう結論したシュンだった。
冒険者ギルドではまた一騒動起きた。
なにせ傷のないグレイリンクスの毛皮が30枚。
しかも午前中だけの成果である。
さすがの受付嬢も聞かずにはいられなかった。
「あのシュンさんはどこで格闘を学ばれたんですか?」
「いや……ただ武器を扱うのは性に合わないってだけだけど」
本当はポイントの余りで取得できるスキルがほとんどなかったから、護身用に【格闘】を取得した、などとは言えない。
「それにしても見事です。格闘は獲物を傷つけないためにも有効なんですね……勉強になりました」
「いや、いいんだ」
今回の稼ぎは銀貨で15枚にもなった。
なるほど、ワイルドドッグ狩りが馬鹿らしくなる収入である。
午後は武器屋に行ってブーツを購入した。
「なんでえ。蹴りも使うなら言えよ。サンダルだから立ち技のみかと思ったじゃねえか」
「いえ、サンダルで蹴りもしますよ?」
「普通はしねえんだよ。サンダルが飛んでいくだろう」
そこは親指と人差し指にチカラを入れてなんとかしていたシュンである。
というか【格闘】スキルレベル1でもそのくらいはできる。
だが普通はそんな蹴りでは大した威力は望めないし、そもそも素足で魔物を蹴るというのはありえない。
噛み合わない会話をしながらブーツを買った。
ブーツのつま先に硬化の付与がなされたもので、銀貨4枚もした。
これは単に質のいいブーツに付与が重なったためだ。
靴には金をかけろ、というのは冒険者の警句なのである。
そのため極端に安い靴か、そうでなければそれなりに良い靴しか置いていない。
シュンは遅い昼食を取った後で、冒険者ギルドの資料室へ向かった。
根本的に常識が足りないと実感していたのだが、それを解消するためだ。




