01
新連載です。よろしくお願いします。
高速道路をSUVが一台、疾走している。
塗装は光沢を帯びたレッド。
要所にマットブラックのパーツが高級感を引き立たせる。
工藤俊介には拘りがある。
車は高級車とはいわずとも、乗っていて女の子が「凄くいい車だね」と言われるものでなければならない、と。
だから赤のSUV車を――工藤俊介の給料からすれば高かったが――選んだ。
ハイグレードな内装も相まって、工藤は十分に満足していた。
休日は必ず自分で洗車し、可愛がった。
彼女?
もちろんいない。
工藤俊介は車オタクではないが、愛車に拘りをもっている。
一部上場企業に務める30歳のサラリーマンだから悪い物件ではないはずなのだが。
彼女がいないのは、ひとえに「工藤さんていい人だね」止まりの優男だからだ。
高速道路を疾走する。
今日は日曜日の夜。
唐突に工藤は「海を見に行こう」と思い立ち、愛車とデートと相成った。
目的は水着の女性を眺めることだが、決してナンパなどという勇気ある行動に出られるほど、というかそもそも思いつかないほど、工藤は優男だった。
不自然なことに日曜日の高速道路には対向車線を含めて、一台の車もない。
まるで自分がこの世にひとりになったみたいな不思議な気分を、工藤は感じていた。
ハイウェイの側面は高い防音壁で街の様子も見えない。
前後の道路だけが、ただ延々と無限に続いているような錯覚さえ覚える。
ふと影がさし、「電灯がどこか消えているのかな?」なんて軽い気持ちでいたら、突如ドスン、と車体の上に何か重いものが乗った。
「おいマジか、何が落ちやがった!?」
高速道路の何かか?
それともヘリや飛行機から部品でも落とされたか?
よりにもよって、自分の愛車の上に落ちることはない――そこまで考えて、今度はダンッと車体の上に落ちたナニモノかが飛び跳ねた。
それはゆうに百メートルほどを跳躍して、高速道路の前方に降り立った。
犬に見えた。
スケールが狂ったように巨大な犬。
愛車よりも一回り大きく、顔面が十字に避けて無数の牙があり、目も鼻もなく長い真っ赤な舌がデロン、とはみ出た醜悪な化け物だった。
工藤は混乱していた。
動物園には確実にいない。
それどころか、地球上にこんな生き物が居たとは、聞いたことも見たこともない。
その犬はSUVに突っ込んできた。
工藤は「はねてしまえ」とアクセルを全快にして動物に相対した。
が、無駄。
激突と同時にSUVはフロントがひしゃげていき、フロントガラスに真っ白なヒビが入り、外の蒸し暑い空気を肌に感じた辺りで、目の前にあの十字に開いた花のような醜悪な顔面があった。
グシャリ。
というかバクリ。
工藤俊介は何らかの化け物に食われた。
……SUVがおじゃんだ。
最後に工藤が思ったのは、無残にも破壊された愛車のことであったという。