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第一話:背尾つかさは癒しが欲しい

「しごおわ~」

「おつー」


 定時を過ぎて一時間ほど残業した私こと背尾つかさは、同僚たちに『今日の仕事ここまでにして帰りますお先に失礼します』という意味を込めた挨拶をする。

すると『私も帰りたいけどまだ終わらないからもう少し仕事していくよ、お互いお疲れ様』という意味を込めた挨拶をが返ってきたのでバッグを肩に掛けて会社を出る。

 もっと古株の社員さん達だと『ざーっす』『ちぇあー』という挨拶になる。意味はまだ分からない。


 ブラックという程の酷い会社では無いのだが、納期が急に2週間ほど前倒しになったり、顧客の要望で変更したものが『やっぱり前のに戻して』の一言で準備が無駄になったりすると、どっと疲れがたまる。


「癒しが……癒しが欲しい」


 家に帰る前に少し甘いものを補給しないと。

 『甘さの箱根越え』という謎のキャッチコピーで有名な喫茶店スターマックスに入ると、コンデンスミルクイレスギーノを注文して少しグッタリする。ダイエットは明日から。


 学生時代の友人たちと会うと最近は仕事の愚痴を聞く事も増えてきた。

 三日に一度しか家に帰れないような月は通勤定期券を買わないほうが交通費が得だとか、会社にお弁当屋さんとヤクルトの他にクリーニング屋さんが出入りしているので何日でも泊り込めると言うライフハック、人生で役立てたくは無いものだ。

 彼らほどの仕事地獄ではないが、比べる対象が間違っているだろうか。


 そんな事をぼんやりと考えながらコーヒー飲料を飲み干すと、目の前に癒しが歩いているのに目が釘付けになる。


 ふわふわのお耳。クリーム色の毛皮。ぷにぷにしたおてて。私の目の前を60cmほどのクマのぬいぐるみがぽにぽにと歩いている。

 まだ幻覚が見えるほどのゾーンには行っていない筈なのだが。

 ささくれだった心に癒しを求めていた私はついつい歩くぬいぐるみという奇妙な存在についていってしまう。別に抱きしめてすりすりしようとか、顔をうずめてギューしようとかそういう大それたことは考えていない。ただ、もしあれが幻覚ではないのならフワフワしっぽにぜひ触らないとと思っただけで。


 クマのぬいぐるみはキョロキョロと周りを見ながら歩く。歩くたびにピッピッピと音がしそうな歩き方だ。


可愛い。


短い脚をピコピコ動かして、まるまるのお尻をふりながら歩くさまはいつまででも見ていたい。

偉いなぁ、ちゃんと信号で待ってるんだ。

木製の橋を渡るときもコトコトと軽い音しかしないって事はおもさもぬいぐるみ位なのかな?

花畑の中を歩いても花は踏まないし、踏まれた草も折れてないってまるで伝説の麒麟みたいで。


あれ、ここ、どこ?

歩くクマのぬいぐるみを追い掛けていたら、気が付くとそこは森の中でした。

私の友人は「家? 家ってあの、たまに洗濯したりする為に帰る所?」とか「会社に行くというより会社に帰る」などと意味不明の供述をしており……

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