ヒーローと犯人は遅れた頃にやってくる〜その2〜
【神聖魔術・セイントバインド】
呪文を唱えれば対象であるイクスに何もない所から白銀に輝く鎖が現れ、狂気を孕んだ笑顔のイクスの首や体に絡みつき拘束した。
「ぐぎぃ…??!!」
獣の様な声をあげ縛られようとももがくイクスに半目になりながら近づく。
「…はぁ。全く…【神聖魔術・イマジェントクリア】
狂化がかかっているイクスに状態異常解除の魔術をかければしばらくすればフーッフーッと威嚇する猫のような声は次第に鳴りを潜め目には理性が戻って来ていた。
「…っう…うう、レ、レイヤ…?」
顔をしかめながらイクスがトビ色の瞳をコチラに向けた直後にイクスは私の顔を見て顔を少し青くした。
「やぁ、おはよう。イクス。早速で悪いんだけどね?この惨状をどうか説明してくれたまえ。」
そういって拘束を解けばどしゃっと木でできた舞台に落とされる。そうして周りを見れば何ということだろう、舞台の床はへこみ、空中ブランコの練習台の支えがへしゃげ、イクスが自分で設計し、シュレイヤの死霊魔術で作りだした骸骨達で作られた舞台装置、曲芸団のシンボルマークである7つの手を持ったピエロが描かれた垂れ幕も、魔獣達の食事だったであろうモノも、最前列の観客席もものの見事に壊れていた。
「すっ、すまなかった。シュレイヤ団長…本当に、その、申し訳ない。」
正座をし即座に謝ったイクスについ、ため息を吐いた。
「あのね、イクス。君の暴走グセはわかっているつもりだけれど、この損害はどうすんの?」
「うぐっ…いや、本当に、すまない。」
縮こまるイクスにこれ以上イクスのクセを責めても意味がないと思ったシュレイヤはとりあえずと前においてから話し出す。
「イクスの気持ちはよく伝わったよ、イクスは狂戦士だから、まぁ…しょうがないっていったらしょうがないけどさ。何があったか教えてくれる?」
イクスを許せば途端にパァッと顔が明るくなり彼のトビ色の目が輝いた。
その反応に犬の耳としっぽを見たような気持ちになるシュレイヤだがイクスとシュレイヤは同年代で両名とももう三十路が近い29である。
「実は…「おーい!ゴル君に連れて来られたけど、にゃんかあったの〜?」…。」
話だそうとしたイクスの声を甲高いボーイソプラノが遮った。
外の入り口から舞台への階段をのっしのっしと歩くゴルドックの肩には黒の短髪にピンとした猫耳とゆらゆらと揺れるしっぽの獣人が座っていた。彼が第3節団のシルキーだ。彼は黒猫獣人のでこの曲芸団では魔獣を使った魔獣ショーを担当している。彼もこの曲芸団を設立した初期メンバーである。
「はぁ…ゴルドック、なにも話してないのかい?」
とため息混じりに聞く。
「あ、うん。だめだった?話すのはおいらよりレイヤのほうがいいと思って。」
とほけほけと笑いながらこれまたおっとりと話すゴルドックに正座をしながら剣呑な目で2人を見ていたイクスもジト目のシュレイヤも毒気を抜かれたように2人でため息をついた。
「うぉぉっ?!ニャンと!!シンボルマークも舞台もボロボロじゃあにゃいか!!」
いつの間にかゴルドックの肩からおりたシルキーは間近で見る舞台の惨状にあ然としていた。
「ねぇ、シルキー。貴方が何処にいたか、何をしていたか、事細かに教えてくれるかしら?」
後ろからしっとりとした声をかけながらがっしりと肩を掴んだサントマに凄みを感じたシルキーはしっぽの毛をブワッと一瞬させ顔を寄せた笑顔のサントマを横目で見ながらたらりと一筋の冷や汗をたらした。
「えっとぉ…まず、スニークキャットのハラペーニョとタバスコ、チリソースにご飯をあげて、リッパーウルフの
ハバネロとジョロキアと遊んだあとご飯をあげてぇ…たしか、その後は、ソナーパイソンのキャロライナ、ナイトイーグルのソース。最後にバーンライガーのデスソースにご飯をあげて、散歩しにいった!」
「本当でしょうねぇ?シルキー?」
まだ手を離さずぐぐぐっ…と力を込めたサントマの顔の怖さに外野から見守っている双子のローゼンメイダとメイドはヒィッと声をあげナナリーはサントマを直視しないように明後日の方を向いているヤックの腕に抱きついた。
「いだだだっ…!ホントのホントだよっ?!ていうかまだ何がおきたか教えてもらってないから何がなんだかわかんないんだけど!!」
焦りの中に少し怒りをにじませながら言うシルキーにシュレイヤが今までの経緯を話した。
「うぇぇっ!?デスソースが暴れたぁ?!」
「えぇ、暴れたのよ。シルキー。わかる?貴方に疑いがかかってるのよ?魔獣達の檻の鍵の管理不足の疑いがね?」
にこやかにまたぐぐぐっ…肩に力を込めるサントマの手から逃げようとしたシルキーは結局逃げれなかった。
「いだいってば!!でもっ!!シルキーはちゃんと鍵締めたよっ?!だってシルキーかちゃんって音しっかりきいたもん!!」
必死に弁明するシルキーにシュレイヤは質問をした。
「じゃあなんだい?誰かが近くにいて開けたとか言うのかい?」
「いやっ、でも、う〜ん…。」
記憶を絞り出すように悩み始めたシルキーをじっ…と6人の目が見つめる。
「あっ!!そういえば近くにニニョルがいたよ!!」
耳もしっぽも跳ねるようにピンとあがりひらめいたとばかりのシルキーにシュレイヤ達はまた面倒な容疑者が上がったとため息を吐いた。