急ぎすぎると大事なモノを忘れることは多い
シュレイヤ達のサーカスのテントは居住スペースと舞台、舞台裏そして魔獣達の部屋となっているスペースがある。居住スペースと舞台は距離が少し遠いため走らなければならない。
シュレイヤは焦っていた。とにかく焦っていた。今でさえテントにはボロがあったりしているし食費等で稼いだ金も消えていく。常に金欠だというのにたまに起こるトラブルでさらに飛んでいくお金。もう部屋着だと言うことも忘れて走っていた。
その途中だった、左右にある部屋の左ドアが開いた。
「うぉっ!あぶなっ!」
ぶつかるギリギリで止まり少しずれまた走ろうとするシュレイヤを男の声が止めた。
「団長ぉ、どこ行くんだ?このドコンドコンなってるのはなんの音だぁ?」
少しのんびりとした口調で彼女を止めたのはのっそりと出てきた大男で第4節団のゴルドックである、彼は巨人と人間のハーフで団員の中でも一際大きく人間の平均が170cmだが彼は280cmもある。少々ぽったりとした体だが愛らしい雰囲気でこの曲芸団の癒やしキャラのような存在だ。
「いや、そのな、シルキーの魔獣とイクスが舞台で暴れてるらしくなっ!?止めにいくんだ!なっ?ゴルドー行っていいか?!なっ?!」
その場で足踏みをしながらいつでも向かえるように準備をしているシュレイヤにゴルドックは今はとても嬉しくないのんびりとした口調で
「そうかぁ、大変だなぁ。シルキーの場所ならおいらが探しとくよぉ。」
と言ってくれたがもっと早く言ってほしい状況だった。
「転ばないでなぁ〜レイヤぁ〜」
という間延びした言葉に見送られ急いで舞台に向かった。
◇◇◇
舞台の入り口の前で赤髪が目立つ男女の双子と尖った耳が特徴的な金髪の少女が遠巻きに眺めていた。
「あっ、レイヤねぇ来た。」「来た来た」
と気づいた双子がコチラに来た。
「今ね、暴走してるイクスにぃをサンねぇが抑えようとしてるとこ!」「…デスソースは気絶してる。」
最初に気づき明るく声をかけてきたほうが双子の姉であるローゼンメイダ、あとから補足のように言うのがローゼンメイドだ。普通は節団を1人で担うが双子は第5節団を2人で担っている。2人で1つだからと言う事らしい。
「ひぇぇ…あんな激しい攻防、アタシには無理です…」
と呟いたのは金髪の美しいエルフの少女、ナナリーである。彼女は第6節団で踊り子をしている、そのため第7節団のヤックとはよく組む間柄であった。見た目も声も美しい彼女だが少し欠点がある。ハッとした表情でコチラを見るナナリーはカァッと顔を赤くしたあと
「べべっ、別に怖がってなんかないですし?!あたくしにだって相手はできますわぁー!」
オホホホホ!!と高笑いをする。強がりで少々面倒くさい性格だ。
「じゃあやってー!!」「倒してきて…」と双子に言われればすぐにタジタジになり「え、あ、いや、」となるのがいつもの掛け合いだ。
____ズガァン‼
そんな呑気に話をしていても破壊音がなり響けば我に返るものだ。
「ハッ!!!しまった!チビらで和んでる場合じゃないっ!止めねば!!」
とそこではたと気づく。
武器を忘れた事に。