第6話 鬼畜誓約の[特撮]
紗反のおっさんに紹介されたダンジョンは東郷家から十分も掛からない場所にあった。ここのダンジョンツリーの特徴としては鬼畜過ぎる誓約があるという事らしい。その分、葉の付き方もゆっくりであり、ダンジョンツリー発見から誰もクエストクリアしていないのにも関わらず、モンスター4体ほどの低規模なスタンピードが数年前に1度あったレベルらしい。
スタンピード時は誓約が関係無くなる為、質より量作戦で押し切れるが、正直運が良かったとコメントされている。というのも先程闘ったガメライオスの様な巨大モンスターが出てきたのでは無いからだろう。まぁ、報酬関連が一切出ない為意図的にスタンピードを起こすなんて事は無い。
鬼畜誓約と呼ばれる由縁は共通誓約:武器・防具持ち込み禁止(挑戦不可)らしい。一応〖収納EX〗でクロスボウ等は持ち込めるらしいが、解体した状態でのみ入れた事を大まかに表現した情報らしい。入ったら即戦闘が普通のクエストの中で悠長に武器を作る訳にもいかず、EX系スキルは持っている者が少ない事も重なり人が寄りつかないダンジョンツリーとなったそうだ。この為、無人でも稼働できるようなシステムの実験場としても使われているらしい。
「しかし武器と防具は持ち込み禁止だがアイテムは持って行けるんだよな?アイテム縛りでどうにか出来ないんだろうか…?」
某狩りゲーでも時間を掛ければアイテム縛りでもどうにかクエストを達成できる。スキルも使えるのでレベルの低い奴等なら楽に倒せると思ったのだが……現実は違うらしく、廃墟一歩手前の雑貨屋が鬼畜誓約のダンジョンツリー[特撮]の入り口らしい。
発見当初は肝試しで潰れた雑貨屋に忍び込んだ若者が見つけたとの事。まぁ、ダンジョンツリーの殆どは偶然発見されたという例が多いのでここも似たような境遇なのだろう。ただ、共通誓約があるダンジョンツリーであるにも関わらずコアなファンがいないのは鬼畜過ぎるからだろうか?
「……気にしたら負けだな。ここならあの染髪ボーイ達の様な変な奴等も来ない分、気楽に攻略者できそうだし。」
そう呟きながら私は[特撮]の雑貨屋に入る。すると地下への階段があるだけで残りは荒れた店内をそのままにしています感バリバリの風景が広がっていた。ガラスの破片などは流石に無いのだが、焦げたりひしゃげている棚、液晶部分にヒビが入ったレジスター等、廃墟と呼ばれる要素が満載だった。
そんな雑貨屋の地下に向かうと、巨大な[特撮]ダンジョンツリーと結界用のクエスト用紙回収機、自動販売機と飲食スペース、コインロッカーと男女別の更衣室、シャワールームが設置されていた。ちなみに自動販売機に入っているのは避難袋に入れられるような物ばかりであり、あまり交換しませんよ的な雰囲気が漂っている。[竜泉]とは偉い違いだな……と思いつつ私はダンジョンツリーから魔方陣を1つすくい上げ、情報を提示した。
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〔マグマの男〕
フィールド:[特撮]の大火山
クエスト内容:マグマック・トンパード
クエスト報酬:ライダーグッズ Cランク
クエスト報酬:600万円
スキルポイント:SP+100
共通誓約:武器・防具持ち込み禁止(挑戦不可)
個別誓約:2名以内(超過人数強制退場)
貢献度:0%(挑戦者0名)
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ここが不人気なのは鬼畜難易度に近いのにも関わらず報酬がショボく見える事だろう。それこそ、ハイエナ冤罪という迷惑行為をする奴等が来ないくらいに。私ならば欲しいと思うのだが一般人なら死のリスクを抱えてでも欲しいのは兆に届くレベルの買取額を持つ古代竜の鮮血等のアイテムだろうからな……。
……そしてどんなモンスターが出るかが少しだけ想像できてしまう。しかし私はその辺りの事は気にせずクエストに挑む事にする。だがその前に逃避玉を鞄からポケットの中へ入れるのを忘れない様に何度も確認した後、鞄をコインロッカーに入れてクエストに挑むのだった。
白い光が晴れた後、私は辺りを見回す。大火山という事で火口に急降下し、マグマの上で闘うなんて事も考えられたが、平坦な岩場にマグマの川や池が出来ているタイプのフィールドだった為安心する。ゲームの火山ステージによくある火山周辺に立っている私は、足下から焦げ臭さを感じた為、敵を認識する事や掛け声も忘れて仮名ヘル・ポリスに変身した。下手すると入学準備という事で買わされたローファーが燃え尽きていたので仕方ない。
武器・防具の持ち込み禁止という理由で変身が出来ないという事が無くて安心すると同時に、これ以上の変化が出来るか不安になってくる。
「……で、肝心の敵はどこにいるんだ?」
ガメライオスの時はすぐに視認できた筈だが、マグマニックは姿を現さない。もしかしたら既に潜伏しているかもしれないと辺りを再度見回すと、赤いスーツの男が1人立っていた。しかし目の焦点は合っておらず光も無い。ただ、ボーッと赤いUSBメモリらしき物を見つめている。しかし該当する作品と全く同じでは無く、回転収納式のUSBメモリとなっていた。
男は私を認識すると、手に持ったUSBメモリをスナップさせて差し込み口を出現させた後、もう1本のUSBメモリをポケットから取り出す。まさか肥大化する内に変化してしまったのか?と思いつつ様子を見ると、例の作品では飽きる程見掛けた入れ墨が額に2つ繋がった状態で出現する。
『マグマ』
『ソニック』
『マグマ&ソニック』
『マグマニック』
この順番で機械音声が流れた後、2つの入れ墨に挿したメモリが1つになり、鼻の部分に新たな入れ墨が出現する。そして合体した勢いのまま新たに誕生したUSBメモリを彼は鼻の入れ墨から取り込んでいった。その後は楽譜の様な形の炎に渦巻かれた後、怪人と呼べる姿に彼は変貌していった。マグマが固まったかのような黒い体、スピーカーをブーツにしたかの様な両足、ヴァイオリンの弦の様な左手と弓の様な右手、そして胸には♩=∞というマークが彫り込まれている。
何をしてくるか分からない以上迂闊に近づけないまま、暑い場所にいる為に精神力が徐々に削られていくのを感じている私は、マグマに落とされる危険も顧みず特攻する。曇り空の中でガメライオスと闘っていた時とは違い、コイツには速攻で勝負を決める必要があると感じたからだ。
「ぶっつけ本番だが仕方ないか……。」
そう言いながら私は肩甲骨辺りから素材OLL骨の翼を生やしてみる。これは一応人間体の時にも出来るのだが、元に戻すときの痛みは頭がショートするレベルでキツいし時間も掛かる。買ったばかりの折りたたみ傘を開くのは簡単でも、売られていた時と同じにしようと思えば手間が掛かり、テキトーにやると今度は袋に入らなくなるのの同じ様に考えて貰えば分かりやすいだろう。
「翼を生やした意味が分からないなんて顔をしてるな?ぶっつけ本番の為のイメージ補完の為だから仕方ないけどな!」
その後私は手の甲にドラゴンの爪を模した鉤爪を生やし、胸から骨となったドラゴン型の頭部を出現させた。ちなみにこのドラゴンの頭部は先程倒したガメライオスの物では無く、スケルトン系モンスターであるスカルリッチドラグーンというモンスターの物である。何故か所々骨となったドラゴンがリッチと同化したモンスターらしく、耐性の出来ていない新人がコイツの遺伝子を注入されただけで死亡したという事もあり訓練でもこの様な使い方はしていない。
私の胸から這い出たスカルリッチドラグーンの頭部はマグニック・トンパードを標的に定め青色のブレスを丸く圧縮していく。このまま決まってくれれば良いがと思いつつ私は圧縮した青色の炎を発射する。ただ、この一撃だけで倒しきれない可能性がある為、炎を発射した勢いでしたバックステップをスタートダッシュの起点に変えてマグニック・トンパードに飛行しながら接近する。
するとマグニック・トンパードは青い炎を避けずに受けていた。いや、普通は避けるか反撃の一手を繰り出すはず……と面食らった私は勢いを止められないまま彼に接近する。するとマグニック・トンパードの体からメモリが排出され粉々となっていく。だがしかし、メモリが排出しきる前にマグニック・トンパードは左手の弦を右手の弓で擦っていた。
「……はっ?」
その行為に何の意味も無いと感じていた私は、間欠泉のように吹き出したマグマにより突き上げられていた。幸いにもそこまで高く噴き上がらなかった為飛行して離脱できたが、変身者の様子がおかしい。あの作品ではメモリが破壊され怪人化が収まった後は気絶している様なパターンが多いのに、赤いスーツの男はピンピンしていた。
「………いや、まさかな……。」
一応、研修の中で噂については聞いていた。クエストで指定されたモンスターを討伐した後に追加でモンスターが現れるダブルアップチャンスという現象だ。だがそれで出てくるのが雑魚敵ならばなんら問題は無いのだが………現実のギャンブルと同じように追加モンスターの戦闘力は元のモンスターの同等以上だ。
『フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』
赤いスーツの男はそう叫んだ後、変身するアイテムが無いのにも関わらず、体を変質させていく。先程の黒い体とは違い、赤い鎧を纏った様な姿に変化した男は高笑いしながら徐々に巨大化していく。
「マジかよ……こんなん、どう闘えば良いんだよ。」
そう呟きながら私は高層ビルと同じ大きさに変わっていく赤い鎧の怪人を黙って見上げる事しか出来なかったのだった。