第4話 改造人間の初戦闘
城周辺の空が渦巻く雲に覆われている中、私は名乗りを挙げるような気持ちで右胸を叩く。変身シーンまでは待ってくれる仕様なのか、ガメライオスはその場で待っていてくれた。
「………変・身!!」
人前で変身する時は恥ずかしいが、自分だけしかいないのならば思う存分掛け声を出せる!という意味合いで私はスケルトン系モンスターの遺伝子を活性化させてライダーっぽく変身する。腰にベルトが浮かび、来ている服ごと体が骨主体のスーツに変化していく。ちなみに変身体の仮名はヘルポリスである。いや、全然警察らしくは無いのだが仮名なので仕方ない。名前を付けておけばイメージしやすいという理由だけで付けているのでダサくても仕方ないのだ、うん。
取り敢えず防御面はこれでどうにかなると判断した私は討伐対象である古代竜ガメライオスを観察する。この竜は古代竜の名の通り老けている為、鱗はガサガサとしており、地を這う様な形で呻いている。元々飛行するタイプの竜では無いらしく、翼は飾り程度、尻尾も重量がある様にずっしりしており、地べたに這ったままである。しかし鋭い爪や牙は健在で、一撃でも喰らえば大ダメージなのは確実だ。
「いつまでも見つめ合ってるだけじゃ駄目だよなぁ……。」
そう呟きながら私はガメライオスに向かって走る。いきなり緊張の糸を切った事でガメライオスは動揺するが、すぐさま炎のブレスで反撃してくる。だが、正直言ってこの程度で止められるほど私の体は柔くなかった。
「足場が崩れないなら何の問題も無いな!」
スケルトン系のモンスターの中には炎に耐性を持つ者もいた為、この体も火に強くする事が出来る。それに加え中途半端な威力のため城の床を焼けはしても床を抉る事は出来ていない。つまり私の走る速度を落とす事は出来ないのである。
「ドラァ!」
加速した勢いそのままにガメライオスの顔面を蹴り上げるが、炎を纏っていたせいで威力が微妙な感じになっていた。ゲームシステム的に言えば耐性の分ダメージが減ってしまったという感じだ。恐らく炎攻撃を受けると回復するというチートでも持っているのかもしれない。そんな事を悠長に考えていた時、ガメライオスが爪でこちらを切り裂こうとしてきたので間一髪転がってでその攻撃を避けた。
しかし間一髪で避けるにしてももう少しまともな避け方は出来なかったのだろうかとも思えてきた。実際、剣客漫画での紙一重で避けるやり方と、先程の転がって間一髪避けるのは全くの別物であり、1回避けても次が来れば避けられないのである。
「クソッ!」
今度は巨大な手で蚊を叩く感じで攻撃が迫る。振りかぶった勢いも付いており、これを喰らえば即死もあり得る。しかし、立ち上がって走るなんて事が出来る状況でも無いと判断した私は右拳に力を集中させる。本来ならここで貰った逃避玉を使えば良いのだが……ロッカーの中にしまった鞄の中に入れっぱなしなのをつい先程思い出したのである。なのでこれは仕方ないのだと言い聞かせながら私は右拳を突き出した。
『ガグァギュア!?』
突き出した右拳は右腕ごと槍の様に伸びており、ガメライオスの手を押し返すのを通り越して貫いていた。そのまま腕を引き抜くとガメライオスは貫かれた手にブレスを当てて傷口を塞いでいた。ただ、その様な時間があれば私が起き上がって離脱するまでの時間は充分与えられた事になる。
「やっぱり驚くか?まぁ、手を止められる所か貫かれたらそりゃあ驚くよなぁ。しかし変な感覚なのに違和感は感じないのはどーなってんだ。」
しかしこの攻撃、折りたたんでいた骨を一気に解放する様な形での一撃の為、元の長さに戻すまでに大きな隙が出来るのだ。今回のように相手に大打撃を与えつつ離脱する隙を作れれば多用できるのだが普通は奥の手レベルの技なのである。一応腕が切断されても生やせるのだが、力を取り戻す為に切り離された腕を喰うという人外のする事を強いられるので余計にリスクを背負いたくないのだ。
「しかし効いてんのかそうでないのか分からないよなぁ。まだ2回しか攻撃当ててないし仕方ないのか。」
たったの2回だけしか攻撃を当ててないのならばまだ粘るかなんて言葉は出せない。急所にすら当ててないので余計に時間が掛かると判断できる。だがリスクは負いたくないと思った私はガメライオスから距離を取った。ガメライオスのこれまでの攻撃は爪による切り裂きと片手での押し潰し、最後に炎のブレス。まだ浸かっていないのは飾り程度らしき翼とそれなりの長さのある尻尾、最後に鋭い牙である。
『ガァァァァァァァァァァァ!!!』
そう分析していた時、ガメライオスは天高く咆哮をし、翼でふわりと浮くようなバックステップを見せる。最初は何をしようとしていたのか分からなかったが、城を覆っていた雲が裂けた瞬間、私は全てを理解した。これはアカン奴やと。
そして、裂けた雲の隙間から大きな岩の塊……つまりは隕石が4つほどこちらに向かってきた。
「隕石を落とすなんて予想できるかぁぁぁぁ!!」
後退して逃げようにも城から飛び降りが出来ないよう見えない壁が展開されている。そしてガメライオスは隕石から逃げてきた私を迎撃する準備を終えていた。爪や牙が鋭く光っており、あそこに逃げ込めば間違いなく死ぬ一撃を喰らわされるだろう。かと言って隕石の直撃を耐えられる自信も無い。だからこそ私は無茶をしたのだ。
「1つ!」
隕石は城に同時に着弾するのでは無く、やや間隔を開ける様だと推測した私は、この推測が間違っていませんようにと願いながら最初の隕石が着弾する前に跳躍して駆け上がる。普通に飛べる事は飛べるのだが奥の手レベルなので使いたくないのが本音である。
「2つ!3つ!4つ!」
そのまま隕石を乗り換えつつ駆け上がった私は上空に行って回避した私を殺すべく狙いを定めたガメライオスと目が合った。まだ最後の攻防にはならないかもしれないと思いつつライダーキック的な構えを取った。すると私の突き出した右足に力が集まっていくのを感じとり、これならば倒せるかもしれないと右足に力を収束させていく。
『ガァルバァァァァァァァァァァ!!』
だが、ガメライオスも負けてはいなかった。炎のブレスを口の中で丸めたかと思うと、咆哮と供にビームとして撃ち放ってきた。炎というカテゴリでは無く単純な高熱量を受けるがこちらも押し負ける訳にもいかず、ビームを取り込む勢いで急降下する。
「喰らいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ビームを押し退けながらガメライオスの頭部に向けて突っ込むが、ここでガメライオスはビームを止めて首を僅かに引いた。すると頭部に当たるはずの私のライダーキックは外れた。一応ガメライオスの腹部に掠りはしたが私の右足は城の床にめり込む形となってしまったのだ。
「………いや、でもバックステップしなかったお前の負けだよ!」
だがしかし、私は左足に右足に収束したパワーを流しながら連続で回し蹴りを放つ。まるで独楽の様に連続で回り続けた私の連続攻撃はガメライオスの首を切断するまでに至った。切断された後に何も無かった事からこれで勝ちで良いのだろうと思いつつ、右足を床から引っこ抜いてから様子を見る。しかし5分経過しても何も起こらなかった為、討伐完了なのだろうと感じるのだった。
ただ、なんとも締まらない結末だと感じてしまう……というのもバックステップされていたら今度こそ死んでいたし、劇中の回し蹴りは連続攻撃では無くスタイリッシュな一撃なイメージがあったのも重なって私は試合に勝って勝負に負けた気分になるのだった。
「…そういえばこれ取り込めるのかな?」
改造手術の時は基本的に注射器で遺伝子を組み込まれたが、実験の中にはモンスターの素材を喰って力を得た事もあった。最も食べる部位は美味しい肉とかでは無いのだけど。牙やら骨やらの食品に向かないタイプの物ばかりで、研究員達が肉を美味しそうに食べていたのを覚えている。
食事で取り込む為の機関は作られており、遺伝子情報を吸い取ってから排泄する的な事も言っていたので特別な行程は踏まなくて良いだろう。そう思いつつ私は切断された頭部からガメライオスの脳みそや眼球を、それと胴体から心臓を引き抜いた。流石に生では食べられそうに無いので隕石が着弾して燃えている場所まで行き、少々あぶってから齧りついた。
「……まず……くは無いのか?一応臭みさえ気にしなければどうにか食えるな。」
改造されていた時に同じ様な物を食っていたからか不味さに対する感覚が鈍くなっている。その分素朴な弁当でも美味しいと思えるので問題は無いのだが、取り敢えず食い漁っていく。返り血については変身後に受けた物はそのまま体に取り込む事から気にしなくても良い。そう思いつつムシャムシャとガメライオスの眼球2つと脳みそ、心臓を食べ尽くした私はライセンスを取りだしリザルトを確認するのだった。
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Quest:Result
古代竜ガメライオス 討伐成功
時間: 00:20
報酬:古代竜の鮮血(壷)
参加人数:1人(+0人)
貢献度:東郷 遥 100%
Hunter:Result
口座:0+5000万=5000万円
スキル:〖収納EX〗修得
SP:Error
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何故かクエストとかリザルトが英文になっており、攻略者も英訳とは違うHunter表記になっているが気にしてはいけない。ただ、この情報の内討伐完了表記と参加人数、貢献度が記載された紙が出てくるので定期的に提出しなければいけないのが面倒な所だ。しかし事務処理に使用した後にもスタンピード対策の結界に必要な材料らしいので仕方なく渡すのだけどね……。
取り敢えずSPがErrorになっているのは改造人間である事が原因なのだろうかと推定しておこう。まぁ、スキルは手に入っているのでSPが無くても問題無いだろうと思えてくる。実際、SPはスキルの修得やスキルのレベルアップに必要になるがそこまでして欲しいスキルは無いしなぁ……。
ただ、EXの意味が気になったので解説を読んでみると従来の〖収納〗と違うところが多かった。なので前者を従来の〖収納〗、後者を〖収納EX〗として解説していこう。
……………〖収納〗と〖収納EX〗の違い………
共通点
・インベントリ空間を作り出して物品を収納できる。
・クエスト報酬が自動的にここに送られる。
・念じればアイテムをサーチして出せる。
・生物をいれる事は出来ない。
相違点
・クエスト内、ダンジョンツリーに近い場所でのみ取り出しが可能⇄何処でもアイテムを取り出せる。
・時間経過が現実と同じ⇄時間経過を進行・停止で設定できる
・容量がスキルレベルに依存⇄容量無限
・レベルに応じてポケット等にショートカットを設定できる⇄ショートカットを設定できない。
・パーティメンバーと中身を共有できる⇄パーティメンバーと中身を共有できない。
・スキルスクロールに出来る⇄スキルスクロールに出来ない
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まぁ、EXの方が便利に見えるが普通の物にも利点があるという感じだろうと推測しつつ私はクエストから帰還する。経過時間が4分の1になるので現実世界では5分しか経っていないというなんとも不思議な現象を体験しながら私は階段を上がって受付嬢の元へ向かった。無論、クエストが完了した紙を渡しに行くためだが…。
「おい!ちょっと待てよ!そのクエストは俺達が目を付けてたんだぞ!ハイエナしやがってさぁ!報酬は返して貰うぜ!」
五分前に訓練所でたむろしていただけの染髪ボーイ達が私を取り囲んだ。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫という7人パーティらしき奴等が取り囲む姿は目がチカチカとしてしまう。しかし取り囲んで脅すだけで何か出来るとは思えない私は気にせず進もうとするが染髪ボーイ達は頑なに通そうとしない。さらに面倒なのはダンジョンツリーの中で攻略者同士の喧嘩は御法度というルールだ。
正直全員殴り倒してしまいたかったがこのルールのせいで何も悪くない私が悪者にされるのは嫌だった為、仕方なく私は染髪ボーイ達の迷惑行為に付き合ってやる事にした。それと同時にこのダンジョンツリーには余程の事が無い限り2度と来ないな……と思うのだった。