第1話 私の変化、ダンジョンの変化
私が目を覚ました後、警察の者がやってきて色々と聞かれた。犯罪に手を貸していない事は間違いないという態度で聞いてきたので私も嘘はつかずに話す。恐らく私以上に改造手術をされた者は少ないと思える。たまに聞こえた会話の中に人間爆弾の様に自爆特攻型の手術をしたという話もあった事を伝えるとなんとも胸糞悪い空気が漂った。
「少なくとも私には爆弾は仕掛けられていない筈だ。彼奴等にとって私は最も良い素材だったそうだからな。」
それでも痛みや苦しみはあった為、単純に生き残れる素材だったのだろう。そうで無ければ口封じ用の爆弾の一つや二つ仕込まれていた筈だ。だが、そうならなかったのは素材の良さなのだろうが……まぁ、今は気にしないでおこう。取り敢えず手術の内容についても話すとそれを実演してくれないかと頼まれてしまう。
「本当にやらないと駄目なのか?確かに自由にコントロールできる訓練は積まされたが……。」
「この病室に被害が無い範囲で頼む。変身しても正気を保っていられるかどうかは確かめておかなければならないからな。」
警察官の1人はそわそわしながら待っており、もう1人は報告の為のメモを用意している。従姉妹から連絡されて来た叔父と叔母は少し離れたところから不安そうな目でこちらを見ている。ただ、私もあらぬ疑いで監禁生活に戻りたくないのでさっさと改造人間らしく体を変化させる。
「……変身。」
私はベッドから立ち上がり、右手で胸を叩くことで体を変化させる。私がされた改造手術はダンジョンモンスターの遺伝子を体の中に埋め込む様な物だった為、大雑把な分類で体を変化させている。まるで某特撮番組の様に腰部分にベルトが出現し、体がスーツを着ている様な感触へと変化していく。
「……スーツを出現させて着ているのでは無く、体そのものがスーツを着たような形に変化しているのか……。しかし掛け声が欲しいな……。」
「分かります?軽く呟くんじゃなくて変・身!と勢いよくやって欲しいと思えますねぇ……。」
ライダー好きな叔父からこの台詞は分かるのだが、ベテラン刑事っぽい警察官、アンタもかと突っ込みたくなる。しかしこの姿だとコンクリートを軽く砕けてしまう為何も出来ない。ただ、スケルトンの遺伝子から作り出したこの姿は女性陣から見ると不気味なのか、しかしここで脅えては私に失望されるとでも思っているのか色々と限界そうだったので元の姿に戻る。当然、着ていた服もそのままだ。
「これの他にもいくつかあるが、女性陣が限界だからここまでにしよう。巡回に来た奴に見られる可能性もあるし。」
私はそう言いながら元に戻ると従姉妹と叔母に抱きつかれた。いや、本当に私が私のまま戻ってきた事を疑っていたのかと思うのだが仕方ないことだと思う。ただ気になった事があるので私は一応叔父に両親について聞いておく事にした。すると叔父はこれを説明するには6年間の間に起きた事についても話さないといけないと言うので仕方なくそれも含めて聞くことにした。
「まず、ダンジョンツリーに関してだが……[進化]というダンジョンツリーが6年前に攻略された時からアップデートが行われた。それからダンジョンツリーのシステムが変化して……5年前に別の場所で[進化]のダンジョンツリーが出現、攻略された結果、地球を飛び越して月や火星にもダンジョンツリーが出来る様になったんだ。」
「話ぶっとびすぎてませんかねぇ!」
攻略されたのが私が誘拐されてから1ヶ月程しか経っていない事から、これまで子供ながらに知っていたダンジョンツリーの知識は使い物にならなくなっているのでは無いかと思えるのだった。とゆーか、使えなくなったのは紛れもない事実だろうなぁ……。
「それはこちらの台詞だ!何初代ライダーの様な変身できるようになってるんだ!少なくともなるべくしてなったダンジョンツリーの変化の方がぶっ飛んでいない!」
叔父がスマホで最近の歴史について見せてきたのでそれを確認すると、確かになるべくしてなっている感はあった。まぁ、ダンジョンツリー自体全てを解明できていないのでなんとも言えないんだが。
………〖ダンジョンツリーとは?〗………
ツリーという単語でダンジョンが内蔵されている木と思われる人も多いかもしれないが、実際はダンジョンが内蔵された魔方陣の集合体であり、構造が木の様だからという事で名付けられた。
根……ダンジョン名
幹……ダンジョン規模
枝……ダンジョン地形
葉……クエスト
初期
1.ダンジョンツリーから葉を分離させ、内蔵されているクエストを受ける。
2.モンスターを全て討伐、もしくは条件達成でクリア。モンスターの素材や武器が貰える。
3.クエストを受けている間は現実と同じ時間が経過する。
4.葉は時間経過により増えていく。
5.葉が増えすぎると枝、規模によっては幹ごと折れてしまう。すると魔方陣に内蔵されていたモンスターが現実世界に解き放たれてしまう。これを防ぐために定期的に葉を摘まなければならない。
第1アップデート後
1.クエストの詳細情報が記名される様になる。
2.クエスト中の現実世界の時間経過が半分になる。
3.クエスト報酬に現実世界の物も追加される。
4.スキルシステムが追加される。
5.迷宮口座というシステムが誕生し、クエストクリア後に賞金が振り込まれる様になる。
第2アップデート後
1.月や火星など、開拓可能な惑星にダンジョンツリーが出現するようになる。
2.クエスト中の時間経過が4分の1となる。
3.イベントクエストが出現するようになった。
クエスト中に死ぬと死体が根から排出される事がある。排出された後の蘇生は不可能であり、蘇生系アイテムはクエスト中に使わなければならないとされている。しかし16年間の間蘇生系アイテムは存在こそ発覚したが使用例は無い。
……………………………………
叔父から聞いた事を簡単にまとめるとこんな感じだろう。しかしアップデートの規模がデカすぎて何も言えなくなってしまう。ただ、月や火星はとあるロボ漫画みたくコロニー化出来ていない……というよりもこの先何十年も掛けて開拓していく為、火星に行った攻略者は生きて日本に戻れない可能性が非常に高いらしい。この為、私はもう2度と両親とは会わないだろうと安心してしまう。
今回は改造人間みたいな生存可能な組織に誘拐されたから良かったが生き肝を捧げるとかのカルトな宗教組織だったらどうするんだと思えてくる。しかも、3ヶ月も前からこの日は叔父とライダー展見に行くと言い、叔父も急に都合が悪くなったという事も無いのにも関わらず、有無を言わさぬ早さで連れ去る親とは関わりたくないのだ。今度関わったら確実に私だけが死ぬ未来が見えるしな。
「攻略者としては優秀だったのだがな……。」
警察官の1人がそう言うが、娘が誘拐されても餓死しかけても、叔父との約束を無理矢理反故させられた罪悪感を感じていようとも無視してダンジョンに潜り続ける奴等を親として認めたくない気持ちは分かって貰えると思う。そう思いつつ私は暫くの間はニート生活かもなと思っていた所、叔父はある提案をしてきたのだった。
「……それはそうと、遥。誘拐されていた6年間の間のライダーシリーズを見たくはないか?」
叔父のその言葉に私は勢いよく叔父の方を振り向く。すると従姉妹が嫌にニコニコしながらこちらを見ていた。なんだろう、学歴無視してダラダラ過ごすつもりの予定が一気に崩れていく気がしてならない。
「取り敢えずここにポータブルDVDプレイヤーと誘拐された年にやってたライダーの続きの話が収録されたDVDがあるんだ。これは前金みたいな物として渡しておくよ。」
前金みたいな物という言葉に若干嫌な予感を感じつつも、続きが気になっていた私は迷いなくそれを受け取った。その瞬間、叔父と従姉妹はニヤリと笑っていた。なんだろう、叔母が目を逸らしているのが余計に嫌らしいと感じるんだけど。
「さて、劇場版のDVDとこの後のシリーズを見るにはそのプレイヤーだと対応してないんだよね~。」
「だから遥が続きを見たいのなら、私達の家に来るしか無いって訳。でも、そこでのんびりとは出来ないから、一緒の高校に行こうよ!」
従姉妹こと東郷 智夏がそう言うと私は窮地に立たされたことを実感する。ここで断ればライダーの続きが見れなくなる。だが一緒の高校に行こうという智夏の志望校は恐らくお嬢様、お坊ちゃんの通うタイプの私立高校……。恐らく抵抗は無理だろうが、今がGWの真っ只中という事実を2人に言い聞かせた。
「なんというか、スポーツ推薦枠で入ってきた子が何人かダンジョン関係で問題を起こしたらしくて転校出来る枠は空いてるんだ、」
「いやでも私は10才の頃に誘拐された訳で……勉強全然分かんないんだけ「いや誤魔化しても無駄だから」……せめて最後まで言わせて欲しいんだが。」
なんか算数とか国語とか英語とか行ってテストさせられたんだよな、組織にいる時にもここに連れてこられてから一般常識を試す為って時も。てっきり小学5年生6年生でやる物だと思っていた問題は全て高校でも通用するレベルだったらしい。組織としては勉強できない馬鹿怪人は作りたくなかったのは分かるのだが、勉強不足が通じなくなった今、制度に関して突っ込むしか無い。
「で、でも高校合格していない私がいきなり転入は無理なんじゃあ……。」
「深窓の令嬢みたいに病気で受験できなかった人用の制度があるから問題無いよ。ちなみに手を抜いたら続きのDVDは見せないからね。」
翌日、退院直後にいきなり転入試験を受けさせられた私はそのまま智夏と同じ高校に通う事が決定してしまった。……いや、だって絶対にわざと簡単な問題にしてたんだろうしね!と叫びたくなる衝動を抑えるのに必死だった。
こうして私は制服の採寸やら学校のルールやら攻略者研修についてやらの話を智夏から聞かされつつ、ダラダラする暇も無いままGW明けの転校生として久々の学校生活を送る事となったのであった………。