第18話 [鉄刃]Wave-1
[鉄刃]のスタンピードにおける最終防衛ラインに到着した私達は、窮地に立たされていた攻略者を助けた後に状況を聞く。すると、このスタンピードは非常に面倒くさい事になりそうだと思えてきた。攻略もそうだが、攻略後にも厄介事になりそうな要素が盛り沢山なのだ。
まず、このスタンピードが発生した原因は染髪ボーイ達の様な集りをしていた高校生らしい。ただ、最初だけは本当に自分が追い詰めたクエストを、帰還中に他のパーティが横取りをしたような形で攻略してしまったらしい。ただ、この後賠償金という味を占めたのか虚偽の報告をしていたという救うに救えない人物なのだとか。
「あの高校生の武器はデスシャークナイフだったからな……。ダンジョンツリーがザクザク切り裂かれたんだよ。で、落ち武者の軍団を1匹も倒せないまま殺されてる。」
「デスシャークナイフですか?あの武器は……初心者に持たせると危険ですね。」
なんでもデスシャークナイフはデスシャークというモンスターの牙から作られるナイフで微弱ながら防御貫通効果を持っているらしい。ただこの武器の問題点は赤ん坊が振り回した程度の力でボディビルダーの体をスパッと切れる程、人体を切り裂くのに特化している。牙をナイフの柄にスポッと嵌めるだけで完成する程お手軽に出来る武器の為か値段もそこそことなる。お手頃価格な為に高校生達がメインウェポンとして持つ事も難しくない事がここで裏目に出てしまったのである。
「……今は原因について嘆いている暇は無い。取り敢えず特攻部隊とここに残る部隊に分かれるぞ。」
迫り来る落ち武者の様なモンスター達を倒しながら話し合った結果、突撃するのは私と受付嬢の2人となった。椿は攻略者としての経験が足りない為後方支援を行う事に専念するか星宮の関係者という立場で新たな救援を呼ぶために撤退する以外の選択肢は取りにくく、他の2人の攻略者も特攻には向かない戦闘スタイルの為、こうなるのは仕方なかった。
「危なくなったら無理せず撤退してくださいよ!無茶して死んだら生き返れませんからね!」
「分かっている!だが[鉄刃]常連の名に掛けてここは退けねぇからな!」
最初からこの最終防衛ラインを守っていた西部劇風の服装の攻略者は二丁拳銃をしまい、鞭を取り出して迫り来るモンスター達を牽制するのだった。その牽制により出来た間を合図に私と受付嬢は落ち武者の様なモンスター達に向かって突撃していく。だがスタンピードはそれで上手くいくほど甘くは無い。
「どりゃ!ほいっ!クソッタレ!ここまで数が多いと進むに進めない!まだ後方組が視認できるレベルで進めない!」
モーセの奇跡みたく海を割るような隙間が出来た訳では無く、満員電車の中に無理矢理入り込む形でモンスターの波に入った事、前線で闘っている者達の事を考えると闇雲に突っ込めない事もあり、数は減っているが流れがこちらに傾かないまま20分が経過しようとしていた。このままだとジリ貧なまま全滅もあり得るだろ……と思いつつ、私はモンスターを観察する。
迫ってくるモンスターは落ち武者と呼べる様なゾンビ+足軽スタイルの奴と骸骨+足軽の2種類である。幸いなのはコイツらが使ってくるのが槍では無く小太刀の為、ファランクスの様に特攻する事も無く進撃速度が遅い事だと思える。一応敵味方の区別が付いているのか小太刀を振るのが戦闘の奴等だけという状況が出来てるからなぁ……。
「私がここで食い止めますので術者か発生源を叩きに向かってください!多分無尽蔵にこの落ち武者達を出す何かがこの先にある筈です!何か心当たりありませんかー!」
受付嬢がそう言いながら先程まで1人で最終防衛ラインを守っていた男性攻略者に声を飛ばすと、彼はそれらしき物を見たらしい。その事を確認すると私は威力を調節しながら吸鉱鬼の力を解放する。いや、これまでも相手の小太刀を吸い攻撃手段を無くしていたのに使っていたが、その応用を早速使うことにしたのだ。
研究所時代、吸鉱鬼の遺伝子を大量に持ってきた奴が言うには吸血鬼がより多くのエネルギーを効率良く得る為に進化したのが吸鉄鬼らしい。血液=鉄分みたいな理論で鉄に変化したのだろうが………その吸鉄鬼の進化形がどのような鉱石でも吸い取り力に変えられる吸鉱鬼となっている。しかしこの吸鉱鬼の遺伝子単体で出来た改造人間だったならばいつでもストックしていつでも攻撃できるのだろうが、私には数えきれるか分からない程のモンスターの遺伝子が組み込まれている。この為、吸い取った物を貯めておく事が出来ず、吸って吐いてを繰り返す様な事しか出来ないのである。
それでも無理して貯め込んだ結果、私の見た目は一時的に肉団子というかアドバルーンかと思えるレベルにまで膨らむのだが……この面倒なモンスターの波を一掃し、永久リポップのアイテムを破壊する為にそれは気にしない事にした。しかしどうせなら膨らみ方を変えるか服装をオーバーオールやジャージみたいな違和感や嘲笑される事が少ない奴が良かったな……と思いつつ、鋼鉄で出来た長い槍を作りだして落ち武者的なモンスター達を貫きながら進むのであった。