第17話 人為的スタンピード
現在、私は[鉄刃]に向かうワゴンに揺られながら椿の説明を聞いていた。椿曰く、スタンピードの起こったダンジョンツリーへの救援に私やここにいる強い攻略者を連れて行く為の時間が惜しいからとの事だ。
「世界で初めて人為的なスタンピードが発生したのは滅人教という宗教団体の幹部が引き起こしたとされている物だ。主に[信託][冥命][戦極]の様な人型のモンスターが多く現れるダンジョンツリーで確認され死者は毎回スタンピード沈静の為に駆り出された攻略者含め800人以上、一般人もそれなりに巻き込まれている。結局滅人教は[醜覇]というダンジョンツリーの前で教祖と幹部が逮捕されて解散になった。」
滅人教はダンジョンが現れた事から人類は滅びるべき存在であり、新たな支配者となるモンスターの解放を目的として行動する宗教だったらしい。ただ、模倣犯は厳罰であるとした所似たような事例は起きていない。では、現在主流となっている人為的スタンピードの発生源とは…………酷く馬鹿らしい理由である。
「だが、滅人教のほとぼりが冷め始めた頃に人為的と思われるスタンピードが[恋文]で発生したんだ。」
[恋文]というダンジョンツリーは男女ペアでしかクエストを行えない誓約が存在しているらしい。誓約としては軽い方な為か間引きもキッチリと行われていたので自然発生という事が考えられなかった事と、そのスタンピードで生存した攻略者の証言から人為的に引き起こされた事が発覚したのだ。
「生存者の話によればスタンピードの原因は痴情のもつれだそうだ。恋人同士だった攻略者の女性が他の男性と浮気し、そのまま別れ話した所、男性が浮気した女性と浮気先の男性を殺害しようと武器を振り回したらしい。その過程でダンジョンツリーの枝を切り裂く事になりスタンピード発生……。死者358名となり、原因となったカップル+間男の攻略者は発生直後にモンスターに瞬殺されていたらしい。正直このパターンの方が厄介だな……。」
ダンジョンツリーを管理する星宮の関係者である椿が言うには、スタンピードの沈静までに出た死者に対する責任はスタンピードを発生させた人物にあるとされている。滅人教が引き起こしたスタンピードは発生させた幹部や教祖が生き残っている為、最悪監視しながらの飼い殺しでどうにか責任を取らせる事は出来るのだが、発生させた者が死ぬとかなり面倒な事になる。というか、これまでの事例からして胸糞悪い事が多い。
「あのカップルの時は彼等の遺族が代わりになって貰えたらしいが……正直学生なんかの成り立てが死んだ場合は遺族が責任転嫁や責任問題の存在に関してを否定する事も多い。下手すれば加害者遺族と被害者遺族で戦争が起こるし、中には運営側にだけ非がある様に言って来るからな…。」
椿が言うには原因となった高校生が死んだ際、「なんで助けてくれなかったの!」「ウチだって被害者です!」「勝手に死んだんだ!」「そんな奴の事は知らない!」なんて叫ぶ事が多いらしくまともな会話をするのも一苦労で保証人としての義務を踏み倒そうとするのだとか。
「昔は人為的なスタンピードが起こせるほど強い武器なんて新人が手に入れられる状況じゃ無かったからな。それが今では借金してでも強い武器を持つ訳だ。ダンジョンツリーの枝くらいは折る事が出来るわけさ。それを親が理解していないのが問題なんだよ。」
「………素人が使えないとか、逆に武器に飲み込まれるなんて事もありますからね。ゲームみたいに装備条件に近いシステムがあって良かったかもしれません。」
「そんな雑魚のせいで攻略者活動を自粛させられるのはもう勘弁。でも近くにいたのに救援行かなかったなんて言われるのはもっと勘弁。だから早く自覚して欲しいですよ……安易に保証人になって中途半端な武器与えていたって事を。それで多くの死者が出てしまった事を。全部助けられなかった者の原因にしないで欲しいですよまったく……。」
椿の説明に対して私達と同じワゴンに乗り込んできた3人の攻略者がそうコメントすると、椿も大きなため息を付いた。実際、強い武器を持たせる事でクエスト内での死亡は少なくなったのだろうが、その代わりに人為的なスタンピードの発生が増えているのだろう。
「今はこんな暗い事は考えずに救援に向かわないとな。」
私達は愚痴りそうになりながらも、今はスタンピードをどうにかするという事に意識を向けた。実際、スタンピードで負傷し命からがら逃げてきたであろう者が見え始めたので、私達はそんな者達と入れ替わる様に外に出てからダンジョンツリー[鉄刃]のある方向へ向かって走る。
「………変身!」
ただ、丸腰で行く訳にもいかない為、私はヴァンパイアンと呼んでいるフォームへと体を変化させる。これは人型のモンスターである吸鉱鬼というモンスターの遺伝子を使用している為、服装がシルクハットとマントの怪人の様に変わった事以外の変化は乏しかった。しかし怪人らしくのっぺりした仮面を被った様な容姿となった私は、[鉄刃]から飛び出したであろうモンスター達に特攻していくのだった。