第16話 ☆マークの謎
「……以上が私がこの力を手に入れた経緯だな。」
餓死しかけた事や改造手術を受けた事等、私の過去についてをフードコートコーナーにある防音個室の中で話し終えた頃、智夏以外は唖然としていた。まぁ、改造手術なんて正直チートに近い事の他に非人道的な事だとも取られるからな……。
最初はズルくないかと思われていたが、小学生の時点で全身の骨が折れるような痛みや心臓や脳みそをとかされた様な体験を何度もされ、一歩間違えれば死ぬ状況に加えて自分よりも圧倒的に強い攻略者が存在している事についても話したらズルいという感情は向けられなくなった。むしろ、よく生きていられたと感じる者も多いだろう。
ただ、ホラーチックかつグロテスクなフォームにならずに魔法少女とかみたいに変身できないのかというコメントもあったのだが、それは改造人間という定義上無理な話だった。というのも改造人間として体を変質させるのが私の言う変身であり、魔法少女の様に外部から装着するなんて事は出来ないのである。それを聞いてガッカリする者もいたが改造人間に浪漫は感じないのだろうかとこちらも気分が落ち込んでしまうのだった。
「……成る程、武器がいらない理由は分かった。しかし……改造人間に関する実験については聞いた事が無い。ミユミムコンビも心当たりが無いんだろう?」
「無いよ~。でもマッドサイエンティストとして容認されてない人なんて山ほどいるしね~。」
「そ~だね~。でもダンジョンツリーが出来てから現れたマッドサイエンティストはマークされてる筈でしょ~?」
椿が双子の姉妹を略して問いかけると、気になる情報が入ってきた。なんでもダンジョンツリーが出現してからマッドサイエンティストの様な事をする者が少し増えたらしい。だが、その者達は基本的に大学に所属していた為星宮系の家が管理しているらしい。……そんな経緯があるにも関わらず改造人間を研究していたマッドサイエンティストの話は無いらしい為余計に謎が深まってしまったと感じる。
「……っと、注文した物が来たから早く食べますか。」
椿はさらに話を聞こうとしてきたのだが、丁度注文した料理が来たので中断せざるを得ない状況となった。ちなみに防音性を売りにしている個室の為、いきなり扉を開けるなんて事はしない様になっている事からフードコートの店員は見た!なんてシチュエーションは無いだろう。
「……流石に食事を後回しにする訳には行かないな。冷めたラーメン程微妙な食べ物は無い。それに家では冷たい物ばかり食べるからここでくらい淑女らしからぬ物を食べたいからな。」
「そーゆーとこ椿は残念だよね~。」
「うるさい。なんと言われようと豚骨ラーメンの魔力には勝てないんだよ。」
話を聞いてみると緒留家はダンジョンツリーが登場する迄は鍛冶と着物でそこそこ有名な名家だったらしい。この為、和と呼ばれる物への執着が強く椿が物心の付く頃には和食ばかりであり、しかも冷えた物が多かったという。蕎麦やうどんもざるに乗せられる事が多く、たまに食べるカレーもレトルトの温めなくても食べられる物であり、嫌がらせに近いほど冷めても美味しい料理を冷めてから食べるという事が多かったらしい。電子レンジやオーブントースターが家に無いので自分で温める事も難しいので熱々のラーメンは外食での至高であると話している。
ちなみに私はガッツリ牛丼を注文している。他のメンバーがサラダやスパゲッティ等の女子会の様な食事を選ぶ中、特盛りの牛丼に卵や葱、豚キムチを乗っけるというタブーを犯すと流石の椿も引いていたが気にしないでおく。最近の牛丼屋はトッピングに力いれてるよなぁと感激してこの組み合わせなのだから文句は言わせないぞ。
「……で、星宮の方では☆マークのモンスターに関する情報は無かったのか?」
「パパに連絡してみたけど知らないって言ってたよ~。」
「でも、☆マークのモンスターが現れる可能性に繋がる情報があったんだってさ。その名も[進化]のダンジョンツリーの簡易版、[進歩]のダンジョンツリーが攻略されたって話。それも国家や星宮に知られないままね~。」
なんでも星宮の重鎮達の間では[進化]のダンジョンツリーによるアップデートが毎回多すぎるとの事だ。簡単に言えばゲームハードごとに新作が出されているという感覚との事。ゲームハードの寿命はそれなりに長い為、同じ機種で同作品の新作が出るなんて事は多い。実際とある作品は番外編も含めて同じ機種で完結まで持って行く程だった筈だ。
「[進化]のダンジョンツリーの様な大型アップデートだけでは無い。秘密裏に行われる小型のアップデートの要因が[進歩]のダンジョンツリーという事か。私には殆ど縁が無い言葉なんだがなぁ……。」
私がそう言うと椿はヤレヤレとした雰囲気を出しながらとあるサイトのリンクをスマホで送ってきた。要するに秘密のアップデート的な物がそのサイトに記録されているらしいので帰ったら見てみる事にしよう。そう思いながら私達は昼食を終えゲームコーナーで食休めをしてからダンジョンツリーへと向かおうとした時、[天鈴]の館内放送が響いた。それも緊急性のありそうなサイレンの様な音だ。
『こちら攻略者連合による緊急速報です!今日の午後0時27分にダンジョンツリー[鉄刃]でステージ6のスタンピードが発生しました!一般客の方は専門のシェルターに、攻略者の方は至急[鉄刃]に向かい加勢してください!』
この放送でパニックになった一般客をどうにか宥めるスタッフの様子を見て、私は椿にスタンピードのステージに関する内容を聞いた。一応攻略者研修である程度の知識は持っているが、詳しい事は星宮の関係者に聞く方が良いと考えたからだ。
「[鉄刃]はここから少し離れた場所にあるダンジョンツリーで、落ち武者みたいな刀を使うモンスターが多い。そしてステージ6はダンジョンツリーの枝部分が2つ以上同時に折れた事で発生したスタンピードだ。あそこは集団系クエストも多い分、モンスターの数も尋常じゃ無いはずだ。」
「でも~、緊急招集が入っているって事はそれだけ危険な訳だよ~。だけどね~、おかしいなぁ~。[鉄刃]は間引きする必要が無いくらい人気があるんだけどなぁ~。」
[鉄刃]は日本刀関連の武器防具や質の良い鉱石が素材として入手出来る等の理由で有名らしく、[特撮]の様に過疎化する事は少ないらしい。実際、素材目当てに強い攻略者が頻繁に来る為クエストが溜まりすぎるなんて事は起きないはずだ。しかし、現にスタンピードが発生している為、考えられる可能性は2つある。ただ、急にクエストのレベルが上がった事から攻略が滞り発生したなんて事はあり得ない。
「……人為的にスタンピードを発生させた者がいると考えた方が良いだろうな……。だとするとかなり面倒な事になるぞ……。」
椿がそう言ったのを聞いて私はこれまでに人為的に引き起こされたスタンピードに関しての情報を聞き出す事にしたのだった。なんというか、椿が真面目にしている時ほど暗躍とかのフラグがない気がするのだが……一応、過去に例が無いかくらいは確認しておこう。そんな私の思惑に気が付かないまま椿は有名所のスタンピードについて話を始めるのだった。