第15話 鑑定不可は突然に
あれから4つほどのクエストを熟したのだが、正直に言って私は肉を喰らう際に欲が出てきてしまっていた。力を得る為に喰らい力を取り込む為に味は関係ないのは理解している。どれだけ不味かろうと力は取り入れられる。それにこれまで狩ってきたモンスターは熊、鹿、猪、熊とジビエ料理でもやらせようとしているのかと思える程美味だった。ただあの肉焼き機で焼くだけで絶品なのだ。だからこそ困っている………というのも米が欲しいのだ。
人間誰しもがこのおかずだけでご飯何杯は行ける!とか話すのだが、それは実際に米があればこそ映える台詞だろう。故に、米があればその肉をおかずに何杯も食べられるという事実と、米がこの場に無いという事実を同時に受け入れられないのだ。やはり、米が欲しくて欲しくて溜まらなくなるのだ。大体、食材として扱われない方がおかしい程の肉が何故市場に出てくれないのか……としょんぼりしながら私は倒したモンスターとドロップ品について確認する。ちなみに賞金は示し合わせたかのように1体2000万円だった。その分武器が少々豪華になっているのだろう。
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ロイヤルハニーグリズリー
報酬:グリズリーアロウ/Σ-pa
ボルテックカリブー
報酬:雷棍・山黄鹿
☆覇道キングボア
報酬:覇王の剣《覇猪》
☆深淵ダークネスベアー
報酬:深淵の杖《闇熊》
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正直言って武器はいらないんだよな……。某狩りゲームで裸縛りしている人と同じ形で特定のアイテムを貰っても使わなかったりする為、今度は素材を狙わなければ……とも考える。だがしかし、ここでテキトーにすくい上げると武器が報酬の奴を取ってしまう。武器だけしか出ないダンジョンツリーでは無いので単純に運が悪いのだろう。
「取り敢えず買取カウンターまで行くかな。別に1回1回売りに行かなければならないなんて縛りは無いし。」
某狩りゲームだとアイテムBOXでマイセットポーチにしてから行くんだけども、瞬殺出来るモンスター達だと特に何も弄らなくても数戦は滞りなくいけるからね……。そう思いつつダンジョンツリーのある場所へと転移すると、智夏達が一狩り終えた所と遭遇したのだった。
「あっ、遥じゃない。遥も丁度終わった所?」
「あぁ、そうだな。智夏達は何を狩ってたんだ?」
「コボルトの集落を殲滅するクエストね。大分長い時間やってたわ。コボルトは強いし戦略は練らないと行けないし……。でもコボルトリーダーの指揮棒が手に入ったから黒字にはなりそうね。」
集団戦みたいなのもあるのか?と思っていたが結構特殊なクエストだったらしい。なんでも設定的には雌のコボルトしかいない事、コボルトリーダー1匹以外は智夏のパーティメンバーなら誰でも1人で倒せるレベルだったらしい。まぁ、クエスト名が集落殲滅依頼Lv.2と数値が低い事も関係しているのだろう……。
「集団戦だと一発で即死するなんて事が少ないから……。大型モンスターに潰されただけで下手したら死ぬ訳だし。」
あぁ、多分私は感覚が狂っているんだろうなという事を再確認してしまう。いや、協力プレイ=大型モンスター討伐がゲームの影響で普通になってしまっているけれど、実際の死が付きまとうと弱い大型モンスターよりもやや強い小型モンスターの大量殲滅が効率良くレベルを上げられるのだろうと感じた。しかし、SPの振り分けがその辺の防御力に関係していると言われるとなんとも言えない気持ちになった。
その後は受付の軽いチェックを通った後、智夏達はコボルトリーダーの指示棒をカウンターに置いた。見た目は黒い筒と白の毛で作られた銭太鼓の様な見た目でかなり貧相に見えた。しかしこの指示棒は知能の低いモンスターの気を逸らしたり、パーティメンバー全体の能力を底上げする力を秘めており、欲しがる奴はいるという理由から3800万円+差額1割と高値で売れていた。
「運が良かったみたいですね。普通のコボルトリーダーの武器報酬は指揮棒では無く鉄剣や鉄槍の事が多いですから。」
受付嬢はそう言った後、後ろにいた私を見て目を輝かせてきた。多分、私は彼女の中で上客という認識になっているのだろう。しかし智夏達が見ている中で見せるのは抵抗があるよなぁ……と思いつつ、私はグリズリーアロウ/Σ-paを置く。これは受付嬢のお眼鏡に適ったらしく解説が始まってしまうのだった……長くなりそうなので辞めて欲しいのだが仕方ない。下手をするとまだ3つ持ってる事も見透かされてそうで怖くなってくるしなぁ……。
「まずこの弓は〖鑑定EX〗が無いと分からない事が多いですけど、初心者から上級者まで愛用できるアシスト機能が付いてますね。弓の引き方を知らない人でも上手く扱えるアシストがあり、上級者が嫌うアシスト機能は自由意志でオンオフが切り替えが可能です。棍もスタン効果が強く上手くやれば嵌め殺しが可能な武器ですし、剣や杖も詳しくは話せませんが良い物だと分かります。しかし〖魔法図書館EX〗や〖覇伝知識EX〗なんてスキルの存在は初めて知りましたよ……。」
話を聞くに〖魔法知識〗というスキルは存在しており、派生強化として〖魔法書〗がある。恐らく〖魔法図書館〗はその先に派生した物だと予想は出来る。ただ、EXと名の付いている物の為入手出来るかどうかは不明だと思えたのだった。
「……ただ、剣と杖は未知の物ですね。一応倒したモンスターについて報告して貰っても良いですか?前例がないか調べておきたいんです。」
そう言われて私はクエストの紙を渡すと、受付嬢は資料を取り出し確認していた。ただ、キングボアやダークネスベアーは討伐が報告されているものの、覇王や深淵等の2つ名の様なワードが付けられたモンスターは報告されていなかった。それに加えこのモンスター達の武器や防具は別のダンジョンツリーで報告されているが〖鑑定EX〗では見れない様な物では無かったらしい。
「出来ればこのまま協力して欲しいですが、難しいですね……。ここがメインじゃ無いって顔してますし。ただ、☆マークの2つ名持ちモンスターからドロップした武器は買取カウンターには持ってこない方が良いですね………。」
受付嬢がそう言った直後、彼女の髪が伸びた。ショートヘアーからロングヘアーへと変わるぐらいになった後、元々の髪よりも少し濃い黒の紋様が髪に現れていた。こうなってしまったのを見ると受付嬢は無理矢理武器の所有者にされてしまったのだろう。
「何というか、秘密のアップデートみたいに要素が追加されたのではと思える程の危険性がありますよ……。能力が殆ど分からない事が不安ですし……。一応攻略者やってたのでどうにかなりそうですが。」
明るく言った直後、表情を崩さず笑顔のままで小さく「ビキニアーマーの様な防具じゃなくて良かった」とこっそり呟いていたのを私は聞き逃さなかったが言及はしない。取り敢えず迷惑料として普通の武器だった弓と棍は餞別として渡す事となる。……正直言って金はそこまで必要ないし、受付嬢も押しに弱かったので受け取って貰えたので買取額で智夏達から色々と言われる事は無かったのだった。
「遥、なんであんな強いモンスターをソロで倒せるのか話して貰うからね。」
なんて事は更々無く、私は智夏達に私の力についてある程度話す事となるのだった。まぁ、食事代は別々に払うという事にしておいたのでそこまで深くは聞かれないだろうと思いながら[天鈴]のフードコートへと向かうのだった。