第14話 新品武器の買取
買い取りカウンターの受付には3人の男性が立っている。長蛇の列で並び始めた時には分からなかったのだが、ここの買い取りカウンターはゲートっぽい所を潜った先にあるらしい。恐らくはテーマパークにいきなりグロテスクな物が現れるなんて事にならないようにする為だろう。
「次の方、買い取りするアイテムのジャンルの報告をお願いします。」
「ジャンルは……武器だな。武器の種類も言った方が良いのか?」
受付の男性はそこまではしなくても良いと言いつつ、売るのが武器だからという理由で後ろからいつでも拘束できる様、私の後ろを着いていくという事は了承して貰いたいと話していた。何でも[天鈴]というダンジョンツリーが出来て間もない頃、ここは色々と儲かっているという印象が強かったのか強盗目的で来た者がいたらしい。そりゃ、テーマパーク経営しているくらいだからな。
「あの時は私も新人でしたが大変でしたよ。武器を買い取りに出しに来た客を通したら、買い取りカウンターの前で売り物として出した筈の武器で担当の者に斬り掛かったんです。」
コンビニ強盗の様な手口だなと思いつつその強盗がどうなったかを聞けば、結構悲惨な結末らしい。というのも当時の[天鈴]スタッフは戦闘力は気にせず、スキルを持っているかどうかで雇っていた。その結果、強盗に職員3名が殺され、その場に居合わせた攻略者も含めた27名が重軽傷を負う事態となったらしい。
「……でも今は戦闘力が認められた者しかいませんからね。少なくともここは再犯防止の為、攻略者の方からスカウトしていった訳です。」
現在は同じ様な事が起きても真剣白刃取りした後、普通に買取に移行するレベルの者が集まっているらしいので安心できるのだが、逆にこちらが疑われる立場になるのはなぁ……と感じてしまう。それに加えて給与とか大丈夫なのだろうか?とも思うのだがダンジョンツリーに対する信用の為には金は惜しまないと言わんばかりに高くしているらしい。
「基本的に〖鑑定EX〗〖査定EX〗を持っているのが最低条件ですけどね。繁忙期にはどちらか片方で雇ってコンビを組ませたりしますけどね………。」
鑑定は武器の攻撃手段としてのデータを参照できるらしいが、査定は武器の価値を知る事が出来るスキルらしい。これから攻略者1本で暮らせないと判断した高校生攻略者達が自動車学校の合宿の様な形でキープされているクエスト消費ツアーに行く程、ダンジョンツリー関連では就職には必須のEXスキルとなるらしい。
「世間話はここまでにして早速本題に入りましょうか。取り敢えず売りたい物をこちらに出してください。」
買い取りカウンターの受付嬢にそう言われた私は虹星猫からドロップしたRCツインソードをカウンターに置く。この双剣を一目見た印象は、制作者が猫好きだったんだなという1点が目立っている。なんせ双剣の持ち手がまんまデフォルメされた猫なのである。使っている時は猫の背中や腹を鷲掴みにしている感触を味わえるだろう………いや、そうなると製作者は猫嫌いなんじゃないだろうか?
持ち手が猫の為、猫の尻尾がまっすぐな剣として伸びているという風に見える。ただ、その刃の形状は定規を思い浮かばせられる様な長方形だ。いや、縦の長さは普通の剣レベルはあるのだけど横の長さが完全に定規なのだ。それも、小学校時代に親に買って貰う定規セットに付いてくる15センチの定規サイズと強そうに見えない。鍔部分が無いので余計にそこに目が行ってしまうのだが……と思っていると、受付嬢と警備の男性は驚いていた。
「ほ、本当に売って良いんですかこれ……。」
「あぁ、問題ない。」
そう言われて受付嬢は驚愕していた。恐らく高校1年生の私がこれを持ってきた事に驚いているのだろうが……正直、そこまで驚かれても困る。というのも私は自分が強いとは思っていない。一応何度も死にかけた事でそれなりに強くはなっている。改造人間としての力も使いこなせているだろう……が、私の変身の元となったモンスターを狩ったのも当然、私以外の攻略者なのである。
これまで2匹のモンスターを取り込んで自分を強化したが、私を改造する際に投与された上級モンスターから見れば足下にも及ばないレベルだろうと思う。そうでなければあれだけ簡単にモンスターを殺せる筈が無いのだから、私は期待されている目に惑わされないように警戒するのだった。
「……この武器は毒、麻痺、睡眠、疲労、凍結、出血、火傷の付加属性が付いている双剣ですね。それに耐久値もあり、修復も比較的簡単です。それに加えて、納刀時には小型の猫に姿を変えられるのも利点ですし、……新品なのも間違いないですから……買取額は50億になります。」
いや、インフレ過ぎるだろ……と思ったのだが、話を聞くとこのレベルの武器はドロップしているにはしているらしい。だが、このレベルならば自分で使おうとしてもリスク無く使えるタイプの為、買取に出さない事が多い。また、数回使ってみるなんて事もあり、素材に戻すにも微妙な状態で売りに出される場合もあるとのこと。
「素材として戻すにも優秀そうな武器なのでありがたいですね。……それで、買取額は50億+オークション差額1割となるのですが……よろしいですか?」
その言葉に私は頷いておく。使い切れる自信も予定も無いが、金があると無いとでは話が違う。それに今回は普通に取引した結果で貰うので本当に文句を言う事は無いのだった。しかしオークションの差額の1割というのはあまり期待しない方が良いだろうと思う。なんせ開始額が50億なのだ、欲しいと思えるレベルの奴等は軍資金を用意できない。逆に、用意できる攻略者にとってはもう使う必要が無い物となっているだろうからなぁ……。
「では、買い取らせて頂きます……。あの、三好先輩?そんなにまじまじと武器を見ないでくださいよ。確かにレベルの高い職人ならいくらでも魔改造しそうな見た目ですけども。せめて買取査定に集中してくださいよ……。」
武器を売りに来る攻略者が珍しいのか、隣のカウンターの受付嬢とその客もこちらを見ていた。ちなみに客は2人組であり、キャリアウーマンの様な女性は猫というステータスとして、もう1人のスキンヘッドに白タオルを巻く男性は面白い素材として私が売りに出した双剣を見ていた。
「成る程、こんな武器を出すクエストもここにあるのか……。旧友に会えるという事もあってダンジョンに挑んでいたが……中々面白そうだ。」
「そうですね。しかし葛藤が止まらないので狩るのは貴方1人でやってください。帰ってきたら殺しますけどね。」
「矛盾してないかそれ!いや分かるけども!気持ちは分かるけども愛情ゲージを猫に貢ぎすぎじゃ無いですかねぇ!」
そんな会話を聞き流して私はさっさとダンジョンツリーへと戻る事にした。いや、金も迷宮口座に入れて貰った後なので別に会話に入る必要も無いからな……。それに加えてこの2人も隣の人が売っている物を見たというだけで、染髪ボーイやチャラ男の様に絡んでこないし、残り続ける必要は無いだろう。
「あっ、待ってください。スマホとか持っているならこのQRコードでアプリをダウンロードしておいてください。」
受付嬢がそう話してきたので素直に従うと、ダウンロードできたのはオークションに関する情報が載ったアプリだった。流石に入札までは出来ないらしいが、オークション会場とオークションの開催情報、過去の出品物や落札額に今後出品される予定のアイテムについて表記されていた。ちなみに私の売った双剣も一番下に表示されている。武器以外も出品されている為、見るだけでも面白いし、出品者も公開されないのでトラブル対策も完璧の様に見える。
「……気になるアイテムもあるな……。」
気になるアイテムは基本的にモンスターの素材である。これまで殺した直後のモンスターしか喰っていなかった為、素材となった物でも力は得られるのかという疑問もある。いや、改造手術というか実験中に使った遺伝子はクエスト報酬の素材アイテムからの筈なので大丈夫な筈だ。
「……しかし、次のオークション会場は国外、しかも日本が平日の時に開催だから今回は見逃すしかないな……。」
オークション事態は月に数回行われるのだが、開催地は毎回違う。それに加えて開催国の基準で開催日も決まる。よってこちらが休日でない時にオークション開催なんて事もよくある事として捉えられる。……しかし私が参加できそうなオークションは軽く2ヶ月後となってしまうのは仕方の無い事だろうかと悩みつつ、クエストを攻略するためにダンジョンツリーのある地下へと向かうのだった。