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第13話 愛でよ、喰らえよ

………虹星猫視点…………


『ニャー!(兄さん!兄さん!何でだよ!そんな人間、早く捨てちまえば良いじゃ無いか!かつて最強と言われた兄さんが人間に飼い慣らされるなんてあり得ない!兄さんが僕より弱いなんてあり得ないんだ!)』


 現在、東郷 遥という化け物と闘っている虹星猫は昔の事を思い出していた。これは彼女がまだ一般的なサイズだった頃の話だ。そんな昔の事等捨て去った筈の彼女にとっては忌まわしくもあり、懐かしくもあった。


 かつて最強と言われた兄が、とある人間との戦いで行方不明になった。そんな兄がいつでも帰ってこれる場所を守る為に、最強となる為戦い続けた彼女は、ようやく見つけた兄を見て、驚愕した。兄はとある人間に愛玩動物として愛でられていたのだ。かつて最強と言われた爪や牙は綺麗に整えられ、猫缶に歓喜しつつ猫じゃらしと戯れる兄を見て、彼女は失望した。そして決意したのだ、自分はこうはならないと………。


『ニャニャニャー!(だからこそ、屈する事はしない。兄のように無様に生きるのならば、私は死を選ぶ!)』


 かつて最強と呼ばれた虹星猫は自分の攻撃が全て破壊され、受け流されようと諦めずに立ち向かった。命を削りながらも反撃の糸口を作ろうとしたが、彼女は喉を切り裂かれた事で戦いは決着した。自分の喉元から滴り落ちる血を見た彼女は宝石すら出せない事を悟ると、そのまま目を閉じた。

 

『ニャー(………そうか。私は……死ぬのか。)』


 兄の様に飼い慣らされるなんて事も無い。逃げなかったから、負けたから、殺されたから死ぬなんて彼女の世界の中では当たり前の事だった。だからこそ、兄のようにならなかった事だけでも彼女は満足していた、良い人生だったと思っている。だからこそ彼女の最も苛つく所は、この兄に関する記憶が真実でありながら偽りである事だろうか?だが、彼女がこの意味について理解する事は無い。最後の一撃からほんの少しの時間が経った頃、彼女の魂はダンジョンツリーに組み込まれていった。輪廻転生でもするのか、将又同じ様な物として使い回されるのか、全ては神のみぞ知る所である。


……………………………………………………………………


 虹星猫が喉の辺りから大量に出血し、そのままバタリと倒れた。その直後にクエストをクリアした様なファンファーレが頭の中を駆け巡り、私は呆気にとられていた。なんというか……もう少し骨があると思ったモンスターが呆気なくやられたというか、ボスの召喚獣を倒していたと思ったらボスのHPと連動していたのに気付かずに拍子抜けしてしまった様な気分だ。



「………案外、楽に終わってしまったな。」


 虹星猫のビットを砕き、口から放たれたレーザービームを避けながら喉を爪で1回切り裂いただけで呆気なく倒せてしまった。いや、相手が防御面も完璧ならばもう少し時間が掛かっていただろうし、逃げる行動を取られれば倒す難易度も上がっていた筈だ。しかし、インファイターのごとく攻め続ける性格だった為、虹星猫は呆気なく死んだのだ。


「で、ダブルアップチャンスは……無いのか。ここまで呆気ないと逆にダブルアップ前提なのかと思ったのに……。」


 まぁ、滅多に起こる物では無いので仕方ないのだろう。[特撮]内で出てきた時もほぼ不意打ちだった訳だし。そう思いつつリザルトを確認しておく。……よくよく考えると私は古城、火山付近、浮島っぽい所の上に立つタイプの雲海とオーソドックスな場所に出たことが無い。普通ダンジョンって言えば遺跡風の洞窟の中や草原とかの筈なんだけどなぁ………。


………………………………………………………

Quest:Result

虹星猫 討伐完了

時間:00:05

報酬:RC(レインボーキャッツ)ツインソード

参加人数:1人(+0人)

貢献度:東郷 遥 100%


Hunter:Result

口座:+3400万円=(略)

スキル:Error

………………………………………………………


 迷宮口座に関してはあまり気にしない事にしようと省略する理由は、未だに9000億という大金を消費できる気がしないからだ。1日1000万使ったとしても数十年単位となるからなぁ……。現在大金を消費するならば武器や防具を買うのが主流だが私には必要無いので意味が無い。……かといってFX等の資産溶かすマンもやるだけ無駄な気がするし、気にしないでおこう。スキルポイントも安定のError表示な訳だし。


「……まぁ、金があればある程度の物は作れるから良いんだけどな。いや、これは無理言って譲って貰った様な物だけど。」


 そう言いながら私は〖収納EX〗からある物を取り出す。某狩りゲームの中で定番スタイルとなったあの肉焼き機……それをキャンプ地で使う用として巨大化させた物である。元々は数十個のこんがり焼けた肉を作成する為のアイテムだが、私の取り出した物は虹星猫の様な巨大モンスターを丸焼きにする事に特化させたデザインである。肉焼き機+色々ついてお値段なんと3000万円というなんとも言えない値段である。


「取り敢えず先に内蔵の類は外に出しておくか。多分力を取り込むには最適な部位だろうし。」


 目玉と心臓等は丸焼き部分とは別の串に刺しておく。その後はセットで着いてきた毛刈り機を使って体毛を除去する。このアイテムはドロップ由来でありどんなモンスターの毛でも死体からなら取れるらしい。しかしこの毛刈りのデメリットとして刈った毛は消滅するので不人気アイテムと烙印を押されているらしい。


「毛刈りを終えてから……スイッチを押して……焼き始めるか。」


 ツルツルとした猫の姿を見て、またこれから猫を丸焼きにして食べる事について色々と言われるかもしれない。確かに猫は食用になる事は普通無い愛玩動物である。だがしかし、今は愛玩動物であったり、牛やら豚やら鶏の方が質が良く育てやすいからという理由で現在愛玩動物である動物の肉が食われないだけなのだ。羊頭狗肉という言葉程、それを表している言葉は無いだろう。


「上手に焼けましたっと。火も中まで通っている完璧なこんがり肉だなぁ。」


 私もダンジョンツリー由来のモンスターでない猫は食べようとは思わない。なんせ食べられる肉は他にもいるのだから、わざわざ殺して喰うなんて事はしない。しかし、モンスターならば遠慮はいらないだろう……多分。どれだけ人が飢えていて、喰う物が見ず知らずの猫だけだったので食べましたという状況でも猫を殺すな、喰うなと文句を言う奴はいるだろうけどな。そんな奴等は同じ状況で飢え死にしろって事で完結しよう。


「………これ、何肉と言えば良いんだろうな?とゆーか何の肉に似てるのかも分からないしなぁ…。喰えればそれで良いか、うん。」


 しかし普段食べない肉を喰うときは何の肉に似ているのかを想像するのは最早伝統芸の様にも思えてくる。ある意味喰っている動物を別の物に置き換えて平常心を保とうと思っているのかもしれない。主に蛇とか蛙とかを食べる時にそうしている人は多い気がするが、猫の場合はどうなのだろうか?


「………しかし何も付けてないのに結構香ばしい味がするなぁ。もしかしたらこの肉焼き機の炎が関係しているのかもしれないけどさ。鉄板で焼くのとまた違った味っていうのは本当だね。」


 あの肉焼き機は直火だからなぁ……。鉄板の様に火に触れる事が無い状態とは違っている。ダンジョンツリーが出来てからは燻製の煙と似たような形で調理する際の火も調味料的な要素が加わった。デメリットとして焦げやすい点があるが、肉を持ち帰れないクエスト内では重宝される……というか主流になっていくだろう。


「……これ呟きサイトで呟いたらバカッターみたく炎上するのかね?まぁ、最近はバカッターやる奴なんて滅多にいないけど。」


 昔はアイス売り場や冷蔵庫、食品用の洗浄機なんかに入って何の罪も無い店側が閉店しなければならない事もあったのだが、ダンジョンツリーが現れた現代だとイイネ!よりも危ない!ボタンを付けなければいけない様なバカッターが増えてきている。例えば、「ミミックに咥えられてみた」の様な死ぬか死なないかの瀬戸際を攻める感じだろう。最初は死体の口の中に入るのが多かったのだろうがスリルとネット内での反応を求めて生きているモンスターでやる事も多くなってきたらしい。


「これをあんな書き込みの様に表すとしたらどんなんだろうな…?」


 猫、喰ってみた?それとも猫、丸焼きにしてみた?どれもしっくり来ないが、愛玩動物としての猫とモンスターとしての猫、それから食品としての猫を頭の中でグルグルと回した私は、スマホで書き込むわけでもないのに呟いていた。恐らく、猫信者からは反感を買うであろうその言葉は………。


「食べちゃいたいくらい可愛いらしいので、丸焼きにして喰ってみたなう。」


 まぁ、テイム等の使役系魔法が現れない限りこの行為は正当化されやすいだろうなぁと思いつつ、私は肉を平らげてそのままクエストから出た。戦闘時間よりも食事時間の方が長いというなんとも言えないクエストだったが、いずれ私を圧倒するモンスターは現れるだろうと思う。この為力を取り込む為にこのクエストをする事にも充分意味があるのだ。


「さてと、あの武器買い取りに出すかなぁ……。」


 そう呟きながら私は[天鈴]の上階に上がり買い取りカウンターへと向かう。途中、私の呟きを聞き取ったであろう男性が普通なら武器をそのまま売りに行くとかあり得ないなんて顔をしていたが、特に絡んでくる事も無かったので気にしないでおくのだった。


 そして買い取りカウンターらしき所を見つけたのだが、[竜泉]の時と違い長蛇の列が出来ていた為、私は20分程退屈に耐えたのだった。今となってはたかが20分くらいならどうって事無い待ち時間になってしまったからなぁ………と、10年前に餓死しかけた永遠の待ち時間の事を思い出してしまう私なのであった。

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