第12話 テーマパーク[天鈴]
特にイベントも無い土曜日に私は智夏に[天鈴]に連れて行ってくれないかと頼み込んだ。正直このまま[特撮]にこもり続けても良いのだが、私は彼女達と違いSPを会得できず、[特撮]のモンスター達は捕食する間も無く爆散してしまう。この2つの要素のせいで引き籠もっていたらレベル不足で敵を倒せない事態に陥った際に詰んでしまうのだ。しかし、[竜泉]に行くとまた面倒事が起きそうなので[天鈴]に連れて行ってもらおうと思ったのだった。
「分かったわ。一緒に行ってあげるけど……パーティは組んでくれないの?皆反対しないと思うんだけど。」
「ワンマンプレーに走る自信タップリだからな。パーティは組まない。とゆーか、私とパーティ組んでいたら堕落する可能性もあるからな。」
6年間まぁまぁ平凡な人生と訓練をしてきた智夏とモンスターの遺伝子をひたすら投与されており、何度も死ぬかもしれないリスクを乗り越えなければならなかった私とでは初期ステータスが違いすぎる。モンスターの肉も食用として流通はしているが、滋養強壮効果があれば良いなぁレベルの機能しか無い為、テンプレの様に食べてたらいつの間にか強くなっていたという事も無い。
「……分かってるわよ。自分でコツコツやって強くなるから………いずれ遥を追い抜いてみせる程にね。」
智夏は死亡フラグが建ちそうな不穏な台詞を連呼している。……まぁ、流石に死ぬなんて事にはならないだろうと思いながら私は智夏と一緒に駐車場エリアへと向かう。そこにはリムジンやらベンツ等の如何にもな高級車が並べられているが、この2つ以外は庶民の味方なワゴンやら軽トラが置かれている。使用率としては高級車よりも一般車の方が高いのは跡取りになるなんて考えていなかった時期が長い現会長の影響だろう。
今回の送迎に使われるのはワゴン車であり、運転は陸と空に関する全ての免許を持つ熟年執事のロバートが担当する。船酔いしやすい体質で無ければ運転免許を全てコンプリート出来たと自負する程運転が上手いので信用できる。
「今日は私の家が送迎する番だから頼んだわよ、ロバート。」
「お任せくださいませ。このロバート、どんな車でも使いこなしてみせましょうぞ。」
ダンジョンツリー[天鈴]迄は車で向かう事は決定事項らしいが、流石に1つの家に負担を強いる訳にもいかない為、車を出せる者達が交代して行っているという。まぁ、四方財団や星宮系の令嬢達がパーティメンバーらしいのでそれが出来るのだろう。ただ、私は空気みたいな雰囲気を纏ってややこしい事にならないように努力するのだった。場所覚えれば自力で行けそうだしな……。
そう思いながらパーティメンバーの6人が集まるのを待つ。しかし、放課後に顔合わせをさせられていたというか、カラオケなどで一緒に遊んだ事もあって色々と質問攻めに遭う様になってしまうのは予想外だった。全員が集まってからと言ってどうにか落ち着かせたがどうなる事やら……と運転手をしている熟年執事のロバートにも助けを求めつつ[天鈴]に向かうのだった。
パーティメンバーとして最初にワゴン車に乗り込む事となったのは西都会長の三女、マリア。その次に北斗会長の次女の瑞喜と知り合いの娘であると思うとなんとも言えない気持ちになる。まぁ、見送りとかで遭遇しなくて良かったかもしれないな……もし会ってたら中々ややこしい事になってる筈だ。
ちなみにマリアと瑞喜は父親のサブカルチャー文化の布教を受けていないらしく、マリアは日朝魔法少女に心酔しており、初代に憧れてラクロスを始めたという過去もあるらしい。対する瑞喜は男性アイドル系のアニメをよく嗜むらしい。汚れた感情を持たずに楽しんでいるので純粋な追っかけに近いだろうと思う。
「男性アイドル物か……。たまにあの曲やこの曲をカバーしてるって事で少しは聞いたことあるな。」
平成3作目から直接ライダーという言葉をopに入れなくなった為か、普通の曲と思ってしまう事も多いらしい。一応それっぽいフレーズは入っている時もあるが……そこまで驚愕しなくても良いだろ瑞喜よ。歌手が歌手だからって携帯獣のアニソンだけ歌っていると思っていたとか言わない方が良いぞ。そりゃ、一部は本当にそれだけの為に結成した事もあるけどさ。
そんな事を話している間に、豪邸では無い普通の住宅街にワゴンが停止する。するとそこに乗りこんできたのは私が誘拐されていた期間に出来た智夏の友人である五十嵐 柚子だった。彼女だけ違う高校に通っているが、放課後はよく合流して遊ぶらしく私も何回か会っている。しかし初対面の時は智夏がどれだけ心配していたのかについて熱弁していたので若干苦手である。
なんとも言えない空間が出来つつある中、布田湖家当主の5女、6女である双子姉妹の美友、美夢、緒留家の長女である椿が新たに乗りこんでくる。彼女達とも軽く会話した後は空気となる為に身を潜めるように黙っていた。まぁ、全員揃うと今日の予定に関しての話し合いを始めたのでそうしなくても問題なかったのだけど。
そう思いながら[天鈴]の駐車場に着いたのだが……[天鈴]の外観を見て私は叫んでいた、ここはテーマパークかとこれでもか!と思うほど叫んだ。これまで地味な建物どころかボロボロの廃屋のダンジョンツリーにしか見た事が無かった為、そう叫ぶのも仕方なかった。
「まぁ、確かにそうなるわよね。ここのマスコットキャラクターのタマちゃんとミケちゃんは全国でも有名なキャラクターだし。」
最初はテーマパークの中にダンジョンツリーが出来たのかと思ったのだが、実際は逆らしく余計に混乱してしまう。ただ、最初は武器を預けておけるというメリットを掲げていたのだが、ここの経営者がそれだけでは無い目玉を作ろうという理由でゲームセンターやら遊園地の様なアトラクションを豊富に揃え、シングルマザー、シングルファザーに支持されているらしい。まぁ、その分訓練所が小規模なのが欠点とされているとか。
「クエスト攻略じゃ無くても楽しめるのがここの良い所よ。」
「そうらしいが、なんか落ち着かないな……。」
そう言いながら私はクエストツリーへと直行しようとするが、智夏を含めた7人に首根っこを引っ張られたので立ち止まる。何を言いたいんだと思ったがどうやら武器や防具を装備してから迎えとの事だ。だが、私は武器や防具は持っていないので問題ないと進もうとするとより強い力で引っ張られる。……なんか説得するのも面倒なので私はそのまま智夏達を逆に引っ張りながら向かおうとしてみた。
結果的に智夏達が折れたので私は先にダンジョンツリーに向かう事にしたのだが……、マリアが魔法使えるんですか?みたいな事を質問してきた。いや、魔法という攻撃方法あったんだなぁ~と半ば感心しつつ、似たような物だと答えておく。魔法は杖等を使わなければ使用できないのが普通だというマリアの言葉から、魔法があるのに[特撮]に潜れないのは何故かという疑問もすぐに解けたので深く追求されないようにしようと思う。
「……という訳だから私はソロで先に行っているからな。次に合流するのは何時が良い?」
「そうね……。今9時半だから12時頃に1回集合ね。」
智夏はそう言って更衣室へ走って行った。それを見届けてからダンジョンツリーのある地下へ降りると、それなりに人が集まっていた。朝早くからご苦労な事で……と思いつつテキトーにクエストをすくい取る。
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〔討伐依頼 Lv.80〕
フィールド:[天鈴]の大雲海
クエスト内容:虹星猫の討伐
クエスト報酬:虹星猫武器 Aランク
賞金:3400万円
スキル:(略)
個別誓約:10人以内(下痢)
貢献度:0%(0人)
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面倒なのでスキルに関しては修得できそうなスキル以外は略す事にしたが、正直テキトーにすくい取るだけでも運が無いとかあり得ないと思える。それに加え雲海という未知のステージなのも嫌な予感がした私は仮名ヘル・ポリスを使わず別の形で闘う事を決め、クエストへと向かうのだった。
「……なんとも言えないフィールドだな、おい。」
クエストに向かう際特有の白い光が晴れると、そこはかなり不安定な足場だった。まず、私が立っているのは巨大な正方形の岩である。平べったく広がるこの岩を囲むように黄ばんだ雲を見た私は、橋の上から見た中州を思い出す。黄ばんだ雲の上には乗れず、人や武器がそのまま突き抜けて落ちるだろう。そんな事を考えていると地平線……いや、この場合は雲平線と呼ぶべき場所から叫び声が聞こえた。
『フシャァァァァァァァァーーーーーーー!!』
人間は雲の上を移動は出来ないが、モンスターならば問題なく足場として使えるぞ的な感じで虹星猫が歩いてくる。スラリスラリと歩きながら、小さめの岩をゲシゲシと端に除ける様に歩いてくる。ちなみにこの虹星猫のサイズは某映画で有名な猫とバスの融合体と同じくらいだ。ただ、体毛が雲と同じように黄ばんだ白であり、顔も現実の猫基準になっている。瞳は宝石の様にキラキラ光っており、サイズが普通サイズだったならば愛玩用動物として可愛がられていたかもしれない。
「……じゃ、始めようか。変身!」
愛玩用に買えそうな風貌でもモンスターである事に代わりは無い。なのでさっさと倒す為に私は変身する為の咆哮を天に向かって放つ。これまでの様な変身では無いが、いつもの奴だと雲に落とされた時の対処が遅れるので妥当な判断だろう。ただ、猫に使うのは少々勿体ないかもしれない代物である。
「仮名、ドラゴメイル:アース。」
この姿はまんま竜騎士をイメージしている。基本は焦げ茶の西洋風鎧に竜の頭を模した鎧兜、背中には鎧と同じ素材で出来た翼という怪人よりはファンタジー物の敵にも見えるだろう。……まぁ、この姿は飛べるには飛べるが、地上戦をする事をイメージしているのも関係している。
『フシャァァァァァァァァーーーーーーー!!!』
急に姿を変えた私を見て、虹星猫は宝石の塊を5つ程ビットの様に滞空させて警戒している。……これ、受け身で闘おうとしたら確実に終わらないだろうなと、相手の警戒心が高すぎる事に呆れつつ、ゆっくりと近づいていくのだった。