Prologue 始まりは知らない天井の下で
私が産まれた頃、日本の元号は変わったらしい。元号が変わるなんて事は産まれたばかりの私達にとってはどうでも良い事だと思える。ただ、元年産まれというのはある意味貴重な体験が出来たのでは無いかとしみじみと感じる。ただ、元号が変わると世の中は忙しくなるらしく世間は慌ただしくなっていた。
私が産まれた頃、世界にはダンジョンツリーと呼ばれる魔方陣が出現したらしい。元号が変わった事に関しての忙しさも相まって日本は混乱していた。そんな中、自分の兄夫婦に私を預けてダンジョンという未知の世界にどっぷり浸かった父親と、それを言い訳に同じくどっぷりダンジョン世界に嵌まった母親はまさに自由人だったと思われる。しかし私が小学生になると少しは落ち着き、家にいる事も多くはなった気がする事は覚えている。
私が小学3年生の頃、3ヶ月前に叔父と約束していたライダー展に行く日、両親に無理矢理新しいダンジョンが出来た街へ連行された事はしっかりと覚えている。あの日は叔父が見せてくれた昔のライダー作品を全て取り扱っている記念式典みたいな物だったので何度も伝えていたのにも関わらず、当日に無理矢理連れて行くとは思わなかったのだ。叔父と遊びに行くからとか聞く耳持たず、連れて行くのはどうかと思う。
年齢制限でダンジョンに入れない事から一銭も持たされずダンジョンのある街に放り出されたのを覚えている。三日三晩両親が戻ってくるのを待ったが、私がとある組織に誘拐されるまで帰ってこなかった。恐らく、誘拐された事に気付くのも大分後では無いだろうかと勘繰れる程の間出てこなかったのだろう。
手術台と訓練室とベッドの間を何度も往復していたのを覚えている。とゆーか、つい先日までそんな生活だったと感じる。運の良い事に薄い本でやられる様な卑猥な工程は無かった物の、痛みや苦しみは恐ろしい程リアルな体験だった。自分の体に何かの遺伝子を次々と入れられる事と隣で手術を受けていた子供が自分よりも軽い手術で気絶or死亡していたのを見て、余計に恐怖が増していたのもハッキリと覚えている。
そして朧気ながら組織に警察や特殊部隊が入り、自分は助け出された事を覚えている。私を警察や特殊部隊と闘わせようと組織の人間は指を指し続けたが、私はそれに従わなかった事はハッキリと覚えている。奴等に加担しても死ぬだけだったし、どうせ私が犠牲になったところでコイツらも助からないと悟っていたからだろう。そして現在、私は白い天井を見てこう呟いた。
「………知らない天井だ。」
その一言を告げた時、ベッドの隣に座っていた少女が泣き始める。彼女が誰なのかという事は理解できているのだが、誘拐されてからの6年間会っていないため自信は無い。しかし彼女は私が目を覚ました事……いや、私が戻った来た事を喜んでいるのだろうと思う。しかしここで喜んでいるのが両親では無く従姉妹である事を思うと私は思わず笑ってしまう。そんな笑顔を見て少しだけ困惑した彼女を余所に、私はこれからの事について考えるのだった。