表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

他人の空似

作者: 高橋なつみ

 高井くんと上橋くんは、「他人のそら似」の見本だ。


 長丸い顔に、細いタレ目とメガネ。柔道一直線な体型を学ランに包んだら、担任教師から親友までもが、一度は間違う。

 

 ある日、英語の教師が二人に言った。


 「おまえら、実は双子でしたとかいうんじゃないだろうな」


 高井くんと上橋くんは、顔を見合わせ、お互い、見えないキズに触られた瞬間の顔になる。


 「あ、いや、実はちょっと」と、高井くんが答えた。


 「内緒にしてたんですけど、事情があるっつーか」と、上橋くんが続ける。


 「そ、そうか、いや、すまん」


 教師は、詫びの言葉とともに、慌てて片手を上げた。

 

 

 すたこらと廊下を去ってゆく教師の後ろ姿を見ながら、ふたりはもう一度、顔を見合わせる。


 今度は、にんまりとした顔で。


 「センセー騙すなよ、悪いヤツ」


 上橋くんが、高井くんを肘でつついた。


 「すぐ嘘だってわかるって」


 高井くんも、つつき返す。


 ふたりの笑い声がリンクした。

 


 放課後――


 校長室では、緊急に招集された研究機関の職員が、校長、教頭と額を突き合わせていた。


 「これはヒジョーにマズイです」と、研究機関の職員が眉をひそめる。


 「彼らはいつ、事情を知ったのでしょうか」


 「私たちも彼らのご両親も、機密に関する内容は一切表に出ないよう、それは厳重な管理を、はぁ」


 校長が、額の汗をハンカチで拭った。



 上橋くんが、100人近い死者を出した列車事故から奇跡の生還を遂げたのは、10歳の時だった。


 折り重なる遺体や電車の残骸の中、彼は、右手をもぎとられた状態で救出された。何とか一命を取り留めたが、右手は、必死の捜索にもかかわらず、ついに発見されなかった。


 右手を失った少年の将来を憂いた、その翌日――


 上橋くんが発見されたのと同じ車両から、少年がもう1人救出された。


 誰もが驚いた。


 なぜなら、少年は「上橋くんの等身大コピー」だったから。


 もちろん上橋くんには、一卵性双生児の兄弟などいない。


 その少年は、事故のせいで記憶を完全に失っており、しかも誰からの身元照会もなく、名前すらわからない。

 

 同じ頃、上橋くんが入院する病院でも、上を下への大騒ぎとなっていた。


 上橋くんに、完全無欠な右手が生えていたのだ――

 


 二人は、体の隅々まで研究された。


 そうして半年後、上橋くんは、「等身大コピー少年」の存在を知らされることなく、普通の小学生の生活に戻った。


 もう一人の上橋くんは、同じ事故で子どもを亡くした、高井さん夫妻の申し出により、養子として引き取られた。


 この時の調査結果全ては、国家機密並みの極秘事項として、封印されている――

 


 「プラナリアの再生能力を持つ少年、ですか」


 教頭が、ため息とともに呟く。研究機関職員は、今後の対策を確認して帰った後だ。


 「入学式の翌日、あの連中が乗り込んでくるまでは、単なる『他人の空似』だと思っていたがなぁ。なんで、よりによって同じ学校へ来たのやら」


 校長も、教頭と同じ種類のため息をついた。


 「まぁ、元は同じ人間だったわけですから、志望するものが同じでもおかしくないということでしょうか」


 

 その頃、職員室の電話が激しく鳴り、そばにいた教師が受話器を取り上げ、「はい、○△高校ですが」と決まり文句で応対した。

 

 受話器の向こうから、ノイズ混じりの緊迫した声が告げる。


 「こちら○×警察ですが、そちらの生徒とおぼしき少年が、爆発事故で重傷を……あ、名前は高井……えぇ、左手の指を三本吹き飛ばされまして、現在病院へ搬送中です――」


〈了〉


私の弟と、弟の親友Iくんに捧げます。

この二人は、高校時代、友人や先生ばかりではなく、私の親にまで間違えられたというほどの、そっくりさんでした。

ちなみに、正真正銘「他人の空似」。

何の秘密もありません。

――ないよねぇ、ね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これは面白い!アイデアが秀逸! 「え?どゆこと?」と思ったら、こういうことですか。 真相を明かす側の困惑ぶりと最後の落ちも笑わせてくれます。 ホラーと言えばホラーか・・。ホラーはジャンル自体…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ