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SF-ストライク・フォース  作者: 田んぼのアイドル、スズメちゃん
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入学編-2

 ストライク・フォースと呼ばれる兵器には、専用のコアが必要である。このコアは『ガルダニウム』というレアメタルに特殊な加工を施したものである。


 このガルダニウムは、21世紀初頭に日本の火山学者によって発見された。九州にある活発な活火山の河口付近に見慣れない鉱物を、火山の調査に来ていた学者グループによって発見された。

 この学者グループは地質学者が中心であり、残念ながら鉱物学者はいなかった。そのため、その鉱物は国営の研究機関に持ち込まれ、精密な解析が行われた。それにより、この鉱物は未知の新元素であることが判明した。


 解析によってガルダニウムの驚くべき特性が3つ発見された。

 1つ目の特殊は、常にエネルギーを放出し続けているということである。

 通常、孤立系状況下では物質もエネルギーも交換しないために、系のエネルギー総量に変化が無い。しかし、ガルダニウムは孤立系においても、エネルギー総量が増加し続けたのである。これは、エネルギー保存の法則と反しているために、世界中の物理学者の常識というものがことごとく破壊されたのだ。

 2つ目はワームホールと思われるものを生み出せるということである。このワームホールは、生物が通過することはできないものの金属等の無機物は通過させることが出来た。

 最後は、ガルダニウムという名前の由来ともなった特性である。ガルダニウムに外部からのエネルギーを与えてやると、周囲の重力に影響を及ぼすというものだ。航空機に生じるGの制御に成功した。それに加え、空気摩擦を限りなく0に出来るというものである。

 これにより、ガルダニウムを使用した超高速旅客機などが作られ、世界はより狭くなった。

 この特性によって、航空機関連技術に革命が起こされた。そのため、インド神話に登場する神鳥『ガルダ』にちなんでガルダニウムと名付けられた。


 これらの特性に目を付けたのは、ガルダニウムを平和利用しようとする者たちだけではなかった。

 各国はこぞってガルダニウムを使用した兵器開発に着手した。

しかし、ガルダニウムが産出される地域は限られていた。その中でも大量かつ良質なガルダニウム産出されたのが日本であり、ガルダニウムによって瞬く間に日本が資源大国となった。

 そのため、日本はガルダニウムを使用した技術開発において、他国よりも1歩先を歩むことになった。それによって生まれた技術の1つがストライク・フォースの原型となるものであった。


 いつしかガルダニウムは、人類の生活において必要不可欠なものとなりつつあった。

 これによって世界は、ガルダニウムを巡り2023年に10年にも及ぶ第三次世界大戦が勃発した。当然、世界有数のガルダニウム産出国である日本も戦争に巻き込まれた。しかし、日本はストライク・フォースを戦闘に導入し、他国を圧倒した。これにより、ストライク・フォースの戦術的優位性を世界中に知らしめることとなった。


 ストライク・フォースのコアには使用者との適合率というものがある。この適合率が30%以上でなければストライク・フォースを動かせることができない。このコアは何故か男性より圧倒的に女性の方が適合しやすい傾向にある。

 そのため、SF学園の生徒の比率も男子1に対して女子9となっているのである。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 香奈子は藍那に何と声を掛ければ良いか分からず、部屋の片づけが終わった後も2人の会話はなかった。

 時刻は午後6時半。少し早めに夕食をとるのならちょうどいい時間だろう。とは言え、やはり香代子から藍那を誘うのは、少し気が引ける。

(このままだと物凄く気まずい・・・。でも、私から夕飯に誘うのはなぁ・・・。)

 そんなことを考えていると、

「少し早いけど、夕食にしない?」

 このタイミングでの藍那からの誘いは、香奈子からすれば渡りに船である。

「どこでも食べますか?やっぱり食堂に行きますか?」

 SF学園の食堂はメニューが豊富かつ、生徒なら無料で食事ができる為利用する者も多い。

「いや、購買で適当に買って来てここで食べようと思っているわ。どうしても食堂に行きたいというのなら、私はそれでもかまわないけれど。」

「いえ、大丈夫です。今日は部屋で食べましょう。」

「そう?なら、混雑しないうちに行きましょうか。」

 2人揃って部屋を後にした。


 購買は寮の1階にあり、藍那たちの部屋は3階にあるため少し距離がある。もちろん購買も規範的に生徒であれば買い物は無料である。

「食べ物だけじゃなくて、日用品もたくさん置いてますね!」

香奈子が感心したような声をあげる。

「一応、ここに来れば日々の生活に困るようなことはありませんよ。夕食なら、このお弁当なんていかかですか?」

 購買の従業員の女性が日替わり弁当を勧める。

「迷うな・・・。藍那さんはどれにします?」

「私はこのレーションでいいわ。」

 藍那が手に持っているのは、不味いと評判のブロック状の携帯食料である。

「そんなものより、日替わり弁当のほうがいいよ?」

店員が不思議そうな顔をしながら日替わり弁当を勧めてくる。しかし、

「いえ。私はこれでいいんです。」

「そうかい?じゃあ、一応学生証を見せてもらえるかい?」

 藍那が学生証を取り出し、店員に見せる。

「香奈子は決まりましたか?」

「は、はい。私は日替わり弁当にします。」

 香奈子も店員に学生証を見せる。

「それでは、部屋に戻りますか?」

 2人揃って部屋に戻っていった。

「レーションを買っていくなんて、変わった子だね。」

 店員は心底不思議そうに呟いた。


 部屋に到着し、夕食の準備をする。時刻はもうすぐ午後7時、夕食にはちょうどいい時間だろう。食事の準備と言っても、先程購買で買ってきたものを机の上に出すだけであるため、すぐである。

「では、食事にしますか?」

「そうですね。」

 藍那は包ビニールを解いてレーションを取り出し、香代子は弁当の蓋をとって食事を始める。

 食事を始めて少し経ったとき、藍那が口を開く。

「香奈子は私の過去のことで、気まずくなってしまっているのではないですか?」

「・・・はい。聞いてはいけないことだったのではないかと思って・・・。もしそうなら、とても申し訳ないことをしてしまったから・・・。」

「私は、自分の過去のことに触れられるのは、別に何とも思いませんよ。ただ、そのことで私を腫れ物のように扱うのはやめてほしいですね。ですから、香奈子が気にすることはありませんよ?」

「えっ?怒っていたんじゃないんですか?」

 香奈子は心底驚いているようである。

「・・・?どうして?」

「だって、あれから何も話しかけてくれなかったし・・・。」

「それは、別段話す用事がなかったからですよ?」

「そうだったんだ・・・。安心しました。良かった・・・。」

 小首をかしげながら話す藍那に対して、香奈子はほっとしている。

「それはそうと、明日の朝一番から実力テストですね。香奈子は大丈夫ですか?」

「忘れてた・・・。ど、どうしよう!?」

 香奈子は絶望の淵に立たされた人間の顔になっている。

「たぶん大丈夫だと思いますよ?単に入学直後の実力テストというだけですから。」

「でも不安だよ・・・。」

「私は明日に備えて、早めに寝ます。」

「勉強しなくて大丈夫何ですか?」

「直前になってやってもあまり意味はないと思うので、テスト中に十全の力を発揮できるように、早めに寝ます。」

 食事の後、テスト勉強に勤しむ香奈子をしり目に、藍那はシャワーを浴びて直ぐに就寝した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 翌朝、2人とも7時に起床し、朝食を済ませて8時から始まるホームルームに間に合うように登校する。

 藍那はよく眠ったため、一切寝不足といった様子はない。しかし、対照的に香奈子はとても眠たそうである。


 新入生は今日から3日間、学力テストや身体測定、それに加えて、ストライク・フォースを実際に動かす講習など、様々なことを行う。

 SF学園は軍の管轄であるが、普通科の教科も学ぶ。そのため、実力テストは国語・数学・英語・社会の4つが行われた。

 時刻は12時半、昼休憩である。

「テスト・・・。駄目だった・・・。」

 香奈子は机に突っ伏してうなだれている。

「いつまでもそんな調子だと、5限目に遅れますよ?」

 藍那は香奈子と対照的に、朝に購買で買っておいたレーションをかじっている。

「藍那さんはテストできたんですか?」

「私はまあまあといったところです。それよりも、次は体力測定なんですから、昼食を抜いては支障をきたしますよ?」

 藍那に促され、香奈子は昼食をとり始めた。


 昼休憩は1時間であるため、5限目は13時20分から開始される。

 今日の5限目は体育で、体力測定が行われる。

 SF学園は入学するにあたり、生徒たちのだいたいの身体能力を把握している。しかし、軍管轄の学園であるため訓練も行われる。そのため、生徒たちの正確な身体能力を把握しておく必要があるのだ。

 学園内にはグラウンドが5つある。そのうち、今2組ガ集合しているのは2つ目の第二グラウンドである。

 体力測定として行われる科目は、持久走・反復横跳び・短距離走・上体起こし・握力測定と言った、普通科の高校でも行われているものばかりであった。

 軍管轄の学園に在学している学生とはいえ、まだ入学して間もない。当然、入学早々の体力測定では普通の高校の記録と大差ない。優秀な成績を残す生徒もいるが、それは中学生時代に部活動等でのトレーニングで鍛えている者たちである。

 しかし、一般の生徒とは次元の違う記録を残す生徒がいた。それは、仁科藍那である。

 藍那は、ほんの数年まで子供兵として戦っていた。戦場で生きていくのは、生半可な鍛え方では不可能である。それも、少女であるのだからなおさらである。

 養子となり日本に来た後も、体力を維持する以上にトレーニングを行ってきた。それにより、藍那は高校生の平均を大幅に上回る記録を出したのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一日の授業がすべて終わり、藍那と香奈子は自室で休んでいた。

「それにしても、藍那さんはすごく運動ができるんですね?」

「まぁ、私は日本に来た後もそれなりにトレーニングしていたもの。」

「そうなんですね。それはそうと、明日はストライク・フォースの訓練ですよね?私、すごく楽しみです。」

「訓練と言っても、午前は講習会、午後からは歩行練習だけでしょ?実際にSFを使った飛行や闘訓練とかの本格的な運用訓練はまだ先よ?」

「でも、やっぱり楽しみですよ!」

 香奈子はとてもうきうきしているようだ。

「ところで、藍那さんのコア適合率ってどれぐらいでした?」

「私は60%でした。香奈子は?」

 香奈子は目を丸くして驚いている。

 それは無理もないことである。通常、コアの適合率は平均30%程であり、高くても40%程である。にも関わらず、藍那は60%という平均を大きく上回る数値であるのだ。

「わ、私は、37%です・・・。」

 少し香奈子の表情が暗くなる。

「これでも、結構高い数値だと言われて、正直浮かれていたんです・・・。でも・・・。」

「あまり気にしなくてもいいと思いますよ。実際に適合率は25%あればSFが動かせるわけですし、普通にSFを運用するにあたって37%は十分な数値だと思いますよ。」

「そう、ですか?」

「ええ、適合率は訓練次第でどうにかなると思います。ですから、頑張っていきましょう。」

「はい!私頑張って訓練します!」

 香奈子は先ほどと違い、やる気に満ちていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 翌日は朝一番からグラウンドに集合していた。2組が集合しているのは、昨日と同じく第二グラウンドである。

 生徒はSFを装着する際に着用する特殊スーツ、通称『SFスーツ』を着用している。SFスーツの目ためは競泳水着を彷彿とさせるデザインをしている

 二列横隊の生徒の前には並んでいる、学園所有である訓練用SF『初風(はつかぜ)』6機と国防軍主力SF『摩耶(まや)』を装着した教官2人である。

 教官は埼玉の入間基地所属の現役軍人で、指導のために来ている。教官は2人とも女性である。それは、SFのコアとの適合率の関係上、国防軍のSF部隊の人口比率も9対1という構図になっているためである。

 講習と言ってもSFの安全管理の講習や捜査上の注意など、様々な項目がある。そのため、SFを用いての歩行訓練など、実際に生徒が操縦するのは10時を過ぎてからであった。

 SFはパワードスーツのような兵器であるが、大きさは2~3mととても大きい。その大きさ上、操作はマスタースレーブ式操作法が採用されている。

 そのため、握力制御などの微調整がとても難しい。よって、最初に行われる訓練は、卵を割らないようにつまむこと。そして、基礎的な運動を行い、SFの操作に少しでも早くなじむことである。


 講習の後、学園が所有している初風を使用しての機動訓練。その後、午後からは先に述べたように、基礎的な訓練が行われた。

 基礎的な訓練はやはりとても地味である。SFを装着してグラウンドを走り回ったり、SF使用しての格闘訓練。ましてや飛行訓練などを想像していた生徒からすると、とても残念この上ないだろう。

 そんな地味な作業は体力よりも精神力を消耗する。

 卵の殻と同じ硬さのボールをつぶさないように摘まむというのは、絶妙な力加減が要求される。卵を摘まむなんて簡単だろうと思うかもしれないが、SFの握力は軽く人間の10倍近い。そのため、少しでも力を入れすぎるとたちまち割れてしまうのだ。

 そんな作業に悪戦苦闘している生徒たちに対し、教官はいとも簡単に摘み上げる。

「やっぱり凄い・・・。」や「あんなに簡単そうに・・・。」といった声が生徒たちの中から聞こえる。難しさを実際に体験している為、教官がやっていることが如何に凄いかを身に染みて体感していたのだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「今日は疲れました・・・。」

 香奈子は自室のベッドに倒れこむように横になり呟いた。

「やっぱり力加減は、少し難しいわね。」

 椅子に腰かけた藍那も応える。

「でも、藍那さんは最後の方にはちゃんと割らずに摘まめてたじゃないですか。やっぱり、コツとかあるんですか?」

「コツという程じゃないけれど、機械越しに物体の感触を感じるようにするといいですよ。」

「・・・・・・。全く分からない・・・。」

「時期、分かるようになると思いますよ。教官たちも似たようなことを仰っていましたし。」

「うーん、やっぱり才能なのかな?」

「確か、偉人の言葉に『天才とは努力する凡才のことである』と言うものがあります。香奈子も努力すれば、きっとできるようになりますよ。」

 藍那に励まされ、香奈子は少し照れ臭そうにする。

「そういえば、明日もグラウンド集合でしたよね?今度は何をするんだろう。」

「明日の予定については、訓練着を着た状態で第二グラウンド集合としか連絡を受けていないので不明です。まぁ、なんにせよ。これからの学園生活で使うことになるであろうことの講習だと思いますよ。」

「そうですね。」

 他愛のない話をして、一日の疲れを癒すのであった。


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