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SF-ストライク・フォース  作者: 田んぼのアイドル、スズメちゃん
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入学編-1

 私は荒野に立っている。

 血と硝煙の匂い。そして、銃声のみがその場を支配している。どこを見ても、戦闘による黒い煙と赤茶けた大地が広がる。空は煙によって酷くくすんでいる。見慣れた光景である。現に、自分の手にも小銃が握られている。

 ここに立っている者は、例外なく戦うしかない。戦って敵を殺さなければ、自分が殺されるという血みどろの戦場。

 私たちは敵に何か恨みがあるわけではない。ただ成り行きで戦っているだけである。

 私に銃を教えてくれた大人はいつも「神のために戦えば、その行いが称えられ、神のみもとで救われるだろう。」と言っていた。それが本当なのか間違っているかなどどうでもいい。ただ、大人たちが敵だというものに銃口を向け、引き金を引く。それだけの単純な作業である。敵を殺せば褒められるし、食事にもありつけた。戦う理由なんてそれだけで十分だ。自分が生きるためなら、他人へ向かって引き金を引くことにためらいはない。

 何も考えずただ狙いを定めて引き金を引く。こんなくそったれな世界を生き抜くために・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「起きてるか?そろそろ目的地に到着の時間だぞ。」

 その声で夢の中から現実へ引き戻される。声の主は、優しそうな顔つきをした中肉中背の男である。髪は全体的に短く切りそろえられている。

「よく眠ってたな。これから入学式だって言うのに、藍那は一切緊張とかしないのか?」

先程から私に声をかけているのは私の保護者にあたる人物で、名前を仁科正純(にしなまさずみ)という。

 私の名前は仁科藍那(にしなあいな)、正純とは親子である。

 しかし、私と仁科の関係は実の親子ではない。孤児であった私を仁科は養子として迎え入れてくれたのだ。


 私は日本で生まれたわけではない。

仁科によると、本当の両親は2人とも国際援助に参加していた医者だったそうだ。私は両親が医師団として紛争地域へ行っているときに生まれた子供らしい。しかし、両親とも私の幼いころに紛争に巻き込まれて死亡している。

そんな私は、地元の住民によって育てられた。彼らからすれば、命を救ってくれた医者の残した子供を育てることで恩返しをしようと思ったのかもしれない。

しかし、彼らが住んでいるのは紛争地域である。自分一人の生活だって苦しいというのに、幼い子供を育てていくのは無理があった。

結果的に私は捨てられた。そんな私を拾ったのが反政府武装勢力であった。そこで必要最低限の戦うための教育、そして、銃の撃ち方を学んだ。

私が初めて人を撃ったのは10歳を迎えた頃であった。

 戦場では戦う意思と銃を撃つための腕さえ残っていれば、立派な兵士なのである。私と同じ様な子供兵は多くいた、しかし、戦闘を重ねるごとに1人また1人と少しずつ減っていくのだ。そして、また新しい子供兵が補充される。

 そんな環境で生き延びることのできていた私は運が良い方なのだろう。

 子供兵として13歳を迎えようとしていた時に、私にとっての転機が訪れた。戦闘中に私は敵軍に捕らえられた。そんな時、国際ボランティア活動で来ていた仁科に発見され、私の身元を調べ、結果的に仁科の養子となることで私は日本へ来ることが出来たのである。


 そんな私と仁科は今、高校の入学式の会場へ向かっている真っ最中である。もちろん今春から高校へ通うのは私である。といっても、この高校は日本の防衛省管轄であって、決して普通の高校ではない。


 学校名は『国立SF学園』という。『SF』とは『Strike Force』の略称であり、『Strike Force』とは戦闘を主な目的としたパワードスーツのような兵器のことである。このSFパイロットを育成することを目的とした学園、それが『国立SF学園』なのである。


 この学園には全国から成績の優秀なものだけが集められ、将来的には国防の要たる国防軍へ入隊するための教育を受ける場所なのである。

 そんなSF学園は日本本土にあるわけではない。八丈島から約15kmの位置に建造されたメガフロートが丸々学園なのである。大きさは約100万平方メートル、東京ドーム換算にすると21個分以上となる。

何故ここまで大きなメガフロートを用意したのか。それは、このメガフロートがアーコロジーを目指しているためである。それに加え、学園内での戦闘訓練なども行われるためにこのぐらいの広さ必要とするのであった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


メガフロートに学園があるために、学園へは空路を使うのが一般的である。例にもれず私たちも輸送機をチャーターして向かっている。

「そろそろメガフロートへ到着いたします。」

機長のアナウンスが聞こえる。輸送機の客室に乗っているのは私と仁科の2人のみである。

普通であれば、一個人が輸送機をチャーター何てまねはできない。しかし、仁科は元国防軍の軍人であったため、当時のコネを使ってチャーターしたらしい。

 窓から見えるメガフロートがだんだん大きくなってきた。


 駐機場へ着陸し、積み込んでいた荷物を私と仁科で降ろす。あたりを見回すと、自分たちの乗ってきたものと同じような可変翼機が多く泊まっている。

 メガフロートを学園にしている関係上、この学園は全寮制となっている。部屋には必要最低限の家具等が予め用意されているとのことだが、やはり人一人が棲み処を移すとなるとそれ相応の荷物量になる。

 そのため、2人で荷物を運ぶとなると大変である。

「事務室かどこかで台車を借りてくるよ。荷物は全部部屋に運んでおくから、藍那は学園を少し見てくるといい。」

「分かった。荷物は適当に部屋の中へ入れておいてくれればいいから。」

「了解だ。式に遅れるなよ?」

「分かってる。」

 短い会話の後、藍那は駐機場を後にし、校舎などの立っているエリアへ向けて歩いて行った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 特にあてもなくフラフラと歩いてきたはいいが、あまり入学式の会場から離れてはいけないので、適当に座れるところを探す。

 因みに、携帯端末にはこの学園の地図が入っている。地図は入学案内に際し、新入生に向けて配布されたものだ。

 会場は学園内で大講堂と呼ばれている大きめのホールである。

 タブレットタイプの携帯端末を取り出し地図のデータを起動させ、大講堂近くまでルート案内機能を使い向かう。


 大講堂の近くにちょうどよさそうな休憩場のような建物を見つけ、藍那は腰を下ろす。

 式は10時から始まる予定となっている。現在に時刻は9時前である。余裕を持って10分前には入場するにしても時間に余裕がある。ここから会場まで歩いて5分とかからないだろう。そのため、後45分程時間がある。

「こんなに時間があるのなら、部屋に荷物を入れるのを手伝った方がよかったのかもしれないな・・・。」

こんなことを呟きながら、携帯端末を操作してweb小説のサイトを検索し、予めブックマークを付けておいた小説を読み始める。

自分は日本で生まれ育っていないために、初めは日本語を話すことが出来なかった。しかし、今は日常生活に何の支障をきたさにレベルまでになっている。それに一躍買ったのは小説であった。そのため、今でも空き時間を利用しては小説を読む癖がついてしまっている。

(まだ時間もあるし、小説読んでたらすぐに時間もたつでしょ。)


 読み始めて20分ほどが経った時である。

「あのー、すみません。新入生の方ですか?」

 読書中とはいえ、声をかけられたらきちんとと顔を上げて応対するのが礼儀であるため、声の方向へ顔を向ける。

 そこには、藍那と同じく真新しい制服を着た少女が立っていた。

 少女はどちらかと言うと愛らしい顔つきをしている。彼女も藍那と同じく髪はロングの黒髪、それを三つ編みにしている。身長は140cmほどであるが、一際目を引く巨乳の持ち主で同年代の平均を大きく超えている。

「何でしょうか?」

 藍那の容姿は自他ともに認める目つきの悪さによって、とても人相が悪い。日頃から「怒ってる?」や「何でにらむの?」などと言われるほどである。

しかし、藍那の容姿は目つき以外は文句のつけようが無い程整っている。背中の中ほどまで伸ばした黒髪をポニーテールにし、前髪は目にかかるかかからないか程にしている。

総合的に評価するのならば美少女に含まれるだろう。

「ご、ごめんなさい。読書中に声をかけてしまって、本当にごめんなさい。だから、怒らないでください。」

 案の定怒っていると勘違いされていた。

 声をかけた張本人は、怒られたと勘違いしているためおどおどしている。

 「大丈夫ですよ。起こっていませんから。この目つきのせいで、よく怒っていると間違われるんですよ。」

「そうだったんだ・・・。よかった・・・。」

相手は怒られているわけではないと分かり、胸をなでおろしている。

「ところで、要件は何ですか?」

「あぁ、そうでした。入学式の会場ってここであってますよね?携帯の充電忘れてて、使い物にならなくなっちゃて・・・。」

「ここであっていますよ。式の開始は10時からなのでまだ時間はありますよ。」

「良かったです。」

どうやら、場所があっていたため、ほっとしたようだ。

「あっ!私の名前は西原香奈子(にしはらかなこ)っていいます。よろしくお願いします!」

「私は仁科藍那です。こちらこそよろしくお願いします。それはそうと、モバイルバッテリー使います?」

藍那が制服のポケットからモバイルバッテリーを取り出す。

「いいんですか?ありがとうございます。」

香奈子はモバイルバッテリーを受け取り、早速自分の携帯端末の充電を始めた。

「もう少ししたら会場に向かおうと思っているのですけど、ご一緒にどうですか?」

「構いませんよ。」

短い会話を交わし、香奈子は藍那の横に腰を下ろした。


 時刻は9時45分、入場するには丁度いい時間である。

「そろそろ移動しますか?」

「そうですね。行きましょうか。」

藍那の問いかけに香代子が同意を示し、2人揃って会場へ向かって歩き始めた。


 式の始まる10分前とはいえ、保護者席や来賓席はいっぱいになっている。生徒席も同じくほぼ満席となっていた。

「あそこなら2つ席が空いていますよ?」

どうやら香奈子が席を見つけたようだ。

「取られないうちに急ぎましょうか。」

会場の中辺りの席をとることが出来、後は式が始まるのを待つだけとなった。

 席につき、ひと段落したところで、「これより、2076年度入学式を始めます。」というアナウンスが流れた。


 式自体は普通の高校とあまり変わらなかった。

 長い校長の話、その後の来賓祝辞、そして、在校生と新入生のあいさつといったものだ。敢えて普通の高校との違いを上げるとしたら、それは来賓に軍の将校が来ていることぐらいである。

 入学式の後は各教室に分かれてのホームルームとなった。

 クラスは携帯端末に学生番号と一緒に式の終わりに送信された。

「仁科さんは何組になりました?」

「藍那でいいですよ。私は2組ですね。西原さんは?」

「私も2組ですよ。同じクラスですね。それと、私も香奈子で大丈夫ですよ。」

「では、香代子。あまり時間もありませんし、そろそろ教室へ移動しませんか?あまりゆっくりしていると、出口が混雑しますしね。」

「そうですね。」

 2人は式が終わってあまり時間が経っていないため、まだほとんど混雑していない出口へ向かって移動を開始した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 教室に入ると、自分達を含めてまだ5人しかいなかった。

 座席表は予め黒板に貼られていた。どうやら席順は学生番号順であるようで、藍那と香奈子は隣同士だ。

 2人とも席につく。まだホームルームが始まるまでは時間があるため、クラス内にいる5人で雑談となった。

「初めまして。私は西原香奈子っていいます。これからよろしくお願いします。」

「仁科藍那です。よろしくお願いします。」

「こちらこそ初めまして、私は岩谷雫(いわたにしずく)です。それで、こっちが木村さんで、こっちが工藤さんです。」

「初めまして。木村律子(きむらりつこ)です。」

工藤春香(くどうしずか)です。よろしくです。」

各々自己紹介を終えると、香代子が教室を見回し不思議そうに声を上げる。

「教室って何だか大学の講義室に似てますよね?」

岩谷・木村・工藤の3人が教室を見回す。

「確かにそうですね。言われるまで何とも思わなかったけど、確かに似てる。」

「やっぱり国立の学園だからかな?」

「逆に普通の高校ってどんな感じなの?」

「オープンスクールを見た感じ、こんな風に教室の後ろが前よりも高くなってるって感じじゃなかったよ。」

「へー。そうなんだ。私はオープンスクール行ったことないからわかんないよ。」

各々が会話をしている中、1人携帯端末を操作していた藍那が顔を上げる。

「どうも、ここは軍の管轄の学園である為、教室は軍大学と似せた構造になっているらしいです。学園のホームページに書いてありました。」

そう言い、端末を4人に見せる。

「本当だ。っていうか、やっぱり軍の管轄なんだ、ここ。」

そう言った雑談話しているうちに、教室にはだいぶ人が集まってきた。

「そろそろ時間だし席に戻るよ。」

3人とも席が前の方なので、ここで別れることとなった。


 少しして担任の先生と思しき人物が入ってきた。

 教壇に立ち、ホームルームを始める号令をかける。

「今からホームルームを始めます。これから2組の担任をする小鳥遊碧(たかなしみどり)です。よろしくお願いします。」

 小鳥遊の身長は平均よりも高いが、とてもおっとりとしている。そのため、威圧感というものは一切なく、とても親しみやすい印象を受ける。

「ホームルームと言っても、今日はあくまで顔合わせといったものですから、まずは自己紹介からしましょうか。では、出席番号1番の相澤さんからお願いします。」

最前列左端の席の生徒が立ち上がり、自己紹介を始める。

相澤佳代(あいざわかよ)です。趣味は―――」

順に自己紹介が行われ、次が藍那の番となった。

「それでは、次の人お願いします。」

起立し、一通りクラスの中を見回した後、口を開く。

「仁科藍那です。趣味は読書で、よくネット小説を読んでいます。こんな悪い目つきですが、怒っているわけではないので気軽に声をかけてください。以上です。」

 藍那が目つきの悪さを始めに言ったのは、以前の学校の教訓からである。1月にわたり、ずっと機嫌が悪いと思われ話しかけられないということが起きたのだ。

「では、次の人お願いします。」

「私は西原香奈子といいます。趣味は――」


 一通りの自己紹介が終わる。どうやらクラスは全員女子のようだ。

その後は明日以降の予定などの連絡なども終了し、自主解散となった。

「藍那さんは、これからどうするんですか?」

「私は荷物が寮に運ばれているはずなので、片付けもしたいですし、一度寮に行ってみようと思います。」

「私も行きます。」

2人はまだ賑わう教室を後にし、寮へと向かった。


 SF学園の寮は基本的に2人部屋である。

 2組は女子のみであるが、学園には少数ながらも男子生徒がいる。そのため、男子寮と女子寮とで棟自体が別れている。

 部屋は大体だいたい35平米ほどの広さで、バスルームとトイレは別々になっている。クローゼット、ベッド、机がそれぞれ2つずつ、そして、共用のテレビが1台となっている。

 部屋の広さやレイアウトは女子寮も男子寮も大きな違いはないが、生徒の割合上子寮は女子寮よりも小さい。


 寮の部屋に到着し、ルームネイトの名前をお確認する。

 予想はしていたが藍那のルームメイトは香奈子であった。

「まさか藍那さんと同じ部屋だったとはね。改めてよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしく。まぁ、考えてみると私の出席番号が17で香代子が18。同室になる可能性は高いわね。」

「確かにそうだよね。それよりも、中に入ってみようよ!」

「分かった。」

 カードキーを差し込んで扉を開ける。そこには、2人分の段ボール箱の山があった。

 藍那は自分が仁科に荷物を適当に入れておいてくれと言ったことを思い出し、頭を抱える。

(確かに適当に入れておいてとは言ったが、これは予想外だ。どうしようか。何をするにしても、まずは片づけからだ・・・。)

藍那が頭を抱えている横で、同じように香奈子も頭を抱えていた。

「藍那さん、どうしよう!?こんな量の荷物、今日中に片付かないよ!」

「まぁ、ここにいても事態が好転するわけではありません。とりあえず、中に入ってこつこつ片づけをしましょう。」

 各々の荷物を箱から出し、衣類をクローゼットに入れたり、季節外れのものはベッド下の収納スペースに入れたりと、地道に荷物を片づける。

 開始から2時間後、ようやく一段落することが出来た。後は段ボール箱を寮の廃品回収場に持って行けば終了といったところである。

「片づけもほとんど終わりましたし、ずっと制服でいるのも何なので着替えません?」

香奈子が部屋着と思しき少しゆったりとした服をとり出だし、着替えは始める。

「一応確認するのだけれど、私がいても気にならないの?」

「特には気にしないですよ。だって、女同士ですし。流石に異性の人がいたら気にしますけど。」

「そうなの・・・。じゃあ私も遠慮なく着替えさせてもらうわ。」

 藍那も部屋着を取り出し、着替えるべく制服を脱ぐ。すると、昔付いた傷跡が残る素肌があらわになった。

「その傷跡、どうしたんですか?」

「私は以前、子供兵として戦っていたの。傷跡はその時のものよ。」

 香奈子は藍那に何と返したらいいのか分からず、困惑していた。


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